投資信託をより深く知るためのポイントは「特色」&「コスト」
FP直伝! 投資信託「目論見書」でチェックするべき項目
投資信託の購入を検討するための材料の1つに、「投資信託説明書(交付目論見書)」がある。カラフルなパンフレットのようなものだが、ひとたびページをめくると、その情報量の多さに面食らってしまう人もいるのではないだろうか。
「投資信託説明書(交付目論見書)」を読むうえで、あらかじめチェックするべき項目がわかっていれば負担も減るし、複数の投資信託の比較もしやすくなるだろう。
そこで、かつて運用会社で投資信託の運用や開発に携わった経験のあるファイナンシャルプランナー・大地恒一郎さんに、「交付目論見書」の読み方を教えてもらった。
記載項目・記載順が定められている「交付目論見書」
「投資信託協会のホームページでは、『投資信託説明書』いわゆる『目論見書』は、“ファンドの仕組み、性格及び特色、投資リスク、手数料等の費用、税金などを説明しているもの”とされています。その名の通り、その商品について説明する書類です。『目論見書』には、2種類あります」(大地さん・以下同)
交付目論見書
投資家に必ず交付される目論見書。
請求目論見書
投資家が請求した場合のみ交付される目論見書。交付目論見書と比べて情報量が多く、数百ページに及ぶこともある。
「個人投資家であれば、『交付目論見書』さえ見ておけば十分といえます。『交付目論見書』は運用会社によってデザインが異なりますが、記載されている事項や順番は投資信託協会の『交付目論見書の作成に関する規則』『交付目論見書の作成に関する規則に関する細則』で定められています。会社が違っても項目は一緒なので、読み方さえわかれば比較しやすいのです」
「交付目論見書」を見ていく際に、まず確認するべき部分があるという。
「『交付目論見書』は半年~1年に1回更新され、そのたびに表紙に記載される使用開始日も更新されます。この使用開始日が最新のものを見ましょう。受益者(投資家)にとってより良い変更(運用管理費用の引き下げ、マザーファンドの活用など)が行われる投資信託もあり、過去のものだと情報が古くなっている場合があるからです」
「交付目論見書の作成に関する規則」では、本文中の記載事項として次の4つが定められている。
(1)ファンドの目的・特色
(2)投資リスク
(3)運用実績
(4)手続・手数料等
「概ねの『交付目論見書』は、この数字の順番で記載されています。このなかで特にチェックしてほしいのは、購入時点で不確実なものではなく、将来にわたって明確なものといえる(1)ファンドの目的・特色、(4)手続・手数料等です」
「特色」に共感できる投資信託を見つけよう
(1)ファンドの目的・特色、(4)手続・手数料等をチェックした方がいい理由について、詳しく聞いていこう。
「(1)ファンドの目的・特色は、『交付目論見書』の最初に書いてあります。目的は、ほとんどの投資信託で『信託財産を増やす』と書かれているので、比較の対象にはなりません。アクティブ型の投資信託では、『積極運用』と書かれていることも多いでしょう。重要なのは、特色です。ここに書かれている内容が理解できたうえで、その特色や考え方に共感できるものを投資対象にしましょう」
一例として、いくつかの投資信託の特色を見てみよう。
レオス・キャピタルワークス「ひふみプラス」の特色(「投資信託説明書(交付目論見書)」より抜粋)
・国内外の上場株式を主要な投資対象とし、市場価値が割安と考えられる銘柄を選別して長期的に投資します。
・株式の組入比率は変化します。
「『ひふみプラス』は、将来価値に対してその時点での市場価値が割安な銘柄に長期投資すること、状況に応じて保有株式の一部を売却することを特色として掲げています。より成長性の高い銘柄に投資したい人や、株式の組入比率を高位に維持したい人には、別の投資信託の方がマッチするかもしれません」
コモンズ投信「コモンズ30ファンド」の特色(「投資信託説明書(交付目論見書)」より抜粋)
・30年の長い目線を持ってお客さまと企業で育む長期投資
・外部環境の変化に強い企業を厳選し30銘柄程度へ集中投資
「『コモンズ30ファンド』は、外部環境に強い銘柄を選別し、30銘柄程度に長期投資をする投資信託であることがわかります。この特色や手法に納得したうえで、購入することが大切です。理解しないまま購入すると、利益や損失につながった理由がわかりませんし、投資における自己責任の意識が育ちにくいからです」
上記2つは、運用会社やファンドマネージャーの投資判断に基づいてベンチマーク以上の収益を目指すアクティブファンドだが、株価指数への連動を目指すインデックスファンドの特色はもっとシンプルになる。
三菱UFJ国際投信「eMAXIS Slim 米国株式(S&P500)」の特色(「投資信託説明書(交付目論見書)」より抜粋)
・S&P500指数(配当込み、円換算ベース)に連動する投資成果をめざして運用を行います。
「インデックスファンドの場合は、どの指数との連動を目指しているかという部分が特色として書かれます。その指数がどこの国のどういうタイプの指数なのかを確認し、希望する投資信託か、きちんと確認しましょう」
つみたてNISAで投資信託を利用しようと考えている場合は、ファンドの目的・特色の最後に書かれていることの多い「分配方針」も見ておくといいそう。
