「コモディティ投資」に迫る・前編
商品に投資する「コモディティ投資」金や原油だけでなく、“水”も投資対象!?
ひと口に投資といっても、その対象はさまざま。一般的にイメージするものは株式や債券、不動産だろうか。そのほかにも、「コモディティ」と呼ばれる投資対象がある。例えば、金やプラチナといった貴金属、トウモロコシや大豆といった農産物などだ。
コモディティは現物での投資だけでなく、先物取引やCFD(差金決済取引)、投資信託やETFという方法もあるため、投資先の1つとして取り入れやすくなってきている。そこで、コモディティ市場の専門家であるマーケットエッジ代表の小菅努さんに、コモディティ投資の基礎知識を教えてもらった。
実は生活に密着した“商品”が投資対象
「コモディティ投資とは、商品(資源など)に対する投資のことです。日本では、大阪取引所や東京商品取引所で先物取引ができ、東証上場ETFにコモディティの価格に連動する銘柄もあります。1つの商品だけでなく、エネルギー全体や農産物全体、コモディティ全体に連動するETFもあります」(小菅さん・以下同)
国内で取り引きできるコモディティの一例
・貴金属(金、プラチナ、銀、パラジウム)
・エネルギー(原油、ガソリン・灯油、電力)
・農産物(トウモロコシ、大豆、小豆)
・天然ゴム
「コモディティ投資の対象は金やプラチナなどの貴金属や、トウモロコシなどの農産物がイメージしやすいでしょう。海外では冷凍オレンジジュースやコーヒー、砂糖、ココア、パーム油なども投資対象です。最近は、世界的な天候不順によって農作業で使う水が不足している地域が増えてきたことで、水の価格も取引されています」
コモディティ投資は身近なものが投資対象となるため、価格の変動を実感しやすいという特徴がある。
「小麦や大豆の価格の変化によってパンや納豆の値段が上がるなど、四半期ごとにニュースで取り上げられますし、車に乗っている人であればガソリンの価格は日常的に目にしているでしょう。生活に密着したものに投資できるところが、コモディティ投資ならではの特徴といえます」
コモディティ投資の起源は江戸時代の大阪!?
取引所によるコモディティ投資の起源は諸説あるようで、大航海時代真っ只中の1500年代の欧州という説もあれば、我らが日本から始まったという説もあるそう。
「さまざまな文献で、江戸時代に大阪(当時は大坂)の堂島米市場で行われていた帳合米取引が現在の先物取引の原型だといわれています。当時の日本は金銭ではなく米を年貢として納めていたため、米の価格によって幕府や各藩の収入が変化しました。収入の安定性を図るため、将来の米の価格を取り引きし始めたようです。1730年代のことなので、約300年前には始まっていたといえます」
現代的な先物取引という意味では1800年代にシカゴで始まったといわれるが、いずれにしても、最初の投資対象となったものは農作物だったと考えられるという。
「日本では米、シカゴではトウモロコシから始まったとされています。なぜ、農作物で先物取引が始まったかというと、作付けから収穫までに時間がかかるから。その間、収穫物の値段がどう変化するかは予想できません。天候などの影響で暴騰する可能性もあれば、暴落するリスクもあります。収益を固定化したいという農家のニーズがあったことから、農作物の先物取引が始まったようです」
数百年の歴史がある農作物の先物取引と比べ、貴金属や原油などのエネルギーはまだまだ歴史の浅い分野とのこと。
「アメリカのシカゴ・マーカンタイル取引所(CME)が銀の先物取引を始めたのが1969年。日本では、1982年に金の先物取引が始まったので、そこまで古い話ではありません。エネルギーに関しては、日本で石油製品の取引がスタートしたのが1990年代、原油が2001年なので、農産物と比べると新しい投資対象といえます」
株式の動きにも影響するコモディティ
小菅さんは、「コモディティの価格を見ることが、株式投資にも役立つ」と、教えてくれた。
「例えば、商社は原油や非鉄金属の価格が上がると売上・利益が上がりやすく、価格が下がると売上・利益も下がりやすいといえます。自動車メーカーであれば、車体やタイヤの原料となるプラチナや天然ゴムの価格がビジネスに連動すると想像できるでしょう。食品メーカーや飲食店なら、農作物の値動きは重要です」
投資上級者のなかには、コモディティの動きをもとに投資判断をしている人も多いという。
「アメリカのニュースでは金や原油の価格が最初に伝えられますし、FRB(連邦準備制度理事会)のバーナンキ元議長も『毎日、金の価格をチェックしている』と話していました。そのくらい、コモディティの重要性は高いのです。2021年は植物油が値上がりしていて、植物油を原料とするメーカーは数回の値上げを行っていますが、パーム油や大豆油の価格をチェックしていた人たちは、メーカーが値上げするだろうと予想していました。株式投資をしている人も、コモディティをチェックしてみると新しい発見があると思います」
エネルギーや農産物の値動きは、家計にも影響するところ。投資対象としても身近に感じられるだろう。後編では、具体的な投資手法について教えてもらう。
(有竹亮介/verb)
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小菅努
マーケットエッジ代表取締役。筑波大学第一学群社会学類卒。商品先物取引会社の営業部、営業本部を経て、同時多発テロ事件直後のニューヨーク事務所でコモディティ・金融市場の分析を学び、アナリスト業務を本格化。調査部門責任者を経て、2016年マーケットエッジ代表取締役に就任。金、プラチナ、原油、石油製品、天然ガス、天然ゴム、コーン、小麦、大豆、コーヒー、ココア、砂糖、綿花などのコモディティ市場全体をカバー。商社、事業法人、金融機関、個人投資家向けのコモディティレポート配信のほか、メディア等への寄稿、講演などを行う。