【日経記事でマネートレーニング19】投資ニュースを読む~企業と市場をつなぐIR
提供元:日本経済新聞社
このコーナーでは日経電子版の記事を読むことで資産形成力のアップを目指します。実際のニュースやコラムを引用し、初心者には難しく思えるような用語をかみくだき、疑問点を解消していきます。金融・経済ニュースをどれだけ読みこなせるかは投資のリテラシーそのものです。日々の情報にリアルタイムで動ける実践力を養いましょう。
19回目は「IR」(アイアール)を取り上げます。投資関連の雑誌名にもあるIRです。統合型リゾート=IRという観光用語ではないのでお間違えのないように。
どこの上場企業にもたいてい組織やチームとして存在するIRですが、じつは深くて広くて難しい概念です。2冊程度の書籍も書けるほどです。サンプル記事にも登場しますが、日本IR協議会なる団体が上場企業を表彰するイベントが存在するほどですから、重要なキーワードであることもうかがえます。
適正なIR活動、企業価値向上や株主離脱予防も
IRは企業とマーケットをつなぐかなめの広報活動です。会社の商品やサービスをアピールするのがPR、会社の「価値」を伝えるのがIRというふうにまずは理解しましょう。
サンプル記事をご覧ください。
日本経済新聞社の関連団体に日本IR協議会があり、毎年その1年間で優れたIR活動に取り組んだ企業を表彰しています。記事の見出しに注目してください。「トップが情報発信」とあります。コマーシャルでも社長がたまに登場しますが、IRでは社長が前面に立つのが常識です。
なぜでしょうか?
相手が株主、つまり企業のオーナーだからです。所有者になってくれる投資家を探す活動ですから、経営陣よりステータスは上位になります。また、そういうひとたちに株主になるかどうかの判断材料を伝える活動なので、説明内容への責任(アカウンタビリティー)を果たせる立場にあることが条件になります。すると企業では代表権のもつ社長やCEO(最高経営責任者)などに限られます。IRが優秀ということは経営トップも優秀ということと同義です。
わかりやすさ、探しやすさから「非財務情報」発信にも要注目
IRの実体を知るには企業のホームページにアクセスするのが一番です。「投資家・株主のみなさまへ」といったような案内をたどってください。初心者はまず(1)開示情報が整理して探しやすく網羅されているか(2)開示資料がわかりやすく理解を深めやすいよう工夫されているか――をチェックしてください。中級レベルでは(3)開示内容と実際の経営・業績とにかい離がないか(4)投資判断を担保できる開示内容か――なども目配りしてください。最新のIRでは(5)ESGなど非財務情報(=見えざるコストや企業価値)」の発信にまで踏み込んでいるか、が焦点になってきています。
①IR=Investor(投資家向け)Relations(広報)。決算説明会などを総称してIR活動という
②トップが積極的に情報発信=IRは会社のオーナー、もしくは将来のオーナーに対して情報を発信するので通常、社長など経営トップが対応する
③長期的な経営戦略=長期のリスク要因についての開示、説明は、中長期の投資家の判断材料になる。安定保有してくれる株主を求めるときの企業のメッセージともいえる
④コロナ影響額=誰もが知りたい足元の損失やその発生の可能性を開示、説明することで株主の不安感を和らげ、離脱(株の売却)を防ぐ効果がある
⑤投資家の関心=投資家の求める情報。ただし、過度に投資家寄りの情報を流すことは企業価値を下げる場合もある
⑥情報開示=偽りのない財務情報を投資家に平等に速く伝えること。1990年代後半までは実質的な粉飾決算が当たり前のように横行し、個人よりも銀行や機関投資家に優先して情報提供が行われていた。会計の大改革とIR活動の普及で是正が進んだ
⑦対話=これまでのIRは企業から投資家へ一方的な情報開示だったが最近は投資家の声を反映させる双方向のIRも増えている
⑧決算説明会資料=決算短信以外に会社が自主的に作って配布する補足資料。図解やグラフを多用して、わかりやすくまとめ直されていることが多い
では、いつものようにかみくだいて直した記事をみましょう。
「あなたがそんなひとだったなんて!」――陳腐なドラマではないですが、分かり合えないと男女は不幸な結果が待っています。分かり合えると男女問わず絆が深まります。
企業と個人投資家はドライで薄情ですが、適正なIRが橋頭保になり、結びつきを強くします。最近は東京証券取引所の制度変更もあり、株主を増やそうとIRに力を入れている企業もあるようです。投資家が離れない(定着)、あるいは新規株主が増えるということは企業価値の増加や株高を意味します。株式投資力をアップしたいのであればIRの研究はカギになるでしょう。
(日本経済新聞社 コンテンツプロデューサー 田中彰一)
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