東証ETFのキーパーソンに聞く

日興アセットマネジメントが考える次世代のETF市場・後編

日興AM「ETF成長傾向にある今伸ばしていきたいのは“米株”“外債”」

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2001年7月に「上場インデックスファンド225(1330)」を上場してから現在までに、20本以上の「上場インデックスファンド」シリーズのETFが上場し、市場でも存在感を見せている日興アセットマネジメント。多くの銘柄に携わってきたETFビジネス開発部長兼商品開発部長の有賀潤一郎さんに、日興アセットマネジメントのETFの特徴を聞く。

また、今後のETF市場に期待していることも伺うと、ETFの可能性を広げるようなアイデアを語ってくれた。さっそくその言葉をお届けしよう。

成長傾向にある「米国株」と「外国債券」

――日興アセットマネジメントのETFの特徴としては、どのような部分が挙げられますか?

「近年の傾向として、小さいながらも米国株や外国債券のETFのシェアが増えてきているところが特徴的だと捉えていますし、今後伸ばしていきたい部分と考えています。

米株、外債のETFの残高をまとめると、2020年から2021年にかけて大きく増加していることがわかります。『上場インデックスファンド米国株式(S&P500)(1547)為替ヘッジあり(2521)』『上場インデックスファンド米国株式(ダウ平均)(2562)』『上場インデックスファンド米国株式(NASDAQ100)為替ヘッジなし(2568)為替ヘッジあり(2569)』を合わせても総額1,680億円(※)なので、残高の桁を1つ、2つ上げることを目指す段階ではあるのですが、モーメントの変化率としては注目すべきだといえます」

※2021年10月20日時点

――日興アセットマネジメントでは、特に米国株ETFの増加率が高い印象があります。

「一般的にも、現在の米株の勢いはすごいと感じています。傾向を整理するに当たって、個人投資家の保有率から読み取れることも多いのです。例えば、『上場インデックスファンド米国株式(S&P500)(1547)』(為替ヘッジなし)は多くの個人投資家にも保有していただいていますが、為替ヘッジありを保有されている個人はほとんどいらっしゃらない。個人投資家は多少リスクがあってドキドキするようなものを欲していらっしゃるのではないでしょうか。

外債のETFからも、1つの傾向が見えます。『上場インデックスファンド新興国債券(1566)』は隔月分配の銘柄ですが、個人投資家の保有率が他のETFと比べても高めです。定期的に分配金収入が見込めるインカムものは個人投資家に持ってもらいやすいと考えられます」

――個人投資家の好みが読み取れるんですね。ところで、なぜ米国株のETFが買われているのでしょう?

「ETFは機動的に売買できますし、価格が明確でマーケットメイクもしやすいので、シングルカントリーとの相性がいいのだと思います。だから、米株ETFが伸びているのでしょうね。公募投資信託(公募投信)では米株だけでなく、さまざまな国や地域の株式を組み込んだグローバル株も人気なので、米株に特化しているのはETFだからこそといえるでしょう」

――なるほど。日興アセットマネジメントはウェブサイトやSNSで、個人投資家向けの情報発信を積極的に行っている印象があるのですが、そこが現在のETF活用の流れにつながっているのでしょうか?

「数字だけを見ると、残高ベースで見た際の個人投資家のETF保有額は決して高くないので、より多くの個人投資家に当社のETFを売買していただくためにも、情報提供には力を抜いてはいけないと考えています。機関投資家に力を入れた方がいいと感じることもあるのですが、ETFは個人投資家が取引所で値段をつけてくれるものでないと存在できない商品だと思うんですよね。機関投資家に活用してもらうためにも、個人投資家に売買してもらう必要がある。だから、仮に個人投資家の残高だけではビジネスが成り立たない銘柄があったとしても、個人に売買してもらうための情報提供やプレゼンに力を抜いてはいけないと考えています。

また、当社にはマーケティングの部門に頼れるスタッフがたくさんいますし、社内にスタジオも完備していて、情報発信の陣容とキャパシティが整っていると自負しています。これからも有益な情報を届けたいですね」

機動的かつ経済的に変化しつつあるETF


――個人投資家に向けての働きかけを行うなかで、個人投資家のニーズの変化などは感じますか?

