マネ部的トレンドワード

ぴあ総研に聞く、復活の兆し

コロナ禍でも続くアリーナ建設の動き。「ライブ・エンタメ」のこれからを展望する

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市場の変化や動向を深掘りする連載「マネ部的トレンドワード」。当連載では、これまでコロナ禍で起きた業界の動きを取り上げてきた。今回注目するのは「ライブ・エンタメ業界」だ。

いまさら説明するまでもなく、ライブ・エンタメ業界は今回のパンデミックで厳しい状況に立たされた。しかしその一方で、この期間に大きな“進化”も見られた。オンラインライブはその代表だろう。

加えて、リアルライブの灯火も消えていない。むしろ今後、その市場はより拡大する可能性もある。というのも、コロナ終息後を見据えて、この時期にライブ会場を作る動きが活発化しているというのだ。

そこで話を聞いたのが、ぴあ総合研究所 所長の笹井裕子氏と、ぴあ 取締役 社長室長兼ぴあ総研 取締役論説委員の小林覚氏。ライブ・エンタメは、再び立ち上がるのか。2人の言葉から未来を展望したい。

オンラインライブは、いまや「新しい収益源」にも

まずは、コロナ禍に起きたライブ・エンタメの“進化”を振り返りたい。やはり大きいのはオンラインライブの普及だろう。その形態はこの2年で多様化し、最近はオンラインライブから新しい収益が生まれるケースも増えていると笹井氏はいう。

「初期はアーティストが自宅から配信するケースに始まり、その後、無観客のオンラインライブ、そうして有観客+オンラインのハイブリッドライブが出てきました。さらに最近は、ライブ終わりにアーティスト自身が有料の振り返り配信を行うなど、リアルライブに付随するオンラインコンテンツも登場。新たな収益源となっています」

オンラインライブの観点では、今後、メタバースのライブも増えると考えられる。それは「リアルライブの代替とも違う、まったく別種のオンラインライブになるのでは」と笹井氏は付け加える。

なお、オンラインライブは定着したものの、それによりリアルライブのニーズが減ったということはない。これは多くの人も実感していることだろう。

「むしろオンラインライブが普及するほど、反動でリアルライブへのニーズが高まっているといえます。そもそも、コロナ前の数年間は、デジタル化の中でリアルライブの市場が右肩上がりになっていました。オンラインやデジタルなど、非接触の文化が広がるほど、リアルが求められるのでしょう」(笹井)

この時期のライブの進化としてもうひとつ、「電子チケット」の普及も挙げられる。従来の紙チケットではなく、スマホアプリで管理するチケットが増えた。コロナ前からこの動きはあったようだが、電子チケットについては「まだまだ検討すべき部分が多い」と小林氏はいう。

「電子チケットが本当にお客さまにやさしいのか、まだ考えるべき部分があります。操作が難しいという声もありますし、チケットアプリも各社で出している状況。お客さまはライブごとそれぞれのアプリを使わなければなりません。今後考えていくべき課題ですね」(小林氏)

これまで少なかった民間企業のアリーナ運営。なぜいま増えているのか

ここまではコロナ禍での進化を聞いたが、気になるのはライブ・エンタメの“これから”。笹井氏によると「実はこの状況下でも、新しいライブ会場のオープンや、これから作る動きが目立っています」とのこと。リアルライブの価値はむしろ高まっており、コロナ終息後を見据えて準備が始まっているようだ。

しかも、最近のライブ会場を作る動きには、ひとつの特徴が見られるという。

「これまで、大規模なアリーナは自治体などの公的機関が中心となって建設・運営するケースがほとんどでした。数百億円の費用が必要になることが多く、民間企業だけでは難しい面があったのです。しかし、ここにきて民間企業がアリーナを作り、直接運営するケースも登場しています」(笹井氏)

なぜ民間企業が直接運営するのか。大きな理由として、小林氏は「民間ならではの面白い運営ができること」を挙げる。

「たとえば自治体のアリーナは、多くの土日祝日を地域イベントに割かなければなりません。また、自治体運営ならではの制約も出てきます。一方、民間のアリーナはスケジュールからイベント内容まで自由度を上げられます。面白い運営が可能になるでしょう。それはお客さまやアーティスト、そして運営企業にもメリットを生むはず。端的にいえば、ビジネスベースに乗りやすいのです」

とはいえ、大規模なアリーナは多額の費用がかかるのは先述の通り。民間企業がそのリスクを背負うのは簡単ではない。そこで最近は、アリーナの構造をシンプルにして低予算化を実現。これにより、民間企業の参入が増えているという。

「従来のアリーナは、自治体運営だからこそ、さまざまな用途を見据えた“多目的アリーナ”のケースが多く、その分、費用はかさみました。一方、民間であれば、用途を絞ったアリーナを作ることが可能。費用は安く、民間企業も作りやすくなります」(小林氏)

ぴあでも、2020年7月に直営のアリーナをオープンした。横浜みなとみらいにある「ぴあアリーナMM」だ。音楽に特化したシンプルな作りにすることで、初期費用は100億円程度に。音楽に最適化してはいるが、もちろん音楽以外の興行も行うことができる。


民間企業が単独でアリーナを運営するのは当時異例のこと。その後、同じような動きが増えたという。また、土地開発を担うデベロッパー側も「“人が集まる”ことがもたらすエリアへの経済効果を評価しているからこそ、アリーナを作る動きを後押ししているのでは」と、小林氏は説明する。

集客エンタメは、SDGsとウェルビーイングの主役になり得る

ライブ・エンタメ業界の“これから”においては、もうひとつ重要な動きがある。これまで音楽や演劇、スポーツは「エンタメによって集客する」という共通点がありながら、横のつながりは少なかった。しかし、コロナ禍をきっかけに「集客エンタメ産業」として集まり、業界を超えて連携し始めたという。

「これまでは業界ごとそれぞれ試行錯誤していたものを、ひとまとめにしたのが集客エンタメ産業です。各業界がつながり、さらに街づくりなどの周辺産業とも連携することで、より波及効果を高めていけるでしょう」(笹井氏)

業界の今後を展望したところで、改めて2人が伝えるのは、ライブなどの“集客エンタメ”が果たす役割の大きさだ。笹井氏は「人々の価値観は、ウェルビーイングをはじめ、それぞれの幸福を大切にすることへシフトしています。集客エンタメは、まさしく幸福に貢献するものですし、これからの社会でより重要になるはずです」と話す。

さらに小林氏は、SDGsとエンタメの関係について、こんな思いを語る。

「SDGsの17の目標の中に、文化・芸術・アート・スポーツの維持・発展といった項目はありません。しかし、これらはまさに持続的な人間の大切な活動です。長い歴史を持つ伝統芸能はその顕著な例。もちろん、環境への負荷も低いですよね。私は大げさでなく、エンタメがSDGsの主役になれると思っています。投資家の方をはじめ、もっと多くの注目がこの分野に集まってくれればうれしいですね」

コロナ禍のライブに行くと、多くのファンは一切声を出さず、ルールを守って観ている。好きなアーティストに迷惑をかけたくないという思いも根底にあるだろう。そんないまのライブを見て、2人は「エンタメが人々の行動変容を起こしている」と強く感じたという。まさにそれこそが“エンタメの力”なのかもしれない。

コロナ禍でこの業界が苦境に立たされたことは間違いない。しかし、その価値を再確認する機会になったのも事実。コロナが終息したそのとき、ライブ・エンタメはきっと新しい局面に入っているだろう。

(取材・文/有井太郎 撮影/森カズシゲ)

※記事の内容は2022年4月現在の情報です

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