市場関係者メッセージ
豊かな社会の実現に向けての東証市場の再編に期待
※この記事はJPX「新市場区分特設サイト」上で2021年11月29日に掲載した記事の再掲載です。
松田修一
早稲田大学名誉教授、一般社団法人証券リサーチセンター代表理事
2013年株式会社日本取引所グループの発足以来の大改革が、2022年4月から始まる東京証券取引所の新市場の再編です。その内容は、急激な経済社会の環境変化に対応して、玉石混交であった市場区分を明確なコンセプトで再編し、国内外の多様な投資家から支持を得た、豊かな社会を実現する現物市場の制度整備です。
経済環境激変期における日本企業の変化対応の遅れを取り戻し、上場企業の企業価値向上を下支えするために、次の3つの目的があると考えます。
・従来の4市場区分の不明確性を排除し、多様な投資家の投資判断に資する市場の確立
・第四次産業革命による企業や個人の活動の変化に対応した産業構造転換の支援
・多様な資金を活用する上場企業が投資家との対話を円滑に行う基準の見直し
新市場では、プライム市場・スタンダード市場・グロース市場に再編し、選択した市場における上場企業の持続的成長と中長期的な企業価値の向上を支援するために、コーポレートガバナンス・コードの見直しと適用の違いを明確にしたことは、企業活動の長期目標の設定にも影響を及ぼします。
自由な経済活動を前提にした証券市場は、企業家に富が集中し、国民の格差と分断を引き起こすという見解もありますが、経済の持続的成長なくして、富の分配の水準を引き上げることは困難です。国民が直接的に上場企業の株式を取得し、あるいは投資信託や年金基金を通して間接的な投資をし、企業活動によって生み出された「富の分配機能」の場を証券市場は担っています。
3市場選択後の上場企業には、各市場において次のような企業像を期待します。
・プライム市場:縦割り業界の再編を加速し、世界の経済成長にインパクトを与える企業
・スタンダード市場:企業価値の向上と存在感を高める世界ニッチトップの中規模企業
・グロース市場:成長スピードを意識した志の高い知財とブランドを重視する企業
住んでいてよかった地球を後世に残すために、2050年ゼロエミッションが最重要視されています。新たに挑戦する方々や企業は、すべてこの方向に向けて動き出しています。東証の再編で市場の選択をした各上場企業は、自社の経営資源を最大限に活かすために必要な資金を国内外から調達し、次の世代に明確な存在感ある成長企業として引き継ぎましょう。
松田修一 早稲田大学名誉教授、一般社団法人証券リサーチセンター代表理事
1972年 早稲田大学大学院商学部研究科博士課程単位満了退学
1973年 監査法人サンワ事務所(現・監査法人トーマツ)入所
1986年 早稲田大学システム科学研究所助教授 1991年 同所教授
1998年 早稲田大学大学院アジア太平洋研究科教授
1998年 ウエルインベストメント株式会社 取締役(現任中)
2004年 日本ベンチャー学会会長
2007年 早稲田大学商学研究科ビジネススクール教授ならびWBS研究センター所長
2012年 早稲田大学名誉教授
その他内閣府、経済産業省、総務省、文部科学省、林野庁及び所管の機構、ベンチャー企業関連、産学連携、MOTコンソーシアム、ベンチャー顕彰の委員会の座長・委員などを務める。早稲田大学アントレプレヌール研究会代表世話人を務めたほか、大学発ファンドであるウエルインベストメント設立に関わるなどベンチャー支援を積極的に行っている。
著書 「経営監査の理論と実務」中央経済社(1983年)
(初版)「ビジネステキスト:入門会社の読み方」日本経済新聞社(1989年)
「変革日本型経営~グローバル時代の生き残り戦略」第一法規(1992年)
「ビジネスゼミナール会社の読み方入門日本経済新聞社(1992年)
「ベンチャー企業の経営と支援」編著日本経済新聞社(1994年)
「起業論」日本経済新聞社(1997年)
「日経文庫 ベンチャー企業」日本経済新聞社(1998年)
「事業計画策定の理論と実践」執筆参加、白桃書房社(1998年)
「技術系のMBA MOT入門」編著、日本能率協会マネジメントセンター(2002年)
「技術系のMBA 技術ベンチャー」編著、日本確率協会マネジメントセンター(2004年)
「ビジネスゼミナール会社の読み方」日本経済新聞社(2006年)
「日本のイノベーション1ベンチャーダイナミズム」編著白桃書房(2011年)ほか