DX銘柄2021のグランプリを受賞
不動産会社がAI事業で成功。SREホールディングスのDXとは
企業のDXで重要といわれるのが、いかに“事業そのもの”をデジタルやテクノロジーで変革するかということ。たとえばDXの例として社内の手続きや管理をデジタル化するケースが見られるが、これは事業のDXではない。そうではなく、利益を生み出す事業を変革することがポイントになる。これらは「デジタライゼーション(事業のデジタル化)」や「攻めのDX」とも表現される。
そんな中、DXによって“新たな事業”を生み出した企業がある。SREホールディングスだ。同社はもともと「ソニー不動産」としてスタート。社名の通り不動産事業を行っていたが、やがてAIツールの外販を始めた。これらの事業は急成長し、いまでは利益の6割以上がAI事業から生まれているという。
これを踏まえて、社名も現在のものに変更。まさにデジタライゼーションの好例だ。経済産業省と東京証券取引所が選定する「DX銘柄2021」でもグランプリを受賞した。
不動産から始まった会社が、なぜAI事業を行うようになったのか。その背景について、SREホールディングス 代表取締役社長兼CEOの西山和良氏に聞いた
社名変更にもつながった、AI事業の急成長ぶり
SREホールディングスが生まれたのは2014年。当初は不動産事業をメインに据えており、社名もソニー不動産として始まった。
「会社のコンセプトとしては、AIやITを使って業務を効率化しながら、スマートな不動産事業を行おうと考えていました。AIやITのツールは、あくまで私たちの不動産事業に活用するものであり、当初は外販を予定していなかったのです」
しかし、自社の業務にAIやITを取り入れる中で、他の不動産会社がそれらのツールに興味を持っていることがわかってきた。「社内で使っていたツールに対し『私たちも使いたい』というお声が増えてきました」という。
「そこで、自社ツールを外販し始めたのが2017年頃。いまでいうSaaSの形で、ツールを提供し月々の利用料をいただくビジネスモデルにしました。不動産業界でのニーズは高く、2年後には外販ビジネスで全社利益の大半を稼ぐまでに成長したのです」
不動産事業も変わらず行っていたが、ツールの外販ビジネスは年々利益を増やし、今後も伸びることが予想された。そこで、社名を「ソニー不動産」から「SREホールディングス」に変更。社内業務のために行ったDXが、収益の中核をなす事業に成長したのである。
では、具体的にどんなツールを提供しているのだろうか。
「代表的な例を挙げると、AIが自動で不動産の売買価格を査定し、査定書も作る『AI不動産査定ツール』や、不動産の売買契約書と重要事項説明書の作成をクラウドで行える『不動産売買契約書類作成クラウド』などが挙げられます」
不動産査定ツールについては、膨大なデータをもとにAIが査定。人が査定する際は、宅建免許を持った人材が数時間かけて査定するのが普通だが、このツールでは10分以内で査定結果が得られる。
また、人による査定は「実際の売買価格から7〜8%ずれることが多い」と西山氏。つまりその分が誤差となる。一方、このツールの査定は売買価格との差が5〜7%と、人力よりも小さな範囲になっているようだ。
不動産事業とAI開発が共存するからこそ、質の高いツールが生まれる
同社のツールが多くの不動産会社に求められた理由は、まさに現場が欲しい機能や使い勝手を形にしたから。そしてそれを可能にした秘訣は、SREホールディングスの特殊な事業形態にある。
繰り返しになるが、SREホールディングスは一方で不動産事業を行い、一方でその事業に使うAIツールを開発している。実際に不動産事業に携わる現場のメンバーと、AIツールのエンジニアが一緒に作るのだから、当然、現場が使いやすい有用なツールができる。
「社内で実際に使ってみて、本当に良いものを外に出しています。不動産事業という『実業』を持っている点が、いわゆる大手のAIプロバイダーと大きく異なっており、我々の強みです」
また、実業を行う中で不動産データも溜まっていくので、それをもとにAIが学習するサイクルができた。
「技術が著しく進歩したことにより、AIの構築自体はそこまで難しいことではなくなりました。では、何がAIを差別化するのか。それはAIの学習に必要な『データ』です。我々は、自社やお客さまの保有する大量の良質なデータをもとに、AIツールを日々進化させており、それが競争力の源泉にもなっています」
現在は、不動産以外の分野におけるAI導入コンサルティングも行っている。電力会社や証券会社、旅行会社など、さまざまな企業の要望に対して、テーラーメイドでAIを用いたシステム開発・運用を実施しているとのことだ。
不動産以外の分野は、AIの学習に必要なデータを持っていないケースも多い。そういった領域については、データを持つ企業とアライアンスなどを組んでいく。外部のデータを使い、SREホールディングスのAI開発力でツールを作る形だ。もはや不動産事業だけの会社でないことは言うまでもない。
今後は不動産事業も行いつつ、同社のSaaSをより多くの企業や人に提供していくと言う。
「不動産業界に向けては、私たちが実業で養ったAIのSaaSを提供していきます。全国には宅建業者12万社、宅建免許を持つ個人が107万人ほどいます。まだまだシステムが普及する余地はありますので、ここに広めていきます」
さらに、そのほかの分野でもAIプロバイダーとしての存在感を強めていく。金融やエネルギー、カーボンニュートラルなどの領域はAIの活用が急ピッチで進んでおり、同社の技術で貢献していくという。AIツールの提供を増やしながら、継続収益(リカーリングレベニュー)を増やしていくのが、西山氏の考える大きなビジョンだ
不動産会社であり、AIプロバイダーでもあるSREホールディングス。このユニークなビジネスモデルは、今後どんな展開を見せるのか。事業をDX化した好例として、今後も動きを見ておきたい。
(取材・文/有井太郎 撮影/森カズシゲ)
※記事の内容は2021年11月現在の情報です