企業型確定拠出年金とは?3つのメリットもわかりやすく解説
企業型確定拠出年金とは、主に企業が掛金を積み立て、従業員が資産を運用する年金制度です。加入することで、積み立ての複利効果や税制優遇措置などのメリットが得られます。本記事では、企業型確定拠出年金とはどのような制度なのか詳しく説明した後で、3つのメリットを紹介します。
企業型確定拠出年金(企業型DC)とはどんな制度?
企業型確定拠出年金は、拠出された掛金とその運用収益の合計額から将来の給付額が決定する年金制度(確定拠出年金)のひとつです。加入者は、2017年3月末(約593万人)から2021年3月末(約750万人)までで約157万人増えています。
参考:厚生労働省「確定拠出年金制度の概要」
参考:企業年金連合会「確定拠出年金統計資料(運営管理機関連絡協議会提供)」
掛金の拠出限度額があらかじめ決まっており(Defined Contribution)、企業型DCと呼ばれることもあります。確定拠出年金には、企業型確定拠出年金(企業型DC)の他に、個人型確定拠出年金(iDeCo)というタイプも存在するため、混同しないようにしましょう。
企業型確定拠出年金の概要を詳しく解説します。
公務員以外の厚生年金被保険者が対象
企業型確定拠出年金は、制度を導入している企業に勤めている方が加入の対象です。第1号厚生年金被保険者(民間被用者)もしくは第4号厚生年金被保険者(私立学校教職員)であることが条件のため、国家公務員(第2号厚生年金被保険者)や、地方公務員(第3号厚生年金被保険者)は加入できません。
ただし、個人型確定拠出年金(iDeCo)は、公務員も加入対象です。
会社が掛金を拠出し従業員が運用
企業型確定拠出年金は、会社が掛金を拠出する点が特徴です。厚生年金基金、確定給付企業年金など他の企業年金を実施している場合は27,500円、実施していない場合は55,000円が毎月拠出できる上限とされています。
運用で指図をおこなうのは、加入者自身です。預貯金、投資信託、保険商品等の運用商品の中から、加入者が選択します。
マッチング拠出で従業員が掛金を上乗せ可能
企業型確定拠出年金では、会社が拠出する掛金に加えて、加入者本人が掛金を上乗せして拠出することができます。このしくみを「マッチング拠出」といいます。マッチング拠出の制度を利用すれば、企業の掛金に従業員(加入者)自身で上乗せできます。ただし、規約で定められていなければ制度を利用できないため、事前に担当部署に確認しておきましょう。
また、従業員が拠出する掛金は企業が拠出する額を超えないことや、企業が拠出する額との合計が拠出限度額を超えないことが上乗せできる条件です。
企業型確定拠出年金のメリットは3つ
企業型確定拠出年金で運用して利益が出れば、複利効果で将来の受取金額を増やすことが期待できます。複利効果とは、運用で得た利益を再び運用にまわすことで、小さな利益がゆくゆくはまとまった利益になることです。
また、企業型確定拠出年金に加入することで、以下3つのメリットも期待できます。
1.税制優遇措置がある
2.口座管理手数料は会社が負担する
3.離転職時に持ち運びできる
それぞれのメリットについて詳しく解説します。
1.税制優遇措置がある
企業型確定拠出年金に加入すると、税制優遇措置があります。株式や投資信託の運用益には所得税や住民税が課されるのに対し、企業型確定拠出年金は運用中の運用益が非課税です。
また、企業型確定拠出年金を受け取る際は、税負担の軽減もできます。年金として受け取る場合は公的年金等控除、一時金として受け取る場合は退職所得控除の対象です。
さらに、マッチング拠出を利用して従業員が掛金を上乗せする場合、拠出した掛金を全額所得控除できます。
2.口座管理手数料は会社が負担する
確定拠出年金を管理・維持するには口座管理手数料が必要になります。企業型確定拠出年金の場合、会社が全額負担してくれるため、加入者(従業員)は負担不要です。
一方、個人型確定拠出年金(iDeCo)に加入する場合は、加入者自身が払わなければなりません。手数料の水準は、金融機関によって異なります。
3.離転職時に持ち運びできる
加入者が転職した場合、確定拠出年金で積み立てた資産を転職先企業に持ち運び可能です。この仕組みをポータビリティ制度と呼びます。ポータビリティ制度を利用することで、転職先の企業型確定拠出年金へ移管する、フリーランスになった際に個人型確定拠出年金(iDeCo)へ移管するなど、課税されずに資産を動かせる点がメリットです。
ちなみに、退職したにもかかわらず、ポータビリティ制度を利用しないまま6カ月が過ぎた場合、資産が国民年金基金連合会に移されます(自動移換)。移換されると受給開始年齢の遅れにつながりかねないため、忘れないようにしましょう。
企業型確定拠出年金の注意点は2つ
