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空飛ぶクルマはなんと4年後にデビュー。空の夢物語を可能にする、JALのDX(前編)

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JALといえば、日本でもっとも古い航空会社として約70年もの歴史を持つ。上質なサービスを提供する日本品質のフルサービスキャリアとして、いささか保守的な印象があるかもしれない。

が、経済産業省と東証が上場企業のうちデジタル化への取り組みを評価する「DX銘柄2021」に選ばれた28社のうちの1社。

すなわち新技術を事業に取り入れることにかけては、日本有数の企業といえる。たとえば空飛ぶクルマにドローン空輸、手ぶら旅行……JALの次なる一手は、夢物語の実現だった。

2021年5月に発表されたJALの中期経営計画では、DXを成長のための重要項目に位置付けている。

DXとはデジタルトランスフォーメーションの略で、自社の事業や提供サービスをデジタル化によって抜本的に改革することを指す。近年の技術革新の潮流は、伝統的な航空会社にあっても無視はできないということだ。むしろJALは積極的に推し進めている企業といえる。

国と共同で、ドローンの商用利用を推進

大雑把にいうと、「人や荷物を飛行機に乗せて飛ばす」というのが従来の航空会社における事業モデル。しかしJALのDXは、より空を身近にするという。ドローンや空飛ぶクルマが縦横無尽に飛び交う未来もまた、JALが描くDXの一環だ。

「JALは、2023年度にドローンによる物流事業を、2025年度に空飛ぶクルマによる旅客事業を実現する予定です。それぞれ「JAL DRONE」「JAL AIRTAXI」と銘打って全国に展開していくことを考えています。現在は実証実験を進めているフェーズです。ドローンは実際に飛ばして課題の把握やノウハウの蓄積を進めており、さっそく2022年度からは事業化を見据えた実証実験を奄美で行うことを決めました。空飛ぶクルマについては調査研究や理論検証を進めているところです」

JAL デジタルイノベーション本部エアモビリティ創造部の木下隼斗さんは熱く語る。改正航空法の施行に伴い、2022年度以降にドローンのレベル4と呼ばれる有人地帯における補助者なし目視外飛行が可能になる。そこでドローン空輸を事業化し、大阪関西万博が行われる2025年度に空飛ぶクルマでの人員輸送の実現を目指す。

ドローン空輸はすでに実証実験の段階だ。モノが空からやってくる映像を観たこともあるだろう。例えば2020年11月には、長崎県上五島で実証実験を行い、ドローンで空輸した新鮮な鮮魚をJAL便に接続させて東京まで運び、東京のレストランなどに提供した。「運送事業者や通信事業者など、いろいろなパートナー企業を探しながら、業態について模索しています」と、国と一体となって枠組みの制定を進めているという。

空飛ぶクルマは2025年度。しかも、お手ごろ価格を予定

対して空飛ぶクルマも実験段階ではあるが、すでに人を乗せてどこかへ運ぶということは、技術的には実現可能なレベルまできているらしい。

木下さん「空飛ぶクルマの機体もまだ開発中のものが多く、JALとして実機を使って国内で実証飛行を行ったことはまだありません。プロペラを複数持つマルチコプターなのか、飛行機型の垂直離着機のようになるのか、形状も検討課題です。小回りの利くマルチコプター型と航続距離の長い固定翼型の2つのモデルがあり、ユースケースにより機体の使い分けを検討しています」

検討課題は膨大だが、“考える”ばかりではない。すでに機体選定の準備までこぎ着けている。2020年2月、住友商事と共同で米国の大手ヘリメーカー・ベル社と提携したほか、同年10月にはドイツのボロコプター社とも提携。各社の空飛ぶクルマのサーベイを行っているというが、そこには新しい分野ならではの難しさがあると語る。2021年8月に、ニューヨーク証券取引所の前に、トヨタも出資するベンチャー企業・Joby社のエアモビリティが上場を祝って展示されたことが話題になったが、新規参入が続々続く分野なのだ。

