MAB投信だより
金融所得課税強化による個人の資産形成への影響
提供元:三菱アセット・ブレインズ
サマリー
●仮に金融所得課税が一律増税となった場合、個人の資産形成にどの程度の影響が想定されるか試算した。
●一定の条件下で2,000万円の資産形成を目指す場合、25%への増税で毎月420円、30%では852円程度の負担増となる。
●「貯蓄から資産形成へ」の勢いを止めぬよう、つみたてNISAの非課税枠拡大やDC制度の更なる拡充にも期待したい。
1. 物議を醸した金融所得課税の強化
岸田総理の就任以来、金融所得課税の強化が度々話題に上る。今のところ性急な税率引上げには至っていないが、昨年12月に公表された与党の税制改正大綱(令和4年度)では、税負担の公平性(いわゆる「1億円の壁」)に対処するために、『金融所得に対する課税のあり方について検討する必要がある』とされている。
岸田氏の総理就任当初には、金融商品の売却益等にかかる約20%の税率について一律引上げの可能性も示唆され、課税強化による短期的な株式市場への影響を心配する声も多い。一方、長期の資産形成における一般投資家の負担増に係る具体的な議論は未だ少ないように見える。
仮に税率が一律で引き上げられると、コツコツと積立を行う一般の投資家にどの程度の影響が想定されるだろうか。シミュレーションを通して具体的に考えてみたい。
2. つみたてNISAに対する課税強化の影響はない
まずは既存の非課税枠をフル活用したい。年間40万円のつみたてNISA枠を目一杯活用し、毎月33,333円を20年間拠出したケースを想定する。
総額800万円(40万円×20年)の拠出額に対し、年率5%で運用できたとして20年後には1,358万円程度、年率3%として同1,092万円程度の運用結果となる(注)。
資産形成の目標額としてこの金額で十分と考えるのであれば、運用益は全額非課税であるから、一律で税率が上がったとしても特段の影響はない。しかし、この試算では足りないと考える人が多いだろう。
(注)毎月初に拠出したとして算出。年率5%は日本や新興国を含む全世界株式ファンド、年率3%は全世界株式および債券等に半々程度で投資するバランス型ファンドを想定。
3. 20年間で2,000万円の資産形成を目指すと課税強化の影響あり
仮に2,000万円の資産形成を20年間で計画した場合、つみたてNISA枠外で不足額を補うことになる。税引前で2,000万円を達成するための月々の拠出額は、つみたてNISA枠(33,333円)との合計で49,085円(年率5%)~61,039円(同3%)程度と想定される。
しかし、NISA枠外の運用益は課税対象であるから、最終的な手取額は2,000万円に満たないことになる。
そこで、現在の税率(約20%)を考慮し、税引後で2,000万円の資産形成を目標とすると、必要な拠出額は月々50,496円(年率5%)~62,605円(同3%)程度に増加する。当然ながら、20年後に税率が25%または30%に上昇していれば、必要な月々の拠出額は更に上昇することとなる。
税負担額を更に可視化する。税引前の月々の拠出額をベースに、税引後でも税引前と同じ運用結果を得るために増やす必要のある月々の拠出額を、独自に「月間租税負担相当額」と定義した。
表2は、これを税率別にまとめたものである。年率3%で20年間運用し2,000万円を目指すケースでは、税率が25%に上昇すると、租税相当額は月々1,566円から1,986円となり、毎月420円増加する。
税率30%では2,418円となり、増加額は852円。毎月コーヒー1杯~ランチ1食分の負担増である。20年間の累計(=月間租税相当額×12ヵ月×20年)では、拠出額ベースで約10万円~20万円もの負担増が想定される。
4. DCも含む更なる制度拡充に期待
このように、単に金融所得課税を一律で強化するのみでは将来への備えに危機感を持って積立を行う一般の資産形成層の負担も大きく上昇してしまう。
「貯蓄から資産形成へ」の流れが加速しつつある今、その勢いを止めぬ様、慎重な議論が求められることは言うまでもない。
併せて、つみたてNISAの非課税枠拡大や退職給付(DC)に関連する制度拡充も含めた諸議論が積極的に展開され、個人の資産形成が十分に支援されることを期待したい。
(ファンドアナリスト 瀬山 太郎)
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