東証市場再編

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【岡山県】社名の意味は「よく生きる」。 「たまひよ」から介護まで、生涯を支える企業

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※この記事はJPX「新市場区分特設サイト」上で2022年1月11日に掲載した記事の再掲載です。

株式会社ベネッセホールディングス
代表取締役社長 COO 小林 仁

社名の意味は「よく生きる」。
「たまひよ」から介護まで、生涯を支える企業
―岡山県― 株式会社ベネッセホールディングス

通信教育の「進研ゼミ」「こどもちゃれんじ」や、妊娠・出産・育児ブランドの「たまひよ」、さらに有料老人ホームなどの介護事業で知られる株式会社ベネッセホールディングスは、発祥の地である岡山県に本社を置いています。

現代アートで有名な香川県・直島(なおしま)での活動も、瀬戸内海に面した地域性と、創業者の思いから始まったといいます。2021年4月に新社長に就任し、「創業の理念を今の事業に伝承すること」がモットーという代表取締役社長 COOの小林 仁さんに、会社のルーツと現在、そして未来について伺いました。

岡山で小学校の先生をしていた創業者。今も受け継ぐ思いとは?

――高校時代に受験する「進研模試」など、全国の多くの人にとって身近なベネッセですが、その本拠地は岡山県。小林社長も岡山のご出身と伺いました。

小林社長 はい。組織や機能は東京に移したものもありますが、上場している持株会社のベネッセホールディングスや、事業会社であるベネッセコーポレーションの本社は、今も創業の地である岡山県岡山市にあり、これからも変えるつもりはありません。

創業者の福武哲彦は、もともと岡山で小学校の先生をしていました。その後、学校向けの出版物を扱う「福武書店」を1955年に興し、やがて通信添削事業の進研ゼミを成功させました。

瀬戸内海に浮かぶ離島で、美術館やホテルなどを運営している「ベネッセアートサイト直島」(香川県直島町ほか)も、元をたどると「全国各地の進研ゼミ会員が集まり、キャンプなどの体験ができる場をつくりたい」という創業者の思いで始まったプロジェクトでした。

――今では直島は、世界的な「現代アートの聖地」となりました。

小林社長 アートを採り入れたコンセプトを構想して実現したのは、創業者の急逝を受けて1986年から2代目社長を務めた福武總一郎です。

東京から帰郷した彼は、それまでの多忙な生活で見失っていたものに気づきました。過疎化していた当時の直島に、素朴な幸せや生きがいが感じられるコミュニティを再生し、さらに世界中から人々が集まる場所にしたいと考えた結果、「瀬戸内海の豊かな自然と融合する現代アート」というアイデアにたどりついたのです。

福武總一郎が掲げたこうしたビジョンは、「よく生きる」という意味のラテン語をもとにした「ベネッセ」という社名(1995年に福武書店からベネッセコーポレーションに商号変更)に、最もよく表れています。

――さまざまな取り組みが、地域で培われた理念を通してつながっているのですね。

小林社長 教育・介護の分野は特に、効率や生産性だけでなく、理念を追求しなければ事業そのものが成り立ちません。また同時に、理念を実現するための事業を、持続的に成長させていく仕組みも必要です。

実は福武哲彦は、福武書店の設立前に“黒字倒産”を経験しています。その反省を踏まえて、現在の私たちにもつながる、継続型のビジネスモデルを確立しました。こうした創業以来の歴史、理念をきちんと伝承し、今の事業に合わせて形を変えながら受け継いでいきたいというのが、経営者としての私の考えです。

“大人の学び”に、社員も挑戦中

――「国内教育」「グローバルこどもちゃれんじ」「介護・保育」「ベルリッツ」「その他」という、大きく5つの事業領域があるとのことですが、それぞれ大まかな内容を伺えますか。

小林社長 国内教育は、進研ゼミや塾といった校外学習事業を含む、当社の売上構成で最大の事業領域です。学校教育を支援する「学校向け事業」では、全国9割の高校と取引があり、代表的なものとして、「進研模試」をはじめとするアセスメント事業や、小中学校向けのタブレット学習用ソフトでトップシェアの「ミライシード」などがあります。

グローバルこどもちゃれんじは、幼児教育事業です。義務教育以降は国ごとに制度が異なるのに対して、就学前の学びは世界共通の部分も多いので、キャラクターの「しまじろう」と共に30数年進めてきたカリキュラムをもとに、台湾、中国、インドネシアなどで展開しています。

