マネ部的トレンドワード

1カ月にわたり、約5000戸を対象に実施

グローバルで見ても日本は上位。大規模な実証実験で見えた「自動宅配ロボット」の可能性

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市場の新しい動きに注目する連載「マネ部的トレンドワード」。この記事では、自動運転編の第4回として「自動宅配ロボット」をピックアップする。

近年、食べ物などのデリバリーが急速に普及してきた。これらは配達員などの“人”が商品を運ぶ形がほとんどだが、その役目を自動宅配ロボットが担う動きが進んでいる。

たとえば2022年2月1日~28日には、東京都中央区の佃・月島・勝どきエリアで、自動宅配ロボットを活用したデリバリー事業の大規模な実証実験が行われた。ロボットを2カ所の拠点に配置し、専用サイトから注文が入るとお店までロボットが移動して商品をピック。その後、注文者のマンションまで配送するというもの。基本的には、すべての移動が自動運転で行われる。配送エリアの対象戸数は約5000戸に及んだという。

この実証実験は、ENEOSホールディングス(以下、ENEOS)とZMP、エニキャリの3社によって実施された。果たしてどんな成果が生まれたのだろうか。加えて、なぜENEOSがこの領域に進出したのかも聞きたいところ。

そこでENEOSホールディングス 未来事業推進部の片山裕太氏と、ZMPロボライフ事業部マネージャーの池田慈氏に取材。上記の質問を投げかけた。

なぜENEOSは自動宅配ロボットの事業に参画したのか

今回の実証実験では、ZMPの開発した自動宅配ロボット「デリロ®(DeliRo®) 」を活用。エリア内に2つの拠点(Dr.Drive月島SS、シェア型企業寮「月島荘」)を設けてデリロを配置し、専用サイトから注文を受けると、デリロが商品をピック・配送。自動運転中は、デリロのカメラ映像を通じて遠隔から監視したという。なお、専用サイトや注文プラットフォームの構築はエニキャリが行った。

1カ月に及ぶ実証実験の成果も気になるところだが、その前になぜ、ENEOSは自動宅配ロボットの領域に進出したのだろうか。片山氏はその理由をこう説明する。

「今後、ガソリン需要の減退が見込まれる中で、各地のサービスステーション(SS)というアセットをうまく活用した事業ができればと考えました。このプロジェクトも、SSをロボットの拠点にすることで、自社アセットを活用した形です」

あわせて、社会的背景も大きな理由にある。近年デリバリー需要が高まる中で、配達員の確保が課題に。そこでロボットを使い、持続可能なデリバリーサービスができないか考えたという。

なお、片山氏の所属するENEOSの未来事業推進部は、ベンチャー企業に投資するCVCファンドを運営。そこでZMPと資本提携を結び、今回の事業を進めている。

そのZMPは、車の自動運転や今回の宅配ロボットのような「自律移動」の開発・研究を行ってきた。自動運転はいま熱い領域だが、なかでも宅配ロボットのような低速領域、厳密には「時速6キロ」までの自動運転については「法改正が一斉に進められており、実用化が見えてきている」と池田氏はいう。

なお、今回の座組みで実証実験を行ったのは2回目。1年前に「第1弾」となる自動宅配ロボットの実証実験を実施していた。そこでは、自動運転や宅配プラットフォームが問題なく機能するかという「技術的な検証」が主目的だった。今回はフェーズを一段上げて、事業として成り立つかを見極める「事業性の検証」が目的だったという。

そのため、第1弾に比べて規模も拡大した。デリロの設置場所は1カ所から2カ所に増え、配送エリアも拡大。前回は対象が約1000戸だったが、今回は約5000戸に。また、商品を注文できる店舗も、前回の11店舗から27店舗へと大幅に増えた。これほど大規模な自動宅配ロボットの実証実験は、国内でもほとんどないようだ。

また、デリロの移動も「より高度なものが求められた」と池田氏は振り返る。というのも、第1弾の実証実験では、注文が入るとSSに待機しているデリロにお店から人が商品を運んで積んでいたが、今回はデリロ自らがお店に向かい、商品を受け取ったら注文者のマンションへ向かう形に。そうしてマンション入口で注文者に商品を受け渡す。

つまり第2弾では、デリロの向かう目的地はマンションだけでなくお店も含まれた。その分、ルートが多様化したといえる。池田氏は「店舗と配送先あわせて、40カ所以上にデリロが向かいました」とのことだ。

加えて、1日限定で深夜時間の営業も実施(2月18日24時~翌7時)。夜間の宅配も問題なく行えることを確認したという。

早ければ2023年に実用化の可能性も。フード以外の品物も宅配したい


ここからは、今回の実証実験で得られた成果を聞いてみたい。さしあたっての成果として「1カ月にわたりスムーズに運用できたこと」に触れた上で、もうひとつ大きな成果として「想定以上の高いニーズを確認できたこと」を片山氏は挙げる。

「期間中に合計650件ほどの注文をいただきました。これは想定していた数字を大きく上回るニーズだったといえます。それだけでなく、お客さまからは『ロボットが運んでくる体験が楽しい』『特に深夜帯は、人よりもロボットの宅配の方が安心』という声も。確かなニーズがわかったことは大きな成果でした」

ZMPの池田氏は、先述した「ルートの多様化」のために「積み下ろしポイント(行き先)の増加」に対応できたことも重要な成果だと語る。

「今回は40カ所超のポイントが対象でしたが、このシステムでは、さらにポイントを大幅に増やすことも十分可能です。そういった技術を準備できたのも大きな成果になりました」

そしてまた、この実証実験の結果が今後の実用化への後押しになると2人は考える。先述したように、宅配ロボットのような低速領域はここにきて法改正や規制緩和が進んでいる。「早ければ2023年には実用化されるかもしれません」と池田氏は展望する。

「現状では、宅配ロボットは原付自動車の法律を緩和した形で公道走行が許可されています。ですが、国は新たなカテゴリを設ける方向で進んでおり、すでに閣議決定も行われています。また、宅配ロボットの業界団体も立ち上げられる予定。早ければ2022年には大枠のルールができ、2023年には実用化される可能性も。グローバルで見ても、日本は宅配ロボットの領域で上位にいると思います」

今後は、この実証実験を検証し、来年以降のサービス化を検討していく。今回はフードの宅配がメインだったが、片山氏は商品ジャンルをさらに広げたいという。

「ドラッグストアやスーパー、コンビニの品物など、ロボットが運ぶことが価値になる商品はたくさんあります。そういったジャンルにも広げ、多様な商品を届けたいですね。結果、ロボットの稼働率も上がり、事業性も増すと思います」

そうして、ゆくゆくは地方の過疎地域でロボットが宅配する姿も視野に入れる。着々と進化する宅配ロボットのサービス。数ある自動運転技術の中でも、まずはこの分野の実用化がもっとも現実的かもしれない。

(取材・文/有井太郎)

※記事の内容は2022年4月現在の情報です

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