企業型確定拠出年金はさまざまなメリットが期待できます。ただし、加入前にいくつか把握しておかなければならない点があります。制度の中でも特に大切なポイントは以下の点です。
1.引き出し可能なのは60歳から
2.一定のリスクがある
企業型確定拠出年金の仕組みを十分に理解できるように、2つの注意点について詳しく解説していきます。
1.引き出し可能なのは60歳から
企業型確定拠出年金の老齢給付金は、原則として60歳に到達した際に受給できるものです。そのため、たとえ急にまとまったお金が必要になったとしても60歳までは預金のように簡単には引き出せません。
ただし、企業型確定拠出年金の掛金は企業が拠出しているものであるため、もともと手元になかったお金ですし、大きなデメリットではないでしょう。また、マッチング拠出制度を利用した上乗せは、無理のない範囲で検討することがポイントです。マッチング拠出は途中でやめることもできるので、状況に応じて判断しましょう。
なお、中途脱退して60歳より前に「脱退一時金」をもらうことは可能ですが、資産額や企業型確定拠出年金・個人型確定拠出年金(iDeCo)の加入状況など、厳しい要件が設けられています。
2.一定のリスクがある
企業型確定拠出年金では、将来の給付額が運用結果に左右されます。運用が上手くいけばリターンが大きくなる一方、運用次第で資産が減るリスクがある点に注意が必要です。
ただし、リターンを得て資産を増やそうとすると、企業型確定拠出年金に限らずどのような方法でも一定のリスクを伴います。また、比較的安全とされる預貯金でさえ、インフレが進むことで現金の価値が相対的に低くなり、結果的に目減りしてしまうリスク(インフレリスク)が存在します。
企業型確定拠出年金の気になる疑問を解決
企業型確定拠出年金は、確定給付型の企業年金が抱えていたさまざまな問題点を解決するために、2001年10月から始まった制度です。他の年金制度と比べると歴史が浅いことから、まだ理解しきれない部分もあるでしょう。
そこで、ここから以下の3つの疑問点に答えていきます。
・個人型(iDeCo)や退職一時金との違いは?
・企業型・個人型間での転換や併用は可能?
・企業型確定拠出年金の確認方法とは?
個人型(iDeCo)や退職一時金との違いは?
まず、企業型確定拠出年金と個人型確定拠出年金(iDeCo)の主な違いは、掛金の拠出主体や加入対象者です。企業型では、基本的に会社が掛金を拠出するのに対し、個人型では加入者が拠出します。また、企業型は、実施企業に勤務する従業員に限定されるのに対し、個人型は自営業者や公務員、専業主婦(夫)なども対象です。
企業型確定拠出年金と、退職時に企業が一括で支給する退職一時金は、ポータビリティ制度があるかないかで異なります。退職一時金は原則、転職先企業に持ち運べません。また、企業型確定拠出年金の給付額は運用実績に左右されるのに対し、退職一時金は勤続年数などに応じて、社内規定であらかじめ定められた金額となる点が特徴です。
企業型・個人型間での移換や併用は可能か?
企業型確定拠出年金は、転職時に確定企業給付年金、個人型確定拠出年金(iDeCo)、中小企業退職金共済といった他制度への移換も可能です。また、今まで個人型確定拠出年金(iDeCo)に加入していた方は、転職先で導入していれば企業型確定拠出年金に移換できます。
なお、法改正されたことで、2022年10月からは規約の定めや事業主掛金上限の引き下げがなくても、原則企業型確定拠出加入者が併用して個人型確定拠出年金(iDeCo)にも加入できるようになります。
参考:厚生労働省「企業型DC加入者のiDeCo加入の要件緩和(2022年10月1日施行)」
企業型確定拠出年金の確認方法とは?
勤務先が企業型確定拠出年金を導入しているかどうか気になる方は、まず会社の所管部署に確認しましょう。人事部や総務部が所管していることが一般的です。
ただし、会社が企業型確定拠出年金を導入していても、自分が該当しない可能性もあります。加入対象がどうなっているか企業が定めている規約を確認することも大切です。
まとめ
企業型確定拠出年金とは、主に会社が掛金を拠出し、従業員(加入者)が運用する制度です。企業型確定拠出年金に加入すると、税制優遇措置やポータビリティなどのメリットが期待できます。
勤務先が企業型確定拠出年金を導入しているという方は、60歳以上から引き出し可能になる点や、一定のリスクを伴う点を理解した上で、加入を検討してみてください。
ライター:Editor HB
監修者:鈴木 靖子(ファイナンシャルプランナー、AFP認定者)
監修者の経歴:
銀行の財務企画や金融機関向けサービスに10年以上従事。企業のお金に関する業務に携わる中、その経験を人々の生活に生かすためFP資格を取得。現在は金融商品を売らない独立系FPとして執筆や相談業務を中心に活動中。フリーランスがお金の知識を持つことの大切さを実感しており、フリーランス向けマネーブログを運営している。