日本のD2C成長を支えるサービス
170万のショップ開設を経てなお「BASE」が成長する余地とは
最近よく聞かれるキーワードを手がかりに、次なる投資のトレンドを展望する連載「マネ部的トレンドワード」。D2C編の4回目となる本記事では「BASE」を取り上げる。
近年増えてきたD2Cというビジネスモデルは、ひとことで言うと「メーカーの直販」を意味する。商品の企画から製造、販売に至るまで、すべて自社(または個人)でまかなうのが特徴だ。
D2Cの多くは、販売の部分をEコマース(EC)で行っている。ということは、商品を製造する企業や人が、自分たちでネットショップを立ち上げなければならない。
とはいえ、特別な知識のない人がネットショップをゼロから作るのは簡単ではない。そこでいま、ネットショップの開設を簡単に行えるツールが急速に普及している。それが「BASE」だ。
BASEのサービスを利用して開設されたショップは170万を超える。ネット販売に関わる人にとって、知らない人はいないサービスだろう。なぜこれだけ普及したのか、そして、これからもまだ伸びるのか。BASE株式会社 上級執行役員 COOの山村兼司氏に聞いた。
サービスの核は「決済」。特別な手続きなく、短時間で完了
BASEは、誰でも簡単にネットショップを作成できるサービス。項目を埋めるだけでショップが開設され、特別な知識は必要ない。開設から販売、決済まで最短即日で行うことも可能で、このスピード感でネットショップを作れるサービスは「世界的に見ても稀ではないでしょうか」と山村氏はいう。
このサービスの肝となるのが決済機能だ。ショップを作り、商品を販売するとなると決済機能は欠かせない。しかし、従来はこの部分がショップ運営者にとってハードルだった。
「ネットショップに決済機能を導入する場合、これまでは決済代行業者に手続きをしてシステムを導入するケースが一般的でした。そこでは審査も厳しく、時間もかかる場合があります。審査の結果、決済機能を導入できないケースもあったでしょう。特に個人の方は、審査を通らないことも多かったと思います」
BASEでは、こういった「決済機能導入のハードル」を解消した。特別な申請や手続きは必要なく、おおむね10分ほどで決済できる。それを可能にしたのが、三井住友カード、ソニーペイメントサービス、BASEの3社共同で構築した独自の決済システムだという。
簡単に決済機能を導入できるのは、D2C事業者に大きなメリットだろう。そしてBASEにとっても、この決済機能こそがサービスの核なのだという。
「BASE創業時からの大きな目的は、たくさんの人が簡単にペイメント(決済)できる世界を実現することです。その裏には、一人一人が持つ自分の才能やそこから生まれるアイデア、作品、活動に対して、正当な対価を受け取れるようにという考えがあります。私たちのサービスの中心はあくまでペイメントであり、ネットショップ作成サービスは、決済機能に付随して作られたものといえます」
そんなBASEの考えは、同社の企業ミッションにも表れている。「Payment to the People, Power to the People.」という企業ミッションの根底には、決済・ペイメントを世界中の人に解放するという思いが込められている。
BASEのサービスは急拡大しており、2012年11月のローンチから10年弱で170万のネットショップが開設。また、1ショップあたりの月間平均GMV(流通取引総額)も上がり続けているという。
「ショップのジャンルで多いのは、ファッションやホビー、飲食など。個人や少数での運営が大多数を占めるのも特徴ですね。また、ショップの規模も幅広く、数万単位の商品を販売しているショップもあります」
BASEはまだ成長する。裏付けとなる「日本のEC化率の低さ」
急速な伸びを見せてきたBASEだが、今後さらなる“伸びしろ”はあるのだろうか。そんな質問を投げかけると、山村氏は「十分にあると思います」と答える。その根拠になるのが、日本の「EC化率」の低さだ。
EC化率とは、商取引全体においてECの市場規模が占める割合のこと。経済産業省の調査(※)によると、物販系分野における日本のEC化率は8.08%となっている。そしてこの数字が“伸びしろ”に関連するという。
※経済産業省「令和2年度産業経済研究委託事業(電子商取引に関する市場調査)」
「諸外国のEC化率を見ると、30%台の国も珍しくありません。日本のEC化率はまだ相当低く、今後3~4倍に拡大する余地があると見ています。ECが増えれば、オンライン決済やネットショップの需要も高まるでしょう。十分成長できるはずです」
同社としても、さまざまなサービスで事業者を手厚く支援し、さらなる市場の活性化につなげる姿勢だ。そのひとつが、BASEを利用するネットショップが資金調達できるサービス「YELL BANK(エールバンク)」だろう。
BASEには各ショップの売上データがたまっており、そのデータからショップの将来売上を予測。そうして、予測した将来の売上分の売掛債権(取引先や顧客から代金の支払いを受ける権利)をBASEが買い取る形で、そのショップオーナーに資金を提供する。
つまり、データをもとