東証市場再編

市場関係者メッセージ

新市場区分見直しと日本企業の非財務価値の顕在化への期待

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※この記事はJPX「新市場区分特設サイト」上で2021年11月29日に掲載した記事の再掲載です。

柳良平
エーザイ株式会社 専務執行役 CFO(最高財務責任者)

今般の新市場区分見直しについては、上場企業の持続的企業価値向上の新たな起点として期待したい。

「月刊資本市場2021年9月号」で東証上場部長の林謙太郎氏が「3つの誤解」と称して説明しているように、市場区分変更は、プライム市場の上場会社数の削減、ガバナンスコードへのフルコンプライアンスを求めるものでもなければ、スタンダード選択企業からのパッシブ機関投資家の離脱を意味するものでもない。

上場企業は改訂の根本的な趣旨が「上場会社の持続的な企業価値向上の動機付け」「国内外の機関投資家との建設的な対話の実効性の担保」であることを銘記すべきであろう。その上で、形式主義には陥らずに、自社の業界事情、規模、リソース、ライフサイクル、自社の特性やパーパスに従って、柔軟で創意工夫のある対応があるべきであり、「価値創造」を目指して、まさに「Comply or Explain」を果たせば良いはずである。

特に「持続的な企業価値向上」の視点から、現在のガバナンスコードやプライム市場上場会社に適用される原則を更に超えて、今後の発展性から一石を投じたい。「持続的な企業価値」とはサステナビリティ、そしてステークホルダー資本主義の示唆があると考える。

近年のステークホルダー資本主義の時代にあって、新しいアカウンタビリティのメカニズムはどうあるべきだろうか。私からの価値観の提案はESGや社会的インパクトと企業価値の両立であり、拙著「CFOポリシー第2版(2021年)」で主張した「PBRモデル」である。

この仮説では、PBR 1倍以上の部分である市場付加価値は、市場の評価する見えない価値であり、ESGや社会的インパクト、非財務資本と関連しているとする。新たな創意工夫の開示事例として、エーザイではESGと企業価値の関係を重回帰モデルで研究したり、インパクト加重会計により「従業員の価値」を開示したりして、世界の投資家と対話を行っている。

国際比較で日本企業のPBRは劣後すると言われるが、日本企業は本来、潜在的なESGや非財務的資本の価値が極めて大きいと私は信じている。その潜在的価値を定量化、説明、開示していくことで顕在化すれば、長期的にPBRが向上する蓋然性があると考える。今回の市場区分の見直しが新たな起点となり、上場企業が特に非財務価値を顕在化して、持続的な企業価値向上に繋がっていくことを願ってやまない。

 

柳良平 エーザイ株式会社 専務執行役 CFO(最高財務責任者)
早稲田大学会計ESG講座コーディネーター。
京都大学博士(経済学)。米国公認管理会計士。
公職として東証上場制度整備懇談会委員、日本生産本部「経営アカデミー」経営財務コース委員長等を務める。
職歴としては、銀行支店長、メーカーIR・財務部長、UBS証券エグゼクティブディレクター等を経て現職CFO。早稲田大学会計研究科客員教授として10年以上大学院で教鞭を執る。

主著に、
“Corporate Governance and Value Creation in Japan”(英文単著:Springer)
「CFOポリシー 財務•非財務戦略による価値創造」(単著:中央経済社)

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