不景気の株高目立つ
コロナ問題、不安定な政権など、問題は山積み
提供元:アイザワ証券
景況感は国によってバラバラ
東南アジアでは、今年春先あたりまで、比較的新型コロナウイルス感染拡大が抑え込まれていた。しかし、直近は各国とも感染者増加ペースが加速、これまで最も多かったユーロ圏やインドを上回るペースで感染が拡大している。ワクチン接種の遅れ、また、有効性の低いワクチンの接種、祭事実施に伴う人流の増加などが感染者を増加させているといえる。
足元では、各国が相次いで実施した厳格な行動規制が奏功して、感染状況改善の兆しをみせているが、まだ不安定さが残っている。各国の状況を確認してみたい。
東南アジアのみならず世界でみても、これまで、コロナ退治の優等生として高成長を維持していたのがベトナムだ。2020年4-6月期のGDP成長率は、6.61%増と、アジア新興国では、フィリピン:11.8%増、中国:7.9%増に次ぐ高成長であった。
世界を見渡すと、現時点で直近のGDPを発表している国はまだ多くないが、ベトナムはそのうちのひとつだ。落ち込みのひどかった前年同時期との比較とはいえ、高成長であったといえよう。
1月末にベトナム・ハノイで実施された第13回共産党大会で、指導部の人事、中長期目標などが決定、政権安定につながっている。また、中国からの生産拠点移管も含めて、海外からベトナムに対する投資が拡大していることも、ベトナムの高成長要因のひとつになっているといえよう。
共産党大会のあたりまでは、高い成長率、経済の安定が評価されていたベトナムだが、4月あたりからはこれまでは抑え込みできているとみられていた新型コロナウイルス感染者が急増、対応に追われている。
ベトナム保健省の集計によると、9月9日時点の市中意感染者数は4月下旬以降の第4波の累計で、57万人強に達している。ホーチミン市では、操業を停止していた工場が再開し始めているが、多くの工場労働者が地元に帰っているため、操業再開後も人手不足状況になっているケースが目立つ。これまで人海戦術によって生産活動を行ってきた多くのベトナム企業にとって、人手に頼るのが難しくなってきた。
おりしも、1月の共産党大会では、ベトナムの中長期目標として、「高付加価値産業の育成」「ハイテク工業の強化」などの目標が掲げられている。このたびの新型コロナ第4波は、ベトナムの産業高度化、高付加価値産業育成を進展することになりそうだ。
フィリピンでも、7月下旬あたりから新規感染者の再拡大が目立っているほか、病床不足も深刻になっている。フィリピンには、サービス業や建設業など、インフォーマルな産業に従事している人口の割合が多く、経済への影響は深刻だ。
8月6日には、首都圏・周辺州の制限措置を最も厳しい水準に引き上げたが、その直後の8月21日には、首都圏・周辺州における外出・移動制限を1段階引き下げる、と発表した。今後も、経済へ配慮しながら難しい政策運営が続くことになりそうだ。
なお、フィリピンに関して、もうひとつ注目するポイントがある。2022年5月に実施される大統領選挙だ。
同国の選挙制度では大統領の任期は1期(5年間)と規定されている(再選禁止)ため、現在のドゥテルテ大統領は、次の大統領選挙に出馬できない。現時点では確定していないが、同氏の長女であるサラ氏が大統領選に出馬、同氏は副大統領に出馬する、という意向を表明した。
8月に実施された世論調査では、大統領選の支持率はサラ氏、副大統領選の支持率はドゥテルテ氏がそれぞれトップとなっているが、選挙後のドゥテルテ氏の影響力がどのように変化してくるか、という点からも、この度の選挙の行方が注目される。
直近は景況感と株式市場の状況の乖離目立つ
このように、コロナ対応に苦しんでいる各国だが、景況感の悪さ、先行き不透明感が強い割には、株式市場は比較的好調だ。
ベトナムでは、7月はじめにベトナムVN指数が史上最高値をつけたあと一時は反落していたが、その後徐々に戻ってきた。ベトナム国内で8月に開設された証券口座数は、12万件強と単月としては、今年6月に記録し14万件余りに次ぐ過去2番目の多さとなっている。明らかにベトナム国内において株ブームなっているといえよう。今後、経済活動の本格化、産業の高度化の進捗、ここ数年当局が進めている株式市場の改革の行方などに注目していきたい。
フィリピンにおいても、直近は経済と株式市場の乖離が鮮明になっている。主要株価指数の8月の月間騰落率をみると、フィリピン総合指数は、+9.3%と、アジア新興国のなかでは、値上がり率が最も大きかった。決して景況感が良好とはいえないなかでの株高で、不景気の株高といえよう。ベトナムと同様に、フィリピンも、景況感を伴った株高に移行できるか、任期が1年を切ったドゥテルテ大統領の政策運営が注目される。
(提供元:アイザワ証券)