木下さん「すでに成熟している飛行機と違い、空飛ぶクルマはスタートアップ企業が数多く参入する玉石混淆の市場でもあります。まさに今現在も開発が進むなかで、機体選定の難易度は高いですが、最終的に採用する機体は国の認証も受けますし、JALとしても必ず安全に飛行させることのできる機体を選定しますので、皆さまには安心してご搭乗いただけると考えています」

ちなみに気になるお値段だが、タクシーより値は張るが、ヘリをチャーターするよりは安価で、利用しやすい価格設定を考えているとか。目指すのは「空をもっと身近に感じていただくこと」だという。

木下さん「お客さまへの訴求力があり、社会需要が高まる価格設定を検討しています。空からの観光、さらには医療や災害救助など、さまざまな活用方法も考えています」

かつてない手軽な空の移動手段が実現するようだが、機体に加えて欠かせないデジタル概念があるという。それは“MaaS”なるもの。Mobility as a serviceの略で、スマートフォンなどで手軽に、事業者をまたがる移動の手配から決済までを一元化して行うという考え方だ。

木下さん「MaaSと空飛ぶクルマは切っても切れない関係です。2025年段階では難しいかもしれませんが、スマートフォンひとつで移動の手配から搭乗手続きまでが完了し、すぐに空の移動ができるという未来が、やがて必ず訪れます」

MaaS技術なら、フライトを含めたあらゆる移動を一元化

このMaaSも、DXの一環。しかも、すでにサービスインに近い段階までこぎ着けているのだ。たとえば旅行を自分で手配する場合、フライトの予約から、地上交通を調べたり、宿泊予約サイトでホテルを調べたりと、サービス予約のタッチポイントが5~6個にのぼることは珍しくない。それをひとつに集約する取り組みとして、JALはJR東日本、Uberとパートナーシップ契約を締結した。

まずJR東日本とは、ハワイ旅行での実証実験を行う予定だ。協業の枠組みでは、旅マエ・旅ナカ・旅アトの計画づくりのため、アプリなどを活用し、フライトと鉄道移動の垣根を取り払ったスムーズな移動体験を目指すとか。

鉄道会社は、フライトにおける旅マエと旅アトとの親和性が高い。自宅と空港を結ぶのがJR東日本、JALは空港から先の移動手段を提供しており、互いのニーズが合致したことから、実施が決まったという。現在は日本の旅行客の滞在機会が多いハワイを実証実験の場所に決定し、現在サービスのスタートに向けて着々と準備を進めているそうだ。

一方、Uberとの提携については、すでに試験的にサービスが開始。北米・ハワイなどの到着空港から目的地までの配車リクエストのほか、目的地におけるフードデリバリーの手配など、Uberのサービスを「JALアプリ」から利用可能だという。JAL デジタルイノベーション本部事業創造戦略部MaaSグループの鈴木 遥さんは、「初めて行く海外でも、すぐに交通手段が確保できるサービスです」という。

鈴木さん「北米の主要空港に到着したときに、JALアプリを開いていただくと、ご搭乗いただいたフライトのタイムラインにUberのアイコンが表示されます。それをタップすればUberのサービスに遷移し、すぐに現地での移動手段を手配できます」

人のみならずモノの移動も。DXが実現する未来の“移動”

加えてMaaSは“人の移動”だけではない。2020年12月、JALは物流ITベンチャーCBcloud社が提供する配送マッチングプラットフォーム「PickGo」を活用し、羽田-高松線を対象に、フライト前に大手町で早朝に預けた荷物が、その日の夕方に宿泊先の高松のホテルに届くというサービスの実証実験を行った。

石岡さん「たとえばスーツケースは、自宅からホテルまで開けないことが多く、必ずしも一緒に持ち歩く必要はありません。とはいえ当日中に国内で荷物を配送するサービスはほとんどありません。そこで自宅近くのコンビニや駅などで荷物を預けると、夕方にホテルに着いている……といったサービスを2022年中に提供できるよう準備しています」

手元のスマートフォンでスムーズに行き先と移動手段を決め、荷物を最寄りのコンビニから送れば、あとは体ひとつ、エアモビリティで移動。従来であれば半日かかったものが、数時間で荷物とともに目的地に到着しているような未来が、DXを駆使してできるようになるのだ。そのような未来は、もう間もなく訪れるのかもしれない。

 

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