【日経記事でマネートレーニング28】データ編~「業績進捗率」の読み方、投資に有用も注意点多し

提供元:日本経済新聞社

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このコーナーでは日経電子版や日本経済新聞の記事を題材に、投資のリテラシーや資産形成力の基礎知識を身につけることを目的にしています。2022年からコンセプトを少し改めて数値やデータの読み解き方にスポットライトをあてていきます。

データ編の6回目(通算28回目)は「業績進捗率」です。

株式投資の重要な判断材料に業績見通しの「上方修正」や「下方修正」があります。上方修正や下方修正とは主に通期(年度)の会社計画を、期中に見直すことです。「予定よりうまくいっている」のが上方修正、「うまく進んでいない」のが下方修正ですから、この手の発表やニュースは株価動向に直結します。簡単明快な材料にみえますが、興味深い要素も多く含んでいます。

業績修正の可能性に直結、日本固有の「年度見通し重視」が根底に

日経電子版のサンプル記事をご覧ください。

記事は「業績進捗率」の定義を記載しており、知っておくと有用な投資のノウハウだと説明しています。算式を書くと、

「期初~現時点の累計利益」÷「会社の通期利益計画」×100

で、1年間に予定している利益の達成度をパーセントで示すことになります。

単純に時間の概念だけを考えると、中間期(上半期)終了時点では半分の50%になります。最初の四半期では25%ですし、3四半期だと75%が目安になるでしょう。このペースを上回っていると年度計画(予算)が最終的に上振れる結果になり、会社がどこかの時点で業績上方修正を発表するのではないか、と推論づけるわけです。

逆に業績進捗率が進まないようだと下方修正の兆候という評価につながりやすく、最終的に会社見通し未達に終わる可能性が高くなります。

残念なことに進捗率は発表していない企業もあります。先ほどの計算式にあてはめて自ら算出してもよいのですが、日経電子版ではひとめで決算概要がわかる「決算サマリービジュアル」を開示資料に添付しています。個別企業の適時開示一覧で「決算サマリーVisual」をクリックすれば、左上に進捗率が表示されるので参考にしてください。

さて、実際に業績修正が発表されると売上高や各種利益、場合によっては配当などが増減します。株価を大きく動かす材料になりやすく、そのタイミングをうまく狙えば売買益を得られる可能性が高まります。そうすると修正するかどうかを「業績進捗率」の推移とその背景から分析しておけば先回りも可能ということになります。

こうした業績と進捗率、投資行動は「1年を通した収益」を軸におき、実際のいまの業績とのズレに着目しています。米国では四半期業績が軸であり、配当も四半期なら業績予想も四半期が中心になります。年度利益を軸に業績修正の可能性を材料視するのは日本固有のスタイルといえるでしょう。決して悪いとはいえませんが、投資判断にあたっては注意しなければならない点がいくつかでてきます。

額面通りの評価は判断ミスに~「会計保守」や業界のクセ、損失発生に目配り

日本は1990年代のバブル崩壊、会計ビッグバンに至るまでの様々な経緯から経営者は見通しを手堅く見積もる傾向が強くなりました。もともと、会計はより保守的に、という「会計保守主義」がありますが、日本企業は見通しにも過度に慎重になる場合が多いといえます。100の利益が出せそうな場合では70もしくは80程度の計画を期初に公表し、四半期ごとに少しずつ現実のゴールに上乗せしていくというパターンですね。

ですから、期初に期待を裏切る年度見通しが出たとしても最終的には期待通りの結果に落ち着くケースも往々にしてあるということです。業績の前提条件である為替変動や金利なども同じです。円相場が1ドル100円~130円で変動している場合は110円、105円など収益に不利なレートで見積もるケースが多くなります。ある輸出企業が1ドル110円で年度予想1000億円、1円で10億円収益がぶれるとしましょう。現在、1ドル130円で期末までそのレートが定着すれば

「想定レートと実勢レートとの差20円」×「収益への貢献度10億円」=200億円

つまり200億円の上乗せが期待でき、進捗率も現実よりもぐんと進むことになります。

ただ、時間で均等按分した業績進捗率を当てはめると判断ミスにつながります。進捗率は業界や企業によってみな異なるからです。マンション販売は引っ越しや入社などの春イベントが集中する直前の1~3月期に売れやすいという傾向があります。家電や衣料品はクリスマス、年末商戦にもっとも売り上げがピークになりがちです。業績進捗率はその業界、その企業固有のシーズン性や事業モデルなどを織り込んで分析しないと読み間違うわけです。

また、業績進捗率が90%にまで達したのにあえて上方修正に踏み切らない企業がある場合は、なんらかの理由があるのかもしれません。たとえば、翌四半期で何らかの損失を計上するケースです。結果、会社の見立て通りの年度利益に着地して、市場が想定していたような上方修正は起こらないパターンがありえます。

本旨とずれるため深く言及しませんが、業績進捗率と平仄のあわない極端なズレを企業が説明もなく「放置」し続ける行為は、投資家向け広報(IR)の観点から好ましくありません。最近もある大企業が4~12月の業績進捗率が100%を超えましたが上方修正を見送りました。つまり、1~3月期を待たずに年度計画を達成したということですが、それでも上方修正しないのは1~3月期に赤字転落の可能性がある、とも読み取れるわけです。しかし、会社ははっきりとした説明をしませんでした。

説明責任を果たす義務を怠ると、海外投資家などからの評価が下がります。IRに対する企業姿勢にも注目すると、業績進捗率を額面通りに受け止めてよいかどうかがより深く理解できるようになります。

次回も投資力アップにつながる日経電子版のデータの見方を解説します。

(日本経済新聞社コンテンツプロデューサー兼日経CNBC解説委員 田中彰一)

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