2040年にはガソリンからの脱却を明言
「エンジンのホンダ」は、EVにシフトする自動車でどう戦うのか
ホンダといえばエンジン――。車好きなら、そう考える人も少なくないだろう。F1では、1980年代からホンダのエンジンが席巻。2021年を最後にF1からは撤退するが、そのラストイヤーでレッドブル・ホンダが5連勝を飾るなど、強さは今も健在だ。
今後、自動車の電動化が進めば、エンジンはなくなり、モーターへと切り替わっていく。それはホンダの資産が失われる可能性をも意味するが、決して同社は手をこまねいてはいない。すでに明確な電動化への道筋を描いているという。
そのひとつが、2020年に発売された電気自動車(EV)の「Honda e」だ。EVは航続距離(一度の充電で走れる距離)が話題になるが、EVのあり方を改めて追求する中で、航続距離にとらわれない、本当に便利なEVは何かという視点で作った車だという。
近年よく聞かれるキーワードをテーマに、各企業を取材する連載「マネ部的トレンドワード」。EV編の3回目となる本記事では、本田技研工業の中村圭太郎氏と岩城香穏理氏に話を聞く。
新発売のHonda eは、「街なかベストを追求したEV」
2021年4月23日、ホンダは、2040年までに世界で販売する四輪車のすべてをEVと燃料電池車(FCV)に切り替えると発表した。そこに至るロードマップも示されており、「北米と中国では、2030年にEVとFCVの新車販売比率を40%、2035年に80%、そして2040年に100%を達成するのが目標です」と中村氏。
北米では、提携しているGM(ゼネラルモーターズ)のバッテリーを使ったSUVタイプのEVを2024年モデルとして2車種投入する予定。また中国では、現地の合弁会社と10車種のEVを5年以内に投入するという。
「日本については、2030年までにEVとFCVの比率を20%に。それ以降は北米・中国と同じ比率で100%を目指します。日本はハイブリッド車(HV)がかなり普及しており、EVへの転換にはどうしても時間がかかる。そのため、描く戦略もやや異なります」(中村氏)
すでに、ホンダの電動化の取り組みは始まっている。その象徴が、2020年10月に発売されたEV「Honda e」だ。EVとしての使い勝手の良さを重視し、街なかで使うモビリティして、もっとも効率の良い航続距離や充電時間を考えたという。岩城氏は「街なかベストを追求して生まれたEV」だと表現する。
「一度の充電で400km以上走れるEVも市場にありますが、その分、大きなバッテリーを搭載しており、充電に時間がかかります。通常充電なら10時間以上、急速充電でもフル充電には時間がかかります。Honda eは200Vの普通充電で6~7時間ほどで充電でき、急速充電なら30分で8割近く充電可能。航続距離も250km以上です」(岩城氏)
すると、就寝中かつ夜の電気料金が安い時間帯に充電が済み、翌朝には100%で乗ることができる。航続距離も、街なかで1日乗るには十分だろう。遠出の場合は、途中充電が必要になるケースもあるが、短時間で一定の充電ができるので、休憩や買い物の間に大方行える。ドライバーの生活スタイルをイメージし、バランスを重視したEVなのだという。
もうひとつ、Honda eの特徴として「後輪駆動」が挙げられる。現在では、流通している車の大多数が前輪駆動だが、後輪駆動は小回りが利き、運転がしやすい。街なかで乗る車を想定しているからこそ、この形になった。
次世代バッテリー「全固体電池」の生産技術の検証も2021年度中に
今後、ホンダがEV開発を進めるにあたり、いくつかのカギがある。ひとつは「e:アーキテクチャー」。自動車を製造する際、ガソリン車ならエンジンやその駆動を伝えるドライブシャフト、ガソリンタンクなどを、車の枠となるプラットフォーム(車台)に載せる。
EVはモーターやバッテリーが使われるため、ガソリン車とはプラットフォームの設計が大きく異なる。EV専用のものが必要になるとのこと。そこで、ホンダは自前のプラットフォーム「e:アーキテクチャー」を作っていくという。
「そのほかに重要なのがバッテリーです。今後、EVの車種を増やす上では、蓄電力の向上や小型軽量化が不可欠。その意味では、次世代バッテリーと呼ばれる『全固体電池』の実用化が必須です。ホンダも自主的に全固体電池の研究を進めており、2021年度中に実証ラインでの生産技術の検証に入る予定です」(中村氏)
さらに、ホンダはEVにシフトすると同時に、自動車の新しい価値を作ることも考えているという。
「乗っていて楽しい車を作ることが、移動の喜びにつながります。その意味では、航続距離や利便性だけでなく、車内の空間価値を高めることもポイント。Honda eでも、ダッシュボード面に5つのスクリーンを水平配置し、よりワイドな画面で情報を見るのはもちろん、運転席側と助手席側で画面の入れ替えを可能とするなど、新しい機能を取り入れました。今後も車内にさらなる付加価値をつけていければと思います」(岩城氏)
ホンダが進めるEV戦略。その先にあるのは、同社が掲げる「ホンダeMaaS」構想だ。同社は四輪車のほか、二輪車やジェット、ロボットや耕運機など、さまざまな商品を扱っている。これらの電動化を進めていくと、世の中にあるホンダ製品がその時々に保有している電力は相当なものになる。加えて、充電機器や可搬バッテリーも作っている。
「そうした製品が持つ電力状況をデータ分析しながら、余剰分を発電事業者に供給するなどのエコシステムができればと思います。ホンダの製品がお客さまの価値を向上しつつ、持続的な社会にも貢献していくのが、eMaaS構想です」
エンジンからの脱却は、ホンダにとって大きな挑戦だ。しかし、エンジン分野で培ってきた技術力は、EVやモーターにおいてもきっと輝くだろう。「技術力のホンダ」は、EVにおいても存在感を発揮していく。
(取材・文/有井太郎 撮影/森カズシゲ)
※記事の内容は2021年8月現在の情報です