「2009年にETFの現場を離れてから、2020年に久しぶりに戻ってきて驚いたのは、ETFが無手数料で売買されているケースが散見されることです。かつてはそれなりに売買手数料がかかり、大きな金額で発注しないと損をするような仕組みだったと思うのですが、今は手数料がほぼゼロのケースが増えているので、分散発注が行いやすくなっています。

その結果、個人投資家も機動的に動きやすくなりましたし、実際に活発に動いている方が増えている印象もあります」

――2000年代とは大きく変わってきているということですね。

「そうですね。かつてのETFは“いつでも売買できる”という利点はあるものの売買の手数料が高かったので、低コストの公募投信の方に分があったと思います。しかし、現在のETFはコスト面で公募投信と肩を並べられるだけでなく、場中に何回も発注するという新しい使い方の提案もできます。これまでにない面白さがあるし、経済的に理にかなった投資ができますよね」

――1日の間での複数回の発注は、公募投信ではできないことですよね。

「そうなんです。経済的な負担をかけずに機動的な売買がしやすくなってきたことで、今の価格で買いたい、分割して買いたいというニーズにも応えやすくなっています。楽しみながら投資をしたいという方には、ETFは受け入れてもらいやすい商品だと思いますね」

ETF市場の未来を変えるカギは「指数要件の緩和」


――ここまで投資家側の意識や変化についてお聞きしてきましたが、現在のETF市場についてはどう捉えていますか?

「市場自体も変化が起こることで、ETFの可能性はさらに広がると思っています。例えば、ETF市場の時間を延ばす。現在は15時まで市場が開いていますが、それが一般的なビジネスマンが家に帰ってからも売買できる時間まで延ばしてもらう、もしくは夕方だけ限定的に開くという形にできると、ETFを活用する人は増えると思うんですよね。

あと、これは個人的によく言っているのですが、指数要件を緩和してもらえると、さらにETFの幅が広がると考えています。日本の場合、今は連動対象となる特定の指数がないと、ETFは作れません。しかし、指数要件が緩和されれば、S&P500とTOPIXを50%ずつ組み入れたETFのように、指数同士を組み合わせたETFを作ることができます。公募投信で導入されているような形の商品がETFでも実現できるようになると、投資家の選択肢が広がりますよね」

――ありそうでなかった視点ですね。今お話を聞いただけでも、ワクワクしました。

「ほかにも、今はレバレッジETFを作ろうとすると、2倍で算出する指数がないと作れません。そこが緩和されれば、S&P500とTOPIXを組み入れたうえで2倍にする“レバレッジ分散”がETFでも可能になります。指数要件の部分がブレイクスルーすると、新たな世界が開けますし、運用会社ごとに特色のあるETFを打ち出しやすくなると思うんです」

――“指数に連動する”というETFの特徴を生かしながら、バラエティに富んだパッシブ運用が期待できそうですね。

「実際に緩和されるかはわからないですし、緩和されたとしても僕が現役を退いている可能性もあるので、変化を期待しながら今できることも考えていきたいですね」

――現状でしたいこと、実現したい商品など、考えているものはありますか?

「先ほども話した米株、外債のような商品を拡充していきたいですね。特に、債券のETFはビジネスの機会を秘めていると思っています。

将来的に金融所得課税が引き上げられるような可能性を想定すると、未来にいっぱい儲かるよりも今のうちに分配金をもらっておこうと考える投資家が増えるはずです。そうなると、『上場インデックスファンド新興国債券(1566)』や『上場インデックスファンド海外債券(FTSE WGBI)毎月分配型(1677)』といったインカムものは、個人投資家にとって今以上に意味のある商品になり得ると思います。

また、債券に投資する公募投信はコストが高いものがありますが、ETFであれば公募投信の5分の1程度のコストで設計できるケースも多くあります。ETFの強みを出せるところだと考えられるのです。公募投信からETFにお金をシフトさせるというよりは、新たなマーケットを作ることができるのではないかと思います。日本のETFは、まだまだたくさんの可能性を秘めているので、これからが楽しみですね」

業界全体での変化を起こし、より経済的でより面白みのある商品が増えていくことに期待したいと、楽しそうに語ってくれた有賀さん。日興アセットマネジメントでも、きっと今までになかったETFを生み出してくれることだろう。

(取材・文/有井太郎 撮影/森カズシゲ)

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