判断のポイントは“手持ちのお金を何に使うか”
住宅ローンは「頭金」を入れた方がいい?「フルローン」の方がお得?
住宅を購入するうえで、「頭金は入れた方がいい」という説と「フルローンにした方がお得」という説がある。果たして、どちらが正しいといえるのだろうか。
住宅購入を目指して頭金を貯めている人もいるかもしれない。予定通り頭金として入れるべきか、手元に残してフルローンにするべきか、その判断のポイントを家と住宅ローンの専門家・千日太郎さんに聞いた。
住宅ローン控除の恩恵を受けやすい「フルローン」
「フルローンでお得になるケースは確かにあります。住宅ローン控除の上限を超えない金額で、住宅ローンを組んだ場合です。特に、住宅ローンの金利が1%未満であれば、控除額(ローン残高の1%)の方が大きくなるため、住宅ローン控除の上限ギリギリまで借りた方がお得になるといえます」(千日さん・以下同)
「住宅ローン控除」の年間上限
・一般の住宅…40万円(売主が個人の中古住宅等 の場合で消費税が非課税なら20万円)
・認定長期優良または低炭素住宅…50万円(売主が個人の中古住宅等の場合で消費税が非課税なら30万円)
住宅ローン控除は、ローン残高の1%が控除される制度。新築の一般住宅であれば、残高が4000万円の場合に上限の40万円が控除されるということになる。裏を返せば、4000万円を超えてローンを組んでも、最高40万円までしか控除されないというわけだ。
「そのため、一般の住宅で4000万円を超える場合は、頭金を入れてローン残高を4000万円にするという方法もあります。ただし、住宅ローン控除だけに振り回されるのは少し危険です。重要なポイントは、ローン返済中に家を売却することになった場合に、売ったお金でローンを完済できるかどうかです」
新築物件は住み始めた時点で中古物件となるため、一般的には購入した価格より売却する価格が下がる。万が一、返済が難しくなって売却しなければならなくなった時に、ローン残高より売却価格の方が低ければ、ローンだけが残る、もしくは追加で資金を捻出して完済するという事態になりかねない。
「不動産流通経営協会が行った『不動産流通業に関する消費者動向調査<第25回(2020年度)>』によると、売却価格が購入価格を下回った世帯は51.4%、上回った世帯が42.6%でした。半数は売却時に損失が出てしまう可能性があるといえるのです。そのような事態を避けるためにも、ある程度頭金を入れておいた方が安心といえるでしょう」
「頭金」を入れておくことで安心感を担保
では、頭金をどの程度入れておくと、安心といえるのだろうか。
「多めに入れれば安心感につながりますが、頭金を入れすぎると住宅ローン控除の恩恵を受けにくくなるので、その判断は難しいところ。あくまで一般的な目安ですが、住宅価格の1割くらいと考えるといいでしょう」
1割という目安は、「不動産流通業に関する消費者動向調査<第25回(2020年度)>」の結果から見えてくるもので、住宅の購入価格と売却価格の平均額を比較すると、売却価格の方が1割ほど低くなるからだという。そのため、1割ほど頭金を入れておくことで、売却しなければならなくなった際にも、ローン残高との差額を抑えられる可能性が高くなるというわけだ。
「1割はあくまで目安なので、1割分の頭金を入れても売却価格が購入価格を下回ってしまう場合もあれば、頭金を入れなくても売却価格が上回る場合もあります。頭金を入れたら必ず安心というわけではありませんが、住宅購入に向けて、ある程度のお金を用意しておくことは重要といえるでしょう」
確保するべきは「生活資金」と「手数料」
住宅ローンを組み、月々一定額を返済していくのであれば、住宅購入時にまとまったお金を用意しておく必要はなさそうに感じるが、ある程度のお金を用意しておく理由とは?
「家を買う際には、住宅そのものの費用とは別に手数料が発生するからです。一般的に、住宅購入にかかる手数料が住宅価格の3%程度、住宅ローンを組む際にかかる手数料が住宅価格の2%程度なので、合計5%程度。4000万円の住宅であれば、200万円程度の手数料が発生するといえます。さらに、引っ越し費用や新調する家具の費用などもかかることを考えると、それなりの準備が必要になるのです」
金融機関によっては、手数料も住宅ローンに含めて融資してくれるところがあるが、千日さんは「少なくとも手数料は自己資金で賄えるようにした方がいい」と話す。
「手数料の分もローンに上乗せするということは、ローン残高が住宅の購入価格を超えるので、売却価格が残高を上回りにくくなってしまいます。ですから、できれば手数料としてかかる費用はあらかじめ準備しておくことをおすすめします」
手数料を準備したうえで、頭金を入れられるか判断していくといいそう。
「新居で生活し始めるタイミングで、預貯金0円になるのは危険です。住宅を購入した直後に事故や病気といった不幸なアクシデントに見舞われ、お金が必要になることがあるかもしれません。非常事態のための資金を残した状態で手数料や頭金を払えるのか、考えることが重要です。頭金を入れるかフルローンにするかによって、お得度が変わる可能性はありますが、生活が破綻しない計画を立てることを優先した方がいいでしょう」
千日さんの話を参考にすると、住宅購入にかかるお金や住宅ローンについては下記のように考えていくとよさそうだ。
(1)購入後の生活に必要な資金を確保する
(2)住宅購入にかかる手数料を捻出する
(3)余ったお金を頭金に充てる
この順番で考えていくと、そもそも頭金を入れられるのか、フルローンにしなければならないかが見えてくる。そして、フルローンにするのであれば、想定している住宅価格の見直しなども発生するかもしれない。
「住宅価格の1割分の頭金を入れると安心とは言いましたが、万が一の事態を想定した場合の話です。住宅ローンでもっとも重要なことは、毎月一定額を返済し続け、予定の期間で完済すること。住み替えの予定がなく、無理のない返済計画が立てられているようであれば、毎月の支払いを続けることに注力していけば問題なく返済できるでしょう」
つい「お得」という基準で考えてしまいがちだが、改めて住宅購入にかかる費用をひとつひとつ洗い出すことで、自分や家族に可能な返済スケジュールが見えてくることだろう。
(有竹亮介/verb)
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千日太郎
1972年生まれ、公認会計士中村岳広事務所所長。匿名かつ公認会計士の資格も伏せて開始した「千日のブログ」が評判を呼び、住宅金融と不動産分野で人気の高いブロガーとして現在に至る。一般の人からの相談に無料で回答し、YouTubeで公開する「千日の住宅ローン無料相談ドットコム」には歯に衣着せぬ的確なアドバイスに相談依頼が絶えることがない。2021年の最新著書に『住宅破産』がある。