投資家の本棚

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【経済アナリストの馬渕磨理子さん】銘柄分析の基礎を学んだ『バフェットの財務諸表を読む力』

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投資家としての一面も持つ各界のトップランナーに、投資への想いとオススメの本を訊くこちらの企画。今回登場するのは、経済アナリストとして活躍する日本金融経済研究所 代表理事の馬渕磨理子さんです。

テレビや雑誌、webなど、多方面で活躍する馬渕さんは、もともとトレーダーとして法人の資産運用を担当。その後、アナリストへと立場を変え、おもに個別銘柄の分析に主軸を置き始めました。

今回ご紹介いただく書籍は、馬渕さんが個別銘柄を分析する上で基礎になっている一冊。“投資の神様”として知られるウォーレン・バフェットの「投資で勝ち抜くルール」がまとまった書籍です。この本を読んだ当時の思い出とともに、オススメする理由に迫ります。

58のルールを読むだけで、神様の投資術を今日から始められる


――馬渕さんに持ってきていただいた一冊は『バフェットの財務諸表を読む力 大不況でも投資で勝ち抜く58のルール』(メアリー・バフェット他:著/徳間書店)です。どんな本なのでしょうか?

馬渕:バフェットといえば、優良企業の株を安く買って資産を成したことで有名です。その彼が銘柄を選別する上で大切にしていたのが、企業の財務諸表(※)でした。

※企業の経営成績や財務状況をまとめた書類。特に損益計算書、貸借対照表、キャッシュフロー計算書が重要とされ、これらは「財務三表」といわれる

この本は、タイトルの通り、バフェットが財務諸表の何を見て銘柄を選んでいたかが書かれています。どの数字に着目し、何を判断基準にすれば良いかが明記されているので、今日から投資家が実践できる、再現性のある本だと思います。

――でも、財務諸表って難しいイメージですよね?

馬渕:そう思いますよね(笑)。でもこの本の良さは、シンプルで分かりやすい点なんです。バフェットが財務諸表で見ていたポイントを58のルールにまとめていて、そのルールはページの冒頭に大きく明記されています。

このルールを読むだけでも、財務諸表で見るポイントが分かってきます。投資を始めたばかりの方や、決算書を見るのが苦手といった方もすんなり読めると思いますよ。

――具体的に、どんなルールが書かれているのですか?

馬渕:いくつか簡単に紹介すると、

・まず第一に、純利益が右肩上がりかどうかを確かめよ
・利益そのものの数字より、「利益の源がどこにあるか」ということのほうが重要なのだ
・多額の研究開発費を要する会社は、競争優位性に先天的欠陥を内包している

こういったルールがありますね。そのほかに、「大不況という困難な時代がやってきたとき、現金は最大の武器となる」といったものも。景気後退期では、企業がどれだけ現金を保有しているか見るべきということですね。

各ルールの隣には、そのルールに応じて、財務諸表のどの項目を見れば良いのか示されているので、実際に企業の財務諸表と照らし合わせながら読めると思います。

本の中に記されていた、馬渕さんがいまも大切にする分析ルール

――馬渕さんも個別銘柄の分析を行っていますが、その馬渕さんから見ても重要なルールが書かれているのでしょうか。

馬渕:そうですね。たとえば先ほど例に挙げたルール「利益の源がどこにあるか」というのはとても大事で、見誤ってしまう個人投資家の方も少なくありません。

仮にDXやAIの事業で知られる会社があったとして、利益の内訳を見ると、実はその事業で上げている利益はわずかで、それ以外の事業が主力(=利益の源)というケースが多くあります。ここを間違えると、世の中でDXやAIが盛り上がっても、その企業の利益が思ったほど上がらないことも出てくるんですね。「○○銘柄」と呼ばれる銘柄が本当にその事業を主力にしているのか、チェックすることが大切なのです。

――そういったことがこの本で学べると。

馬渕:はい、基礎知識をつけるにはすごく良いと思います。私がこの本を読んだのも、投資の仕事を始めて2~3年ほど経った頃。それまではトレーダーとして、日経平均株価などの指数を見ていたのですが、2015年から金融情報会社に移り、個別銘柄の分析を始めました。

それまでは、おもにテクニカル分析(チャートの形状からその後の株価を予測する手法)をしていましたが、個別銘柄は指数に比べてテクニカルの原理が通用しにくい。そこで、企業の中身を分析する必要を感じて。財務諸表の読み方を学ぼうと手に取ったのが、この本だったんです。

――馬渕さんが個別銘柄の分析を行う上で、基礎になった一冊なんですね。

馬渕:間違いなく土台になっていると思います。手軽にサクサク読めるのも特徴ですし、そのほかにも、たとえば文中には、バフェットの言葉として「『プレイボーイ』を読む連中もいるが、わたしは年次報告書を読む」といったフレーズも紹介されていて(笑)。思った以上に楽しく読み進められると思います。

まるでいまの状況を予言。2010年に出された一冊の書籍

――今日はもう一冊、思い出の本を持ってきていただきましたよね。

馬渕:『富・戦争・叡知』(バートン・ビッグス:著/日本経済新聞出版)という書籍です。すでに絶版になっているのですが、ぜひいま、このタイミングで紹介できればと思って持ってきました。

――「このタイミングで」というのは、どういうことですか?

馬渕:2010年出版の本ですが、各章を見ると、まるでいまの時代を反映するかのような内容が書かれています。たとえば「パンデミックに備えよ」という章があったり、また、書籍の大部分で過去の戦争を振り返りながら、資産を守るために何が必要だったかを筆者が検証しています。

戦争を基点にインフレが起きることも過去を例に記されており、いまの私たちにとって参考になるのではないでしょうか。

――確かに、当てはまる部分が多いですね。

馬渕:この書籍は、当時の富裕層に向けて資産防衛策を講じたものです。ただ、かつて富裕層しかアプローチできなかった投資手法も、いまはテクノロジーが進んで、一般の方も実践できる時代。たとえばこの中には「資産分散の重要性」が書かれていますが、現在は、個人投資家もさまざまな金融商品に少額から投資できるようになったため、資産分散が可能です。その意味でも、こういった書籍は意味を持つのかなと、紹介させていただきました。

――ちなみにこの本は、いつ頃読まれたのですか?

馬渕:これも2015年頃、個別銘柄の分析を始めた時期でしたね。会社の上司に勧められたんです。当時は「個別銘柄について学びたいのに、過去の戦争を振り返ってどんな意味があるんだろう……」なんて思いながら読んだのですが(笑)。それから7年経ち、この本の内容が自分の中で意味を持つようになってきました。

バフェットの本のようにすぐ役立つものもあれば、年月を経て価値を持つ本もあります。さまざまな本との出会いが人生を作りますし、投資判断の軸にもなります。たくさんの本を読むことは、きっと投資人生を豊かにする上で大切ではないでしょうか。

(取材・文/有井太郎 撮影/森カズシゲ)

※記事の内容は2022年5月現在の情報です

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