【日経記事でマネートレーニング21】相場ニュースを読む~「先物」に映る市場心理と方向感
提供元:日本経済新聞社
このコーナーでは日経電子版の記事を読むことで資産形成力のアップを目指します。実際のニュースやコラムを引用し、初心者には難しく思えるような用語をかみくだき、疑問点を解消していきます。金融・経済ニュースをどれだけ読みこなせるかは投資のリテラシーそのものです。日々の情報にリアルタイムで動ける実践力を養いましょう。
21回目は「先物」(さきもの)取引を取り上げます。先物・オプションという文字をみると拒絶反応を起こすひとも少なくないようですが、日常生活にありふれているので心配いりません。「災害に備えて“あらかじめ”防災グッズを買う」は立派な先物買いです。
「初期反応」は先物に投影~少額取引、反対売買など3つの特徴
先物取引は株式、債券から外国為替、コモディティーなどほぼすべてのマーケットに存在します。「先物」という実物の商品はなく、架空の商品を想定して取引します。このあたりが難しい印象を与えているようですね。また、専門的な用語が多いうえ、先物を活用するのは主に運用会社などの法人やプロの投資家に限られています。
しかし、先物の売買は相場全体や現物株の動きを左右しますから「サキモノなんて知りません」と他人事では済まされません。このコーナーでは比較的わかりやすい株式先物をピックアップして解説します。サンプル記事をご覧ください。
株式先物の基本的な仕組み、特徴は3つです。
① 手持ち資金があまりなくても「売買できる」
② 先に「売れる」
③ 特定の期日までに「反対売買」をして取引を終えないといけない
特に①と②が大切です。突発的な材料や環境変化が生じたときに巨額の資金を動かす投資家(運用会社)はすぐ行動に移せません。社内会議や要因分析などに時間がかかりますし、何より金額が大きくて換金などが簡単にできないわけです。大型トラックや巨大船舶が簡単に方向転換できないのと同じです。
そこで先物の出番です。少額の証拠金(担保のようなもの)を差し入れるだけで売買ができます。相場が下がりそうなときに先物は文字通り先に「売り」を注文できます。先に売るということは「後日買い戻す」ということです。材料に対して機敏に対応できるので、投資家の行動が現物よりもまず先物の価格に反映されることになります。
では、先物を使うとどんな効果があるのでしょう?
一例をあげましょう。日経平均株価が3万円から2万円に下がり、投資家の保有株が3億円から2億円に目減りしました。1億円の損失です。では同時に先物を3万円で売った場合はどうでしょう。
2万円で仮に「買い戻す」と仮定した場合は1億円のもうけが出ます。現物と先物の合計で損得ゼロに相殺されることが理解できますね?まさに相場変動の保険=ヘッジ(回避)というわけです。株式相場が下がりそうなときに先物を売る行動を「ヘッジ売り」といいます。
建玉増減に市場心理や方向感が反映、個人も「ミニ」で売買可能
先物を売ることを正確には「売り建てる」、買うことを「買い建てる」といいます。建てるとは決済をしない状態で、この未決済残高を建玉と呼びます。
値下がりすると思えば、先ほどの事例のように先物に売りを出しておけばよいわけです。裏返せば売り建玉が増えるということは相場が下がるとみた「新規」の売り注文が増えている状態を意味します。逆に買い建玉が増えると先行きの上昇を見込む投資家が増えていることをうかがわせます。
逆に、建玉が減れば反対売買が増えているので、売り建玉減少ならそれまで売っていた投資家が買い戻し、買い建玉減少は売り注文を出して決済したわけです。つまり、それまでの相場のトレンドがそろそろ止まると投資家がみているわけですね。
このように先物の建玉増減を追いかけるだけで相場の方向性や市場心理が見えてくるわけです。市場の理解が深まるでしょう?
① ラリー=持続的な株高。一般に特定の期間に起こる株高現象を指す。サマーラリーは夏場の株高、クリスマスラリーは年末の株高
② 買い遅れ=買うべきなのに買えていない状況。株高なのに株式を保有していないと運用成績が相対的に悪くなるため、運用会社などの焦燥感を生みやすい
③ ポジション=保有残高や投資家の姿勢の総称
④ 日経平均先物=日経平均株価に連動する株価指数先物
⑤ へッジファンド=特定の手法で売買する運用会社または運用資金。たとえば相場が動かなくても収益を上げたり、M&Aなどのイベント発生のみを材料に売買したり、手法は多彩。不特定多数の投資家から資金を集めるケースはほとんどなく私募が大半
⑥ 建玉=未決済の残高。買い建玉が積みあがると強気の相場観が台頭していることになる。特定の期日までに反対売買しなければならないので波乱の原因にもなる
では、いつものようにかみくだいて直した記事をみましょう。
株価指数先物には日経平均型、TOPIX型などが多くの種類があります。個人投資家も売買が可能で、特に少額単位の「ミニ」と呼ばれる取引は人気があります。1000万円、1億円というようにまとまった単位で株式を保有されている個人であればおおいに先物活用の価値があるでしょう。
(日本経済新聞社 コンテンツプロデューサー 田中彰一)
日経記事でマネートレーニングが動画化!
投資や資産形成への第一歩を踏み出す時に、「経済ニュース」や「マーケット報道」の理解は、重要な“羅針盤”となります。ただ、記事を読み解くのが難しい時もあり、普段、見慣れない相場用語なども多く、途中であきらめたくなる方もいらっしゃるのではないでしょうか?
東証マネ部!の人気コンテンツ「日経記事でマネートレーニング」でもお馴染みの、日本経済新聞コンテンツプロデューサー・田中彰一氏を講師にお迎えし、「投資初心者」の方でもやさしくマネーのキホンを学べる講座をシリーズ(全6回)で開催します。
日頃から日本経済新聞をはじめとした「記事」を活用されているビジネスパーソンの皆さんにも参考となる内容でお届けします。「勉強するぞ!」という感じに構えず、肩の力を抜いて学べるような講座になりますので、是非、この機会にお気軽にご視聴ください。
第三回のセミナー動画はこちらです。