銀行のノウハウはデータ管理にも通用する

個人のデータが未来を変える仕組み。三菱UFJ信託銀行の「Dprime」とは

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銀行といえば「お金」を預かる機関だが、ここにきて人々の「データ」や「情報」を預かるサービスがスタートしている。三菱UFJ信託銀行の「Dprime」である。

私たちがネットやアプリを利用すると、個人情報や行動履歴などのデータがたまる。Dprimeはそういったデータを管理し、個人の同意のもとに企業へ提供。データを渡した個人は企業から対価を得られるのが特徴だ。

このような仕組みは「情報銀行」と呼ばれ、近年注目されてきた。その領域に日本の金融界の本丸が乗り出した形だ。数年前からMUFGグループ内で事業構想はスタートしており、東証マネ部!でも一度取材した。

長い構想を経て今年ローンチされたDprime。改めてその仕組みや、このサービスで目指すものについて、三菱UFJ信託銀行 経営企画部 デジタル企画室 調査役の大沢賢輝氏に教えてもらった。

人気観光地の割引プランも登場。データ提供でもらえる「ギフト」とは

Dprimeが生まれた発端には、ネット社会で高まる「個人データ管理への不安」があったという。

「ネットやアプリを利用する中で、情報漏えいや自分のデータを誰がどのように使っているか見えないことへの不安が強まっています。知らない間にデータが第三者に渡っているケースも少なくありません。Dprimeは、そういった個人データをユーザーがきちんと管理でき、データを渡す企業を選べるサービスになっています」

具体的なサービスの仕組みを見ていこう。Dprimeは、ユーザーの本人情報やGPSなどの行動履歴、ライフスタイルや資産情報といった個人データを預けることができる。どんなデータを預けるかはユーザーが選択できるので、意思と関係なくデータが管理されることはない。

「預けた個人データを利用したい企業があれば、Dprimeを通じてオファーが掲載されます。あわせて、オファーを受けた場合にユーザーがもらえる対価(ギフト)も設定。オファーに応じれば、Dprime内の個人データを提供し、かわりにユーザーは企業からギフトを受け取る仕組みです」

7月1日から本格スタートしたこのサービスは、すでに40近いオファーが生まれている。たとえば藤田観光では、ユーザーへのギフトとして「箱根小涌園 天悠」での割引プランを用意。そのほか、スパリゾートハワイアンズのオファーなども登場。魅力的なギフトが増えている。オファーを出す企業の多くは、新商品や新サービスの開発など、マーケティング目的でデータを求めるケースが多いようだ。

データの提供が、自分の求める商品やサービスにつながるかもしれない

それにしても、なぜ銀行がデータの管理に挑戦したのだろうか。その理由を聞くと、大沢氏はこう説明してくれた。

「銀行はお金を預かっているイメージですが、重要な個人情報もたくさん預かっています。たとえば私たち信託銀行なら、株主名簿や企業年金の加入者名簿、遺言情報なども厳重に管理しているんですね。そのノウハウを生かすことで、情報銀行の取り組みを進められればと考えました」

つまり、今回の挑戦はゼロからのスタートではなく、これまでのビジネスの延長線上にあるといえる。実際、預かった個人データの管理手法には、一朝一夕では築けない長年のノウハウが生かされている。

「Dprimeで預かった個人データは、もちろん私たち社員が自由に見ることはできません。企業に提供する際も、個人を特定できる情報、氏名や住所の一部(「番地」および「建物名」)、メールアドレス、電話番号などは削除して渡します。GPSのデータについても、位置情報の動きを分析すれば自宅を推定される可能性があるので、自宅周辺の位置情報履歴は削除した形で提供しています」

その一方で、なるべくユーザーの手間がかからずにデータがたまる仕組みを作らなければ、リアルなデータを大量に生み出すのは難しい。仮に何十ページものアンケートに答えるのはユーザーにとって負担であり、敬遠される。望ましいのは特別な作業なくデータが生まれる形。そういった利便性にも力を入れており、たとえばユーザーの資産情報を登録する際は、資産管理アプリ「Moneytree」と連携することで自動的に資産情報がたまっていく。

そしてこのサービスで実現したいのは、安全なデータ提供をもとに、より良い商品やサービス、世の中が作られる世界だという。

「私自身、年金アクチュアリーとしてデータ分析の業務を長年担当してきましたが、生活を良くするためにデータはきわめて重要です。いまあるイノベーションの多くも、ビッグデータの分析から生まれている。だからこそ、安心できるデータ管理の仕組みを作ることで、みなさまが積極的にデータを提供できる社会になればと思っています」

ユーザーが企業にデータを提供することは、その企業の次のサービスやイノベーションを支援する行為といえる。その意味で「自分が好きな企業への支援としてDprimeを活用する形もあるでしょう」と大沢氏。クラウドファンディングは企業に金銭を提供するが、それがデータに変わっただけで、“支援”という点では共通しているのかもしれない。

「いまはDprimeでギフトを渡すのみですが、今後はそのギフトで商品を買うなど、ギフトを消費するところまでDprime内で行える仕組みを考えたいですね。アプリ内で消費まで完結できれば、個人情報を外に出す機会がさらに減り、より安心な世界が築けると思います」

個人データを厳重に管理し、より良い商品やイノベーション、社会の構築につなげていくDprime。このアプリは、データを「守る」だけではない。未来のためにデータを「生かす」ものでもある。

(取材・文/有井太郎 撮影/森カズシゲ)

※記事の内容は2021年10月現在の情報です

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