市場関係者メッセージ
新市場区分の選択を企業価値向上への取組みの契機に
※この記事はJPX「新市場区分特設サイト」上で2021年12月1日に掲載した記事の再掲載です。
木村祐基
スチュワードシップ研究会 代表理事
2022年4月から東証の新市場区分への変更が行われる。上場会社は、各市場区分のコンセプトや上場基準を踏まえて、移行先となる市場区分を主体的に選択することとされている。
今回の市場区分の見直しは、単に従来の東証1部上場企業がプライム市場に移行するというものではない。東証のホームページには、今回の市場区分の見直しに至った背景の説明があり、そこでは、現在の市場区分が「上場会社の持続的な企業価値向上の動機付けが十分にできていない」ことがあげられている。
どの市場を選択するにしろ、上場企業には「持続的な企業価値の向上を目指す」ことが求められており、今回の市場区分選択を、企業価値向上のための取組みを見直す機会とすることを期待している。
市場選択に当たっては、自社の経営目的・経営方針に照らして、最も適合する市場を選択することが肝心だろう。投資家は、企業が選択した市場によって投資対象を決めるわけではなく、「企業の魅力」によって投資対象を決める。(注)
東証の説明では、プライム市場は「グローバルな投資家との建設的な対話を中心に据えた企業向けの市場」とされており、本年6月に改訂されたCGコードでも、英語での情報開示、十分な数の独立社外取締役の選任、人材の多様性、気候変動をはじめとする環境・社会問題のハイレベルの開示など、グローバルレベルの取組みと開示が求められる。プライム市場を選択する企業には、積極的に世界の投資家との対話に臨んでほしい。
一方、スタンダード市場は「公開された市場における投資対象として十分な流動性とガバナンス水準を備えた企業向けの市場」、グロース市場は「高い成長可能性を有する企業向けの市場」とされており、いずれの市場においても、上場企業としてコーポレートガバナンス・コードを踏まえたガバナンス体制の整備や持続的な成長への取組みを推進していくことが期待される。
すべての上場企業が、自社の特性に合った市場を選択し、資本コストの認識と資本効率性の追求、適切な財務政策と株主還元、一般株主利益の尊重など、企業価値向上に向けた取組みを実行されることを期待している。
(注)日本証券経済研究所の明田雅昭氏は、11月12日までにスタンダード市場を選択した会社の株価について、統計的優位な下落が発生しているとは認められない、と分析している。(東証一部企業の新市場区分選択〜11月12日経過レポート (jsri.or.jp))
木村祐基 一般社団法人スチュワードシップ研究会 代表理事
一橋大学商学部卒業後、野村総合研究所入社。企業調査部にて証券アナリスト業務に従事。第四企業調査室長、野村総研香港社長、エマージング企業調査部長を経て、1996年野村投資信託委託(現野村アセットマネジメント)に移籍。企業調査部長兼経済調査部長、参事コーポレート・ガバナンス担当などを歴任。2008年1月から2010年8月まで、企業年金連合会年金運用部コーポレート・ガバナンス担当部長。2010年11月から2014年7月まで、金融庁総務企画局企業開示課専門官。2014年10月、一般社団法人スチュワードシップ研究会設立に伴い代表理事に就任(現職)。2017年10月、一般社団法人機関投資家協働対話フォーラム設立に伴い、代表理事・理事長に就任(現職)。