介護・保育は、有料老人ホームや保育園などの施設運営が主体で、近年売上の伸びも大きい分野です。私自身、立ち上げから14年携わった介護事業に強い思い入れを持っています。

ベルリッツは世界規模で展開する語学教育事業で、「その他」には「たまごクラブ・ひよこクラブ」「いぬのきもち・ねこのきもち」など、女性や家庭を応援する事業が含まれます。

――オンラインサービスの充実といった、DX(デジタルトランスフォーメーション)へのさまざまな取り組みが進んでいますね。

小林社長 はい。デジタルはあくまでも事業課題の解決や、役立つサービスを実現するための道具の1つと捉えていますが、背を向けることはできないのも事実です。そこで2021年春、デジタルに造詣の深い人材を会社の内外から集めた「デジタルイノベーションパートナーズ」という組織を設けました。

メンバーはグループのさまざまな事業に入り込み、現場との“二人三脚”で業務データの利活用などを進めています。ただ、これだけではまだ十分とはいえません。

――どういうことか、詳しく伺えますか。

小林社長 社員が持つ能力をこれからも発揮するには、学び直し(リスキル)も大切になるということです。

社長の私が言うのも変ですが、紙媒体の素晴らしい教材を、誠実に、一生懸命つくる社員が、ベネッセには本当にたくさんいます。ではそうしたノウハウを、例えばオンラインサービスでどう生かすか。真面目で優秀な社員も、デジタルは“苦手科目”かもしれません。

ですから私たちは、紙ベースのアイデアをソフトウエアに落とし込むための「要件定義」をはじめ、「プロジェクト管理」や「データ分析」といった、DXに不可欠なスキルの“実力テスト”(アセスメント)を社内で行っています。自分の現状を知った上で、レベルに合った研修を受けてもらい、リスキルを後押しするという仕組みで

――誰かの学びをサポートする仕事のかたわら、自身も新しいスキルを学び直している方々がいるのですね。

小林社長 当社の外に目を向けても、「これまでに得たスキル」と「これから求められるスキル」のギャップから、「このままではいけない」と感じている社会人の方が多いと思います。

社員のリスキルに取り組む海外企業は、もう珍しくないので、日本でも各企業が具体的に動かなければ、いよいよ間に合わなくなる時期に入ったと考えています。

ベネッセは既に、オンライン学習プラットフォームの「Udemy(ユーデミー)」と提携しています。さらにDXの社内研修プログラムといった、より専門的なリスキルへの支援についても、現在事業化の準備を進めているところです。

教育と介護から「日本の強み」が見えてきた

――社会人の学び直しでは海外が進んでいるとのことですが、ベネッセの海外展開を通じて、日本にはどのような強みがあると思われますか。

小林社長 教育・介護の事業を通じて感じるのは「細かい心配りが行き届いたサービスを提供できる日本の仕組み、ソリューションづくりの部分に海外の方々が価値を見いだしている」ということです。

形あるモノではない、ソフトの面が強みになる点では、日本のアニメがグローバルな人気を誇っているのと、全く同じだと考えています。

具体的な分野で言うと、学校教育ではアセスメントです。生徒の学習進度を先生方がきめ細かく把握して伸ばし、進路指導までつなげられる仕組みは、世界的にも日本が進んでいて、教育制度が異なる海外でも私立学校には応用できることが分かってきました。近いうちに、詳しいプランが発表できると思います。

介護については、従事する方々への教育システムが日本の強みです。お年寄りをケアするのは人類共通でも、まだ介護が職業として確立していない国は多く、しかも今後は、少子高齢化が全世界で進むとされています。

歴史や宗教、価値観の違いにも大きく影響されるので「スーパーローカライズ」が必要な分野ですが、私たちも現地のパートナーと手を結びながら、技能や知識、安全について学ぶ仕組みづくりに貢献したいと考えています。

――日本と世界で、これからも多くの人の生涯を支えていくことになりますね。

小林社長 コロナ禍をきっかけに社会生活全体のデジタルシフトが加速したことで、5年先、10年先に向けてベネッセがどんな課題を解決していけばよいかが、かなり明確になりました。学校のDXや社会人教育、新たな海外事業も、これからが本番。受け継いだ理念を大切に、社員全員で取り組んでいこうと思います。

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