市場関係者メッセージ
投資家が報われる市場へ
※この記事はJPX「新市場区分特設サイト」上で2021年11月29日に掲載した記事の再掲載です。
大場昭義
日本投資顧問業協会 会長
東京証券取引所は市場区分の見直しを公表した。今回の市場区分の見直しの目的は、上場会社の持続的な企業価値の向上を通じ、投資家に中長期的なリターンをもたらすためのインフラ整備ということだろう。市場改革に当たっては「投資家が報われる市場へ」という視点が中心的な概念になることを強調したい。今や投資家とはGPIFなど年金基金が大きなウエイトを占めるようになっており、多くの方がイメージとして持っている「お金持ち」だけではないからだ。資本主義市場経済では価値を生み出す経済主体は上場会社だ。投資家の視点でとらえると、上場会社は少なくとも3つの要件を満たすものでなくては投資対象としての魅力を欠くことになる。
第一は資本コストを上回る利益を上げることが重要な要件だ。それが満たされなければ企業価値は向上しない。よりわかりやすく言えば株価は上昇しない。残念ながら平成の30年間でこの条件を満たした企業は一部にとどまり、一方で市場から退出した企業は限られている。これでは投資家は報われない。
第二は適時的確な情報開示だ。最近はスチュワードシップ・コードとコーポレートガバナンス・コードによって企業と投資家の建設的な対話が重視されているが、適切な情報開示がなければ事実に基づく対話が成り立たない。
第三は流動性の確保だ。親子上場や持ち合い株式で流動性が欠如すれば、投資家は制約を受けることになり投資に消極的になってしまう。
上場会社は少なくともこれらの条件を備えなければ投資家は魅力を感じないだろう。「投資家が報われない限り資本市場の発展はない」・・・これはジョセフ・スティグリッツの箴言だ。資本市場発展の条件をワンフレーズで見事に言い当てている。その条件を備えているのがアメリカの資本市場ともいえる。中長期的に投資家が報われるから、世界中の投資マネーが集まるのではないだろうか。繰り返しになるが、今回の市場区分の見直しの目的は、上場会社の価値創造力が向上すれば投資対象としての魅力が増し投資家へのリターンとなって循環するインフラの再構築にある。市場改革に当たってはスティグリッツの箴言を念頭に、「投資家が報われる市場へ」の改革が継続して進むことを期待したい。
大場昭義
日本投資顧問業協会 会長
一般社団法人 日本投資顧問業協会 会長。
みずほ信託銀行(株)常務執行役員、東京海上アセットマネジメント(株)代表取締役社長を経て2017年6月日本投資顧問業協会 会長就任。金融庁「スチュワードシップコード及びコーポレートガバナンスコードのフォローアップ会議」メンバー、経済産業省「コーポレートガバナンス・システムのあり方に関する研究会」委員、環境省「ESG金融懇談会」委員。日本証券アナリスト協会2013-2017年同協会会長。2016年8月より日本公認会計士協会 理事。早稲田大学政治経済学部卒。「資産運用ビッグバン」(井手正介/大場昭義著、東洋経済新報社刊 1997年)他著書多数。