【日経記事でマネートレーニング26】データ編~ロシアの「格下げ」から学ぶこと

提供元:日本経済新聞社

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このコーナーでは日経電子版や日本経済新聞の記事を題材に、投資のリテラシーや資産形成力の基礎知識を身につけることを目的にしています。2022年からコンセプトを少し改めて数値やデータの読み解き方にスポットライトをあてていきます。

データ編の4回目(通算26回目)は「格付け」をとりあげます。ロシアのウクライナ侵攻に伴い、にわかに登場した重要キーワードです。

一見、プロの専門用語に思えますが、個人投資家にとっても相場の分析はむろん投資商品の選択・管理のうえで理解が欠かせません。ロシア国債の格下げに関する記事を材料に、有事への備えやグローバルな投資の管理に関する基本的知識を身につけましょう。

ロシア国債格下げ、「元本返済や利払いが履行されなくなるかもしれません」

ウクライナに侵攻したロシアに対して世界各国が制裁を発動し、世界のマーケットがウクライナ情勢の動きに揺さぶられています。こうした中で、日経電子版で次のような記事が何度も登場しました。

まず「格付け」(レーティング)とはなんでしょうか?

日常用語では「格が違う」などと言ったりしますが、金融市場でいう格付けとはおカネを支払ってくれるかどうかの信用力のランクを指します。

たとえばある国や企業(友人でもかまいません)におカネを貸す場合、信用があれば安い金利でたくさん貸しても良いという判断に至るでしょうし、信用に不安があるなら高い金利で、かつ少額というように条件を厳しくするのが合理的でしょう。

では、信用があるかないかをだれがどうやって決めるのでしょう。相手が顔見知りなら簡単ですが、遠い国や知らない国の政府機関、海外企業だと信用力なんてさっぱりわかりません。そこで登場するのが専門機関による「格付け」なのです。

専門機関とは海外では米国のムーディーズやS&Pグローバル、日本では格付け投資情報センターなどが有名です。これらの専門機関がキャッシュフローつまり支払い余力があるかどうかを判定して、ランク付けをするわけです。

支払い余力とは、、、いささか乱暴なたとえですが以下の事例を比べてみてください。

Aさんの総資産=1億円(遊休地1億円)
Bさんの総資産=1000万円(日本株1000万円)

総資産はAさんがBさんの10倍で圧倒的な資産家といえそうですが、遊休地では一文のお金も生まれません。それどころか、固定資産税支払いの資金繰りにも苦慮しそうです。

Bさんは仮に日本株の配当利回りを3%とすると年間30万円のキャッシュが入ってきます。株式だといざというときに換金も容易です。資産の担保が小さくてもキャッシュ創出力はAさんを上回っており、格付けではAさんを上回る可能性が高くなります。

こんな感じの考え方で信用力の高いものから低いものまで序列を作るわけです。表をご覧いただけるとわかりますが、AやBの数が多いと信用が高いといえますし、Cのほうへ近づくほど信用度は低くなります。ABCの英字に加えてさらにプラスマイナスの記号などをくっつけて将来の方向性のようなものを出す場合もあります。

今回の記事によると、格付け機関がロシア国債の元利払い継続に対する継続性・確実性を一気に引き下げました。要するに「元利金を払ってくれる可能性が小さくなりました」「場合によっては債務が履行されません(デフォルト)」と専門機関が評価していることを意味します。

一般に機関投資家は「このランクの格付けまでなら債券などの金融商品を購入してよい」という線引きをしています。これが投資適格といわれる水準で、格付けBBB(トリプルB)以上が世界標準です。

BB(ダブルB)以下になると融資や債券購入に動く投資家が一気に少なくなります。国や企業からみると金利を高くするか調達額を減らさないと買い手が見つからないことになります。逆にいうと格下げ=金利が上がる(資金を調達する側からみるとコストが上がる)ということです。

そしてBBB以上の格付けを得ていた国や企業の債券がBB以下に引き下げられるといっせいに各国の投資家が売却に動くので、その債券や株式などを組み入れた金融商品も値下がりするわけです。

格下げ=債券下落×通貨下落×株式下落=価値目減り

上側のグラフは米ドルに対するロシア・ルーブルの値動きです。ルーブルは対ドルで過去最安値にまで下がりました。世界各国が貿易を停止したり、米ドル交換に応じない措置を講じたりしたので、通貨の価値が一気に下がりました。ロシアの債券や株式なども売却時にドルや円に換える段階で価値がさらに目減りし、魅力がなくなった格好です。

下側のグラフは国内で販売されているロシア関連の投資信託の基準価格です。ロシア関連の投信はいくつも売られていますが、そろって大幅に値下がりしました。3カ月間ほどで10分の1以下に値段が下がった商品もあります。

格下げとこれらのリスク要因は鶏と卵の関係でどれが起点かは決まっていませんが、格下げ⇒信用力低下⇒債券安⇒通貨安⇒⇒金利上昇⇒貿易縮小⇒キャッシュフロー悪化⇒さらなる格下げ、と無限のループのように悪循環に陥ります。はてはロシアと関係のない東欧諸国のファンドが売られることもありますし、新興国全般の通貨が下げるなど飛び火するケースもあります。

ロシアに限らず、一般に紛争の勃発や地政学的リスクが浮上する局面ではこのように周辺国・地域への負の波及効果にも目配りしましょう。

個人投資家が新興国の金融商品を保有する場合はやはり投信が安全です。ちなみに日本では、A(シングルA)以上の高格付け債を中心に組成した「グローバル・ソブリン・オープン」が比較的有名です。また、CCC(トリプルC)など信用力が低い債券を逆に多く組み入れてリスク分散を図りつつ高利回りを狙う「ハイイールド」系投信も人気です。

(日本経済新聞社コンテンツプロデューサー兼日経CNBC解説委員 田中彰一)

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