市場関係者メッセージ
上場企業のさらなる質向上が株式市場の発展のために必要
※この記事はJPX「新市場区分特設サイト」上で2021年12月6日に掲載した記事の再掲載です。
川北英隆
京都大学名誉教授、同大学院経営管理研究部特任教授
22年4月4日、日本の株式市場は新装開店となる。グローバルな投資家向けのプライム市場と新興企業のためのグロース市場が目玉である。スタンダード市場は株式市場全体のベースを支えることになろう。
グロース市場への上場は、成長のための必要十分な見取り図を書け、かつそれを投資家向けにきちんと説明できる企業であれば簡単である。この意味で開かれた市場であり、起業をしっかり支援できている。
プライム市場は、グローバルな投資家を意識した市場改革への第一歩を踏み出したようだ。言い換えれば、日本の株式市場をより良いものにするため、投資家としての要望が依然多い。2点だけ指摘しておきたい。
1つは規模である。プライム市場の条件として「流通株式時価総額100億円以上」とされたことは評価できる。とはいえ100億円はまだまだ小さい。日本市場全体の1/1万にも満たない小規模企業に、グローバルな投資家が積極的に投資するのだろうか。
もう1つは質である。現在の市場第一部上場企業の株価純資産倍率(PBR)をみると、半数近くが1倍未満である。PBRは企業経営の質を端的に表す。長期的にPBR1倍未満が続くのであれば、企業もしくは企業が属す業界として構造的問題を抱えている可能性が高い。少なくとも投資家がその企業の経営を疑っていると考えるのが正しい。これに関連して、時価総額規模の小さい企業の半数以上がPBR1倍未満だと付け加えておく。経営の質が時価総額の大きな壁なのだろう。
プライム市場を制度化すれば、その上場基準を簡単に変えられないのも確かである。そこで、グローバルな投資家のために活用できるのが株価指数である。今回、プライム市場と東証株価指数(TOPIX)との一対一の対応関係が外され、新TOPIXの公表が始まる。
インデックスを用いた投資が重要になるにつれ、株価指数の役割が大きく変化している。新TOPIXは当面の経過措置が終わった後、設計の自由度が増そう。是非とも投資家を魅する指数となってもらいたい。そのためには、規模や質の面から上場企業をさらに選りすぐる必要がある。この点、今から準備しても早すぎることはない。それが上場企業の向上意欲を一層高めることに結びつく。
川北英隆 京都大学名誉教授、同大学院経営管理研究部特任教授
1974年京都大学経済学部卒業、京都大学博士(経済学)。専門は投資理論、証券市場分析。日本生命保険相互会社取締役財務企画部長、中央大学国際会計研究科特任教授、同志社大学政策学部教授、京都大学経営管理研究部教授(定年退職)などを経て現職。財政制度等審議会委員、日本取引所自主規制法人理事(外部)などを務める。
最近の著書には『「市場」ではなく「企業」を買う株式投資・増補版』(2021年)が、環境・社会に関しては「地方再生手段としての信託」(家族信託実務ガイド第23号)など。