日本はいま、GAFAM誕生期のアメリカに近い
「時価総額上位の顔ぶれは今後20年で大きく変わる」。藤野英人が日本市場に期待する理由
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日本市場や日本経済に成長可能性はあるのか。いわば投資における“日本の未来”を有識者が占う連載「日本経済Re Think」。今回登場するのは、レオス・キャピタルワークスの藤野英人氏。
藤野氏は、「ひふみ投信」などの運用で実績を収めてきた日本を代表する投資家の一人。その彼は、ここからの20年で日本経済は大きく変化すると予想する。一体どんな意味なのか。藤野氏の考えに迫った。
藤野氏が感じる若い世代のレベルの高さ。それが市場の成長に
2022年に入り、ウクライナ侵攻やインフレなど、株式市場の動乱が続いている。簡単に終息する気配はないが、それらはあくまで今後数年スパンのトレンドだろう。一方、今後20年ほどの長期トレンドで日本市場を見ると、「時価総額上位の企業の顔ぶれは大きく変わるのでは」と藤野氏は考える。
「なぜなら、いまの若い世代が立ち上げた会社が大きく成長し、約20年後には時価総額上位に何社も入ると見ているからです。一方、それまで上位にいた企業も、新しい波の中で変わらざるを得ない。変わらなければ成長企業に飲み込まれるからです。それが健全な新陳代謝を促し、結果、日本市場全体が成長していくでしょう」
藤野氏がそう考えるのは、日本の若い世代に「面白い人がたくさん出ているから」だという。実際、彼はエンジェル投資家の一面も持ち、毎日のように起業家と話しているが、その6割以上は20代以下とのこと。「昨日ももうすぐIPOに至る24歳の起業家と話し、感銘を受けたばかりです」と和やかに話す。
若い世代の中でも、とりわけ藤野氏が強調するのは、10代のレベルの高さだ。その一例として挙げたのが、「小学生起業家」として注目される李禮元(リ・レウォン)さん。彼は、理科で習う元素を覚えやすく、しかもその魅力を伝える「元素カルタ」を小学4年生で考案し、クラウドファンディングで商品化した。
さらに、従来の漢字ドリルとは違うアプローチで漢字を勉強する「漢字mission」を開発。NewsPicksの「メイクマネーU-24」という番組では、そのプレゼンも話題になった。彼は今年3月、小学校の卒業間近に起業。polarewonという会社を立ち上げた。藤野氏も社外取締役に就任している。
これは極端な例だが、それ以外にも、今年で5回目となる「日経ソーシャルビジネスコンテスト」で、初めて高校生が大賞を受賞した。年齢などの区切りがない、全セグメントの応募者を通しての大賞を高校生が取った。
藤野氏はコンテストの審査員として参加しているが、大賞を受賞したアイデア以外にも、最後まで候補に残った高校生のアイデアがあったという。
「世の中の課題と向き合い、レベルの高いアイデアを考える学生がとても多くいます。その背景には、SDGs教育の影響もあるかもしれません。17の社会課題に対して何ができるのか、自分を主語に考えるのは起業の発想そのもの。SDGs教育は、未来の起業家を生み出す意味でもワークしていると思います」
今後20年の日本市場では、どんな投資戦略を取るべきか
こういった若い世代がいずれ会社を立ち上げ、20年後には日本市場を席巻すると藤野氏は読む。その背景には、若者の価値観の変化もあるという。
「大企業に行くことが『人生の勝利』という時代は終わり始めています。むしろ、自分で起業する、ベンチャー企業で挑戦することに価値を見出す若者が増えているのは明らかでしょう。その発想は、20年前の日本ではまだ少なかった。一方、20年以上前からその価値観がすでに浸透していたアメリカは、GAFAMのような大企業を生み出しました」
20年が経ち、日本もそのフェーズに立ったというのが藤野氏の考え。加えて「日本政府がベンチャー育成の方針を示しているのも追い風」だという。
もともと藤野氏は、おもに中小の成長企業に投資することで実績を積んできた。成長企業を見極めるのは彼の本領であり、未来への見解にも自身の経験がともなっている。藤野氏は「20年後の日本市場は、いまの日本市場の延長線上にはないはず。僕はここからの20年、新しく出る企業にフォーカスしたい」と言い切る。
「ではこれからの投資戦略をどう取るか。まず今後20年は、成長が見込まれる個別銘柄を狙う。もちろん小さな会社が大きくなれば、その分、リターンも望めます。そうして2040年を過ぎ、時価総額上位の顔ぶれが変わってきたなら、TOPIXなどの日本市場全体を対象にしたインデックス投資も面白くなるでしょう」
今年や来年については、ウクライナ侵攻やインフレへの「防衛策が必要」と藤野氏。ただ、長期のトレンドは別のところにある。2000兆円を超えるという日本の個人金融資産の一部を、「将来の成長の目である日本企業に当てていくべき」と話す。
これからの20年は、次代を担う新しい日本企業が育つフェーズ。それが、藤野氏の見据える日本市場の未来だ。
(取材・文/有井太郎 撮影/森カズシゲ)
※記事の内容は2022年6月現在の情報です