東証市場再編

異なる特性を持った3つの市場は階層構造ではない

レオス藤野氏「市場再編の目的は、マーケット全体を成長させるための『市場の整備』」

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東京証券取引所の市場区分「市場第一部」「市場第二部」「マザーズ」「JASDAQスタンダード」「JASDAQグロース」が、2022年4月4日から「プライム市場」「スタンダード市場」「グロース市場」の3つに再編される。よりシンプルになるといえるだろう。

新たな市場区分を、個人投資家はどのように捉えていけばいいだろうか。「ひふみ投信」シリーズを展開するレオス・キャピタルワークスの代表で、ファンドマネージャーとしての豊富なキャリアを持つ藤野英人さんに、新市場区分の捉え方を聞いた。

「プライム」「スタンダード」「グロース」は階層構造ではない


――2022年4月から新市場区分がスタートしますが、現時点でどのように捉えていますか?

「かなりポジティブに受け止めています。かつての日本は、各主要都市に存在した証券取引所でそれぞれその地域企業の株式が取引されてきたため、細分化された市場がたくさんあったのです。例えば、ユニクロなどを展開するファーストリテイリングは広島証券取引所に上場していました。また、1999年以降はマザーズ、NASDAQ Japanなど、さまざまな新興市場がつくられ、それぞれが競合する形で歩んできました。

一方、各地域の証券取引所の統合に向けた動きもあり、2013年には東証と大証が統合しました。その際には、上場会社や投資家の混乱を避けるため、双方の市場区分が原則としてそのまま維持されましたが、結果として、どの市場に投資したらいいのか判断しづらくなっていたのです。そんな状況を打開するため、今回の市場再編で3つにして、スッキリさせたのだと捉えています」

――「プライム市場」「スタンダード市場」「グロース市場」と、市場の特性もより明確になりましたよね。

「そうですね。だからこそ強調したいのは、市場区分の間に優劣はなく、階層構造ではないということです。世の中では、『プライム市場をもっと絞り込まないと意味がないじゃないか』というネガティブな見方もありますが、そのような発想が出てくるのは“プライム市場がNo.1だ”“時価総額が大きい会社ほどいい”という固定観念があるから。

しかし、今回の再編は市場の優劣をつくるためではなく、あくまで市場を整理するためのもので、特定の市場区分を二軍としているわけではないと考えています」

――市場区分が、企業の格付けのように捉えられてしまっているということでしょうか?

「そのような部分はあると思います。日本社会では、いまだに“時価総額が大きい会社ほどいい”という意識が残っているように感じます。今回の『プライム市場』に関する議論を見ても、明らかといえるでしょう。

私は外資系金融機関に勤めた経験がありますが、外国の投資家の見方は違います。時価総額の大小ではなく、“リターンを上げる会社ほどいい”という認識でした。日本の投資家にもその感覚が取り入れられたら、3つの市場区分をフラットに捉えられるのではないかと思います」

――おっしゃる通りで、投資家にとっては“リターンを上げる会社”が良しとされるはずです。

「今回の市場再編を機に、格付けという視点から離れてもらえると、投資の幅が広がると思います。3つの市場は時価総額というサイズなどが違うだけで、それぞれに成長が期待できる会社があるはずですから。

そして、今後『スタンダード市場』『グロース市場』の会社が成長し、『プライム市場』に上場していく循環をつくることも重要だといえます」

――投資家の目が「スタンダード市場」や「グロース市場」に向くと、現時点では時価総額が小さくても勢いのある会社が成長しやすくなりそうですね。

「そうなるといいですよね。一方で、成長に向けた努力をしない会社も出てくるでしょう。そのような会社の扱い方は市場の信頼性にもかかわってくるところなので、経過措置の取り扱いなど、今後どのように議論されていくのか、見守っていきたいですね」

新市場区分をプラスに作用させていくのが「投資家」の役割


――市場が再編されることで、個人投資家にとってプラスの影響は考えられそうでしょうか?

「市場区分がシンプルになったことで、投資の簡便化や理解の促進という中長期的なポジティブな影響はあるでしょう。ただ、個々の会社の成長率が一気に上がるようなことはないと思います。

なぜかというと、東証は“市場”という場の提供者であり、今回の再編はあくまで市場の整理だからです。たとえていうなら、不明瞭だったスタジアムの入り口を改修し、目的のグラウンドに一直線で行ける入り口を整備したというイメージ」

――わかりやすくなった市場が、直接経済に影響を及ぼすわけではないと。

「そうですね。市場再編を受けて、どのような結果を出していくかは、個々の会社、投資家がどう動いていくかにかかっているでしょう。

特に、投資家サイドの役割は大きいと思います。新たなマーケット機能を使い、いい会社を発掘して投資し、成長が見えない会社があったら売る。その経験や培った知恵をぶつけ合い、マーケット全体を成長させていくことが重要だと考えています」

――せっかく場が整備されても、有効活用していかなければ意味がないということですね。

「そうですね。先ほども話したように『プライム市場を絞り込まないと意味がない』という意見がありますが、『プライム市場』に上場している会社の数を制限することは重要ではないと思っています。それよりも、『プライム市場』から選抜した『プライム100』のようなインデックスをつくるなど、市場を活用していけるといいですよね。

新しくなった市場をどう活用していくかは、個々に委ねられるといえるでしょう」

今後の動きに期待したい「グロース市場」


――藤野さんは、新市場区分の活用法をどのように考えているのでしょう?

「これまでファンドマネージャーとして中小型株に投資することが多かったですし、個人的にも成長株が好きなので、『グロース市場』に注目しています。マザーズやJASDAQが1つに集約されてわかりやすくなりましたし、日本の新興市場を新たに生み出していくという東証の覚悟が見えるので、期待しています。

直近で、アメリカで長期金利が上昇した影響で、マザーズの銘柄が売られる流れがあった分、日本の新興市場の発射台は低い状態です。そのタイミングでの『グロース市場』のスタートは、新興市場の転換点になるでしょうし、盛り上がるきっかけになるのではないでしょうか」

――期待される会社は、今後出てきそうですか?

「私は未上場の会社も見ているのですが、10代後半から20代の起業家がどんどん出てきているんですよ。そういう人たちの会社が『グロース市場』に上場して、日本が活性化されていくことを期待しています」

――話を聞いているだけで、ワクワクしますね。個人投資家が「グロース市場」に上場している会社を見るときのポイントなどはありますか?

「成長性を予測するには、会社の思想を知ることが大事だと考えています。経営者の理念や思想が打ち出されていて、かつ個人投資家でもアクセスしやすい資料は会社のホームページです。経営者のメッセージが掲載されていたり、見ていてワクワクしたりするホームページは1つの指標になると思います。『プライム市場』や『スタンダード市場』でも、大切な視点といえるかもしれません」

シンプルな構成に再編し、フラットな目線で捉えられるようになった新市場区分。それぞれの市場区分の特徴を理解しながら、興味を持った市場や会社に注目することが大事といえそうだ。
(有竹亮介/verb)

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