脱炭素社会の実現に向けた一歩
「改正再エネ特措法」で何が変わるの?
提供元:ちばぎん証券
「一月往ぬる、二月は逃げる、三月去る」とはよく言ったもので、2022年も早3月。4月以降の新年度を展望する頃となりました。
日本において4月は特別の月。入学や就職など、人生の新たなステージに向け、胸を高鳴らせている人も多いことでしょう。
4月はまた、国や自治体等で多くの新しい制度や法律が導入される時期でもあります。
特に今年は、証券市場の歴史的な転換点となる東証の市場区分再編、成人年齢を18歳に引き下げる改正民法や年金の受給年齢を75歳まで繰り延べることができる改正年金法の施行など、社会的にも関心の高い事柄が多く予定されています。
それでは投資の観点から何か注目できるものはないでしょうか。
私は4月1日に施行される「改正再エネ特措法」に注目したいと思います。
この法律、正式名称は「電気事業者による再生可能エネルギー電気の利用の促進に関する特別措置法」。2012年に施行された「電気事業者による再生可能エネルギー電気の調達に関する特別措置法」が改正されたものです。今回の改正は、その名が示す通り、再エネ政策の重点が「調達」から「利用の促進」にシフトすることを表しています。
現特措法の下、まだあまり普及していなかった太陽光発電など再生可能エネルギーの導入を促すために固定価格買い取り制度(FIT=Feed-in Tariff)が始まりました。
FITとは、再エネ設備で発電された電気(再エネ電気)をあらかじめ決められた一定の価格で買い取るよう電力会社に義務付けた制度で、買い取るための原資は家庭や企業が払う電気料金に「賦課金」として上乗せすることでまかないます。
この制度を使って導入した太陽光発電の出力は20年度末で約5600万キロワット。制度開始前に比べて10倍に増えており、一定の役割を果たしたということはできるでしょう。
ただ並行して賦課金の負担は膨らみ、2021年度には総額2.7兆円に達する見通し。持続可能性の観点では大きな問題です。
また、FITでは買い取り価格が常に一定であるため、電力事業者にとって収入はいつ発電しても同じ。電力需要が多く、市場価格も高い時に供給を増やしたり、コスト抑制等で競争力を高めるようなインセンティブは働きません。これまでの再エネ電気は既存の電力市場とは切り離された、特別な存在だったのです。
政府は「2050年カーボンニュートラル」実現に向け、足元で電源構成の2割に満たない再エネ比率を30年度に36~38%へ引き上げ、主力電源化することを目指しています。
そのためには再エネ電気最優先の原則で導入を推進しつつ、再エネ電気を需要と供給のバランスなどを踏まえて発電を行う普通の電源に育て、既存の電力市場へ統合していくことが求められます。
こうした道筋の一歩として、大規模な事業用太陽光や風力発電を念頭に、昨年成立した「改正再エネ特措法」で「FIP(=Feed-in Premium)制度」の導入が決まりました。
FIPは、電気を固定価格で買い取るのではなく、需給に応じた市場価格に一定額のプレミアムを上乗せして購入します。
発電事業者にとっては、プレミアムを得ることで再エネ投資に対するメリットが確保されるほか、収益を拡大するために市場価格を意識しながら発電し、価格が高いときに売電するインセンティブが生じる仕組みになっています。4月以降は発電規模等に応じてFITとFIPの2制度が併存することになります。
それでは今後、再エネ電気の導入が進むとしてどのような産業、企業が注目できるでしょうか。
私はまず蓄電池ビジネスの拡大を挙げたいと思います。FIPの下、電気が余って価格が安い時には蓄電、価格上昇時に売電して利ざやを稼ぐという動きが拡がり、結果として停電の原因ともなる電力需給のミスマッチ解消に貢献することが期待されます。
太陽光発電が普及する九州では、電力使用量が少ない時に発電を止めざるを得ない事態も発生していますが、蓄電池に貯めて需給のバランスを整えることでこうした事態を減らすことができるでしょう。
さらに送電網の容量不足にも対応できます。北海道では送電網の空き容量が足りず、事業者が発電を始められないこともあると聞きます。こうした場合も送電網が蓄電池につながっていれば、発電した電気を一時的に貯めておくことで状況を改善することができます。
政府も費用の最大半額補助などで導入を後押し。電気事業法を改正し、事業者が蓄電池を送電網につなぎたいと要望した場合、送電会社に応じる義務を課すなど環境も整備します。蓄電池の法的な位置づけが不明確で、事業を検討する商社などから「送電網につないでもらえないのではないか」との懸念が出ていることに応えます。
銘柄では先ず日本ガイシ(5333)。2002年に世界初の大容量蓄電システムとしてNAS電池を開発。大容量、高エネルギー密度、長寿命、大きさが鉛蓄電池の約3分の1などの特徴をもち、再エネ電気を安定的に供給する調整役として世界200カ所以上で稼働実績があります。
次に住友電気工業(5802)。バナジウムなどイオンの酸化還元反応を利用して充放電を行う「レドックスフロー電池」を開発しています。この電池は電極や電解液の劣化がほとんどなく長寿命で、発火性の材料を用いていないことや常温運転が可能なことから安全性が高く、再エネ電気との相性の良さが指摘されています。2020年には北海道電力ネットワークから受注しました。
古河電気工業(5801)、古河電池(6937)は1枚の電極基板の表と裏にそれぞれ正極と負極を持つ「バイポーラ型蓄電池」を開発しています。この電池は鉛蓄電池でエネルギー密度は従来比約2倍。鉛ベースであるため、量産やリサイクルが容易な点も特徴で2022年度からの製品出荷を予定しています。
蓄電池以外では、ソフト面で気象予報や気象アプリを提供するウェザーニューズ(4825)。同社は2020年12月から、電気事業者向けに日射量などの気象データをリアルタイムで販売してきましたが、今年から日射量を含む15種類の気象予測データと電力会社から提供される太陽光発電パネルの向きや角度などの設置環境データを組み合わせ、発電量を予測するAPIの提供を開始しました。FIPの開始に伴い、発電量を正確に予測する需要が高まると考えられ要注目です。
脱炭素社会の実現に向けに再エネ電気の主力電源化は必須条件。今後も官・民をあげた取り組みから目が離せません。
(提供元:ちばぎん証券)