「つみたてNISAで分配金を再投資すると、年間の非課税投資枠40万円に含まれます。そのため、毎月3万3333円を拠出していると、分配金の部分が非課税投資枠に入りきらず、意図せず課税口座を開設することになってしまうのです。つみたてNISAの対象となる投資信託201本のうち、分配しているものは7本(2022年1月末現在)ではありますが、非課税枠をオーバーしないよう、念のため分配の頻度などを確認しましょう」
運用中に発生するコストの「上限」を確認
(4)手続・手数料等は、いわゆるコスト面の情報が載っている部分だが、どの項目を確認していくといいのだろうか。
「肝心なのは、『ファンドの費用』という項目です。最初に書かれている『購入時手数料』は、投資信託を買うとき、売るときに発生する費用で、販売会社に支払うものです」
「ひふみプラス」の「交付目論見書」には、購入時手数料は以下のように書かれている。
レオス・キャピタルワークス「ひふみプラス」の購入時手数料(「投資信託説明書(交付目論見書)」より抜粋)
申込金額に対する手数料率は3.30%(税抜き3.00%)を上限として、販売会社が定める料率とします。
「運用会社であるレオス・キャピタルワークスが発行している『交付目論見書』なので、『販売会社が定める料率とします』と書かれているのです。この場合、販売会社によって上限の3.3%に設定しているところもあれば、1%とするところ、手数料無料とするところもあります。3.3%はあくまで上限であり、一律ではないと読み解く力も重要です。インデックスファンドでは、最初から『購入時手数料なし』と設定しているものもあります」
次に記載される「運用管理費用(信託報酬)」は、投資信託を保有している間、毎日発生する手数料。
レオス・キャピタルワークス「ひふみプラス」の運用管理費用(「投資信託説明書(交付目論見書)」より抜粋)
「『運用管理費用』は、上記の『ひふみプラス』のように、ファンドの規模(純資産総額)に応じて変わると記載されていることがあります。その場合は、パーセンテージがもっとも高い数字をチェックしましょう。その数字は上限となるので、それ以上の費用は発生しないといえます。『ひふみプラス』の場合は1.0780%が上限。各投資信託の『運用管理費用』を見て、そのコストに納得できるか考えてみましょう」
「運用管理費用」に関しては、インデックスファンドこそ注意深く読むべきだという。
「同じ指数に連動する投資信託が各運用会社から複数出ていますが、『運用管理費用』は各社異なります。同じ指数に連動するということは、成果も同じになるはずなので、『運用管理費用』が低い方が指数に連動しやすいといえるのです」
「日経平均株価(日経225)」への連動を目指す投資信託の運用管理費用(年率)(それぞれの「投資信託説明書(交付目論見書)」より抜粋)
野村アセットマネジメント「野村つみたて日本株投信」0.187%
大和アセットマネジメント「iFree 日経 225 インデックス」0.154%
日興アセットマネジメント「インデックスファンド225(日本株式)」0.253%
※いずれも税込
「ファンドの費用」のなかで、最後に書かれている「その他の費用・手数料」の部分も、要チェックとのこと。
「『目論見書』の作成や基準価額の計算にかかる費用は『運用管理費用』に含まれることが多いのですが、投資信託によっては『その他の費用』として、別に設けられていることがあります。例えば、『運用管理費用』が0.4%、『その他の費用』が0.1%と設定されている場合、合計0.5%の費用が発生すると考える必要があるのです。読み飛ばさずに確認しましょう」
運用実績を知るには「運用報告書」「月次レポート」が◎
投資リスク、運用実績は見ておかなくてもいいのだろうか。
「投資リスクは、その名の通り、金融商品としてのリスクが列挙されています。各社での違いはほとんどないので、時間をかけて比較する必要性は少ないでしょう。運用実績は参考までに見ておくことは大事ですが、『交付目論見書』に書かれているグラフはベンチマークとの比較であって、その投資信託が好調か不調か判断するには物足りないので、そこに書かれた運用実績だけで判断するのは避けましょう」
より詳しく実績を知りたい場合は、「運用報告書」や「月次レポート」を読むことがおすすめとのこと。
「特にアクティブファンドにおいて、『運用報告書』『月次レポート』は大切な資料です。ファンドマネージャー自身の言葉で投資判断の理由や、好調または不調に推移した原因の考察などが書かれていて、投資手法や考え方を知る材料になります。運用実績だけでなく、その考え方に共感できるかという視点で見てみましょう」
投資信託に関するさまざまな情報が掲載されている「交付目論見書」。ポイントを押さえて読み込み、自分の考えと近いものを選べるといいだろう。
(有竹亮介/verb)
関連リンク
大地恒一郎
ファイナンシャルプランナー。30歳で日興證券投資信託委託(現日興アセットマネジメント)に入社し、以来30年超、投資信託の運用・商品開発などに携わる。自身が年金受給資格を得るタイミングで独立し、ファイナンシャルプランナーとして、投資信託や投資信託を活用した確定拠出年金・NISAなどの普及・啓もうに努めている。