リタイア後のマネー事情

どちらかの「厚生年金」だけを頼りにするのは無謀…?

ライフスタイル別に「老後資金」を算出してみた ~片働き夫婦編~

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会社員や公務員は厚生年金保険料を納めるため、老後は老齢基礎年金に加えて老齢厚生年金を受け取ることができる。しかし、夫婦のどちらかが専業主婦(主夫)の場合、片方は年金保険料を納めていないため、その分受け取る年金も少なくなり、共働き夫婦と比べて老後の収入が減ることになる。

そこで、片方が新卒から定年まで会社員を続け、片方が専業主婦(主夫)の夫婦の老後資金を、ファイナンシャルプランナーの大沼恵美子さんに試算してもらった。

まずは「65歳の平均余命」を確認

「老後資金を計算するためには、“ある年齢の人があと何年生きることができるか”を算出した『平均余命』が必要になります。0歳の平均余命だと、定年を迎える前に亡くなった方も含めた数値となってしまうため、ここでは年金受給開始年齢の65歳を基準とし、65歳の平均余命(現在65歳の人が以後生きる年数の平均)を使いましょう」(大沼さん・以下同)

●65歳の平均余命(厚生労働省「令和2年簡易生命表」より)
男性 20.05年(推定される寿命は85歳)
女性 24.91年(推定される寿命は90歳)

「平均余命はあくまで平均なので、半数の人が亡くなり、半数の人はそれ以上生きるタイミングといえます。仮に4分の3の人が亡くなるタイミングを計算すると、男女ともに平均余命の6年先になるといわれているので、男性は91歳、女性は96歳まで生きる可能性も考えましょう」

夫婦2人の老後の生活費は7000万円以上

男女それぞれの余命をもとに、以下の条件で老後資金を算出してみよう。

●夫婦が同い年
●夫が新卒から会社員を続け、65歳で退職
●妻が22歳から28歳まで会社員として働き、29歳以降は専業主婦

「総務省の『家計調査年報(家計収支編)2020年(令和2年)』によると、65歳以上の夫婦のみの無職世帯のひと月の支出は25万5550円。平均余命から考えると、夫が先に亡くなることが想定されるので、夫の死後に妻1人になったときの生活費も見ておきましょう。同じ調査の65歳以上の単身無職世帯のひと月の支出は14万4687円です」

今回使用する数字は、食費や住居費、交際費などの消費支出と、直接税や社会保険料などの非消費支出を合計した額。

●65歳の平均余命まで生きた場合にかかる生活費
◆夫(85歳まで)・妻(90歳まで)
25万5550円×12カ月×20年=6133万2000円
14万4687円×12カ月×5年=868万1220円
6133万2000円+868万1220円=7001万3220円

●現在65歳の4分の3が亡くなるタイミングまで生きた場合にかかる生活費
◆夫(91歳まで)・妻(96歳まで)
25万5550円×12カ月×26年=7973万1600円
14万4687円×12カ月×5年=868万1220円
7973万1600円+868万1220円=8841万2820円

「この数字は、さまざまな生活レベルの人たちの平均から算出した生活費であることを前提としましょう。一般的な生活を続けた場合の金額なので、将来的に介護サービスや高齢者施設などの利用を考えると、夫婦それぞれに2000万円ずつくらいは上乗せで必要になるかもしれません」

「年金」だけだと老後の生活費はやや不足

老後資金の総額がわかったところで、続いては65歳以降に受給できる年金を見ていこう。

「65歳以降は年金が支給されるので、退職したからといって収入がゼロになるわけではありません。また、夫の死後、妻は遺族厚生年金を受け取ることができます。そのため、老後の生活費の全額を準備しておかなくてもいいのです」

厚生労働省の「令和2年度 厚生年金保険・国民年金事業の概況」によると、老齢基礎年金と老齢厚生年金を合わせて、男性の平均年金月額は17万391円。日本年金機構の発表では、令和2年の老齢基礎年金の月額は6万5141円だから、男性の老齢厚生年金の月額は10万5250円となる。

「妻は22歳から28歳まで厚生年金に加入していたことになるので、その分の厚生老齢年金額を算出してみましょう。本来は生年月日に応じた率をかけますが、働いていた期間が短いので、今回はその率を1とします。定額部分の1628円に加入月数72カ月をかけると、毎年11万7216円が厚生老齢年金として支給されることになります」

