新しい金融のカタチ

大学時代をともに過ごした2人の野望

「個人投資家にやさしい世界」を作りたい。MONO Investmentが目指すゴールとは

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日本の投資業界に根付いてきた文化や慣習を変え、「個人投資家にやさしい世界」を作ろうと立ち上がった若者がいる。2020年にスタートアップのMONO Investment社を創業した中西諒氏と佐々木辰氏だ。

2人は大阪大学経済学部の出身であり、同じ時期に大学生活を送った間柄。彼らは日本の個人投資家を取り巻く環境に問題点を感じ、起業へと至った。

そうして「個人投資家にやさしい世界」を実現するために、まず目をつけたのは、IFAや証券会社の営業員など“個人投資家のアドバイザー”が使う顧客管理ツール。そのツールをより良いものにすれば、アドバイスをもらう顧客(個人投資家)はメリットを受けると考えた。

そこで開発したのが、社名と同名のサービス「MONO Investment」だ。このツールを投資アドバイザーが使うことで、個人投資家にどんなメリットをもたらすのか。中西諒氏と佐々木辰氏に聞いた。

顧客を“主語”にしたアドバイスをするための「資産の見える化」機能

近年、さまざまな業界でCRMツールが使われている。CRMとは「顧客関係管理」のこと。自分が抱える顧客の情報、たとえばこれまでのやりとりの履歴や顧客が置かれている状況などをシステムで一元管理し、各顧客へのアプローチを適切にする。

MONO Investmentも、そういったCRMツールのひとつ。IFAなどの“投資アドバイザー”が使うツールで、そのアドバイザーの顧客情報を一元管理し、適切なアドバイスにつなげるのだ。

具体的にどんなものなのか。特徴的な機能は2つある。そしてそれは、個人投資家を取り巻く“問題点”の解決につながるものだという。ということで、機能を紹介しつつ、彼らの言う“問題点”も明らかにしていこう。

まず1つ目の特徴的な機能は「顧客資産の見える化」だ。

「顧客である個人投資家がいま、どんな資産を保有しているのかを可視化することができます。それも、複数の証券会社を横断して資産を把握できるのが特徴です」(中西氏)

これまでも、1つの証券会社の口座内で顧客がどんな資産を持っているかは見ることができた。たとえばIFAなら、自身が提携している証券会社の口座については、顧客の資産を把握できたといえる。

しかし、個人投資家の中には、複数の証券会社の口座で資産運用している人も多い。本来なら、それらすべての資産をアドバイザーが把握して、顧客に適した提案をするべき。だが実態は違ったという。

実はこれが、冒頭で述べた個人投資家を取り巻く“問題点”だった。

「これまでは証券会社ごとに閉じた資産管理がされており、IFAなどが顧客の資産全体を把握してアドバイスしにくい状況だったといえます。証券会社の垣根を越え、顧客の資産全体を把握しなければ、本当の意味で顧客本位のアドバイスを実現するのは難しいのではないでしょうか」(佐々木氏)

佐々木氏の言葉を借りるなら、特定の証券会社の資産状況だけ見て顧客に提言するのは「証券会社が主語のアドバイス」であり、それを「顧客を主語にしたアドバイス」に変えるのがこのツールだという。

「投資では、株やETF、投資信託、債券など、保有する商品が多岐にわたるため、これらの一元管理に難しさがありました。このツールでは、ISINコードという全世界共通の証券系コードと紐づけて情報を統合しています」(中西氏)

プロの機関投資家に使われてきた投資理論を、個人投資家にも

MONO Investmentの特徴的な機能、その2つ目は「投資提案のサポート」だ。

「顧客の資産を見える化した上で、このツールがポートフォリオを提案します。それをもとに、アドバイザーはより細かなアドバイスを個人投資家に行えると考えています」(佐々木氏)

具体的にどう提案するのか。たとえば個人投資家によって、投資で成し得たいゴールは異なる。まだ若い投資家なら、これから何十年かけて毎月積み立て、3%ほどの期待リターンを求めるかもしれないし、逆に高齢の投資家なら、10年ほど先を見据えて、大きなリターンは目指さず安定的に運用したいかもしれない。このツールは、投資家の資産状況とゴールをふまえて自動で計算を行い、ポートフォリオを提案する。

ここで気になるのは、ポートフォリオを導き出す仕組み。それを構築しているのが中西氏だ。

「ポートフォリオを出すために使われる計算式や理論は、決して目新しいものではありません。プロの機関投資家向けには、昔から使われてきたものです。しかし、その計算には時間やコストがかかり、個人投資家にまで下りていなかった。それを自動化によって広く個人投資家に届けることを可能にしたといえます」(中西氏)

中西氏はもともと、世界最大の資産運用会社といわれるブラックロック・グループの一員、ブラックロック・ジャパンに在籍していた。そこでやっていたのが、上述のポートフォリオ提案やその計算だ。これを自動化し、個人投資家に届けられるようにしたといえる。

「そのほか、ある期間にTOPIX(東証株価指数)のパフォーマンスを大きく下回っている株の銘柄を抽出して、その銘柄を保有する個人投資家をピックアップするなども可能です。IFAはその個人投資家にフォローの電話を入れるなど、より手厚いサポートにつながるのではないでしょうか」(佐々木氏)

売り手都合ではなく、顧客本位のアドバイスが行われる世界を作りたい


これらの機能に通じるのは、顧客本位のアドバイスの実現。それにより「個人投資家にやさしい世界」に近づくことだ。それこそが、2人の目指すものである。

「アドバイザーの提案は『顧客の総資産を上げるため』に行われるべきですが、なかには販売側の利益になる商品を勧めるなど、売り手都合の提案が少なくないといえます。僕たちが究極的に目指すのは、顧客の利益を最大化するアドバイスがきちんと行われる世界。そして、顧客本位のアドバイスをする人がきちんと評価される世界を作りたいんです」(佐々木氏)

そんな目標を抱く同社の動きは止まらない。2022年1月には、MONO Investmentの機能の一部を、IFAなどと取引のない個人投資家でも利用できるようにした。

「MONO Investmentはアドバイザーが使うものであり、これまで個人投資家がその機能に触れるには、このツールを使っているアドバイザーを介す必要がありました。しかし今回、アドバイザーと取引がない個人投資家も、資産の見える化ツールを使える形に。また今後は、ポートフォリオの提案機能も個人投資家が直接使えるようにする予定です」(中西氏)

なお、提案されたポートフォリオに対して、本当にそれでいいのか、プロのアドバイザーの意見を聞いてみたいという人もいるだろう。そういった声も想定し、最適なIFAを紹介するサービスも始めるという。もともと同社は「投資のコンシェルジュ」という個人投資家向けのサポートサービスを展開しており、その中で実現する予定だ。

大学時代の同窓2人が作り上げたサービス。その土台には「個人投資家にやさしい世界」を作りたいという信念がある。旧友らしく、つねに和やかな空気で話す2人だが、彼らの言葉の端々に、この業界に対する強い思いが見える。

(取材・文/有井太郎 撮影/森カズシゲ)

※記事の内容は2022年3月現在の情報です

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