65歳以上で受け取る遺族厚生年金は、「亡くなった配偶者の老齢厚生年金の4分の3(A)」または「Aの3分の1と本人の老齢厚生年金の2分の1を合計した額」の高い方の額となる。上記のデータをもとにすると、「亡くなった配偶者の老齢厚生年金の4分の3」の方が高くなるため、こちらを使用する。

※「18歳になった年度の3月31日までの子ども」または「20歳未満で障害等級1級または2級の障害の状態にある子ども」がいない場合で試算。

●65歳の平均余命まで生きた場合
◆夫(85歳まで)・妻(90歳まで)
夫の年金 17万391円×12カ月×20年=4089万3840円
妻の年金 (6万5141円×12カ月+11万7216円)×20年=1797万8160円
(妻の遺族厚生年金7万8937円+老齢基礎年金6万5141円)×12カ月×5年=864万4680円
年金収入合計 4089万3840円+1797万8160円+864万4680円=6751万6680円

年金収入6751万6680円-生活費7001万3220円=-249万6540円

●現在65歳の4分の3が亡くなるタイミングまで生きた場合
◆夫(91歳まで)・妻(96歳まで)
夫の年金 17万391円×12カ月×26年=5316万1992円
妻の年金 (6万5141円×12カ月+11万7216円)×26年=2337万1608円
(妻の遺族厚生年金7万8937円+老齢基礎年金6万5141円)×12カ月×5年=864万4680円
年金収入合計 5316万1992円+2337万1608円+864万4680円=8517万8280円

年金収入8517万8280円-生活費8841万2820円=-323万4540円

「妻が専業主婦の期間が長い場合、年金だけだと300万円前後は足りなくなるといえます。生活を見直して、ひと月の生活費を20万円程度に抑えられれば、年金だけでもまかなえますが、かなり控えめな生活になります。夫の退職金や生命保険が出るようであれば、そこも踏まえて考えてみましょう」

●大企業の平均退職金額(男性)(厚生労働省「令和元年賃金事情等総合調査」より)
大学卒・満期勤続の場合 2289万5000円
高校卒・満期勤続の場合 1858万9000円

●中小企業の平均退職金額(東京都産業労働局「中小企業の賃金・退職金事情(令和2年版)」より)
大学卒・満期勤続の場合 1118万9000円
高校卒・満期勤続の場合 1031万4000円

「夫が大企業に勤めていれば、2000万円前後は退職金が受け取れるので、それなりに余裕ができるでしょう。中小企業の退職金は1000万円前後なので、96歳まで生きた場合でも生活費はまかなえますが、それに加えて現役世代のうちに資金を準備しておけると、老後がラクになります」

老後の備えのために「働く」ことも検討しよう

大沼さんが話していたように、将来的に高齢者施設に入ることなどを考えると、それなりの備えが必要になる。

「健康なまま過ごすことができれば、心配はありませんが、もし病気やケガをして介護が必要になってしまうと、介護サービスや高齢者施設の費用がかかります。退職金があるとしても、夫婦それぞれに2000万円くらい備えられると安心なので、まずは生活を見直してみましょう」

45歳から貯め始めることを想定した場合、60歳までの15年間は毎月8万円、60歳から65歳の5年間は毎月4万円の積立貯金をすれば、1680万円を貯められる。ただ、専業主婦(主夫)にとっては捻出しづらい額となるため、iDeCoやつみたてNISAを利用して効率的にお金を運用できるといいだろう。

「また、大切なのは、会社員の側が途中で会社を辞めないことです。厚生老齢年金や退職金は大きな支えになるので、定年まで勤め上げたいところ。とはいっても、近年は早期退職者を募る会社が増え、定年まで勤め上げにくくなってきています。早いうちに何かしらのスキルを磨き、定年間近になっても会社に重宝される人材を目指すことが重要になってくるでしょう。老後に不安があるならば、専業主婦(主夫)ではなく働きに出て、世帯の収入を増やすことも視野に入れましょう」

夫婦のどちらかに十分な収入がある場合は、贅沢しすぎずにしっかり貯蓄もしておくことで、老後も安心して過ごせるようになるだろう。不安があるなら、大沼さんも言っていたように、夫婦ともに働くことも検討しよう。
(有竹亮介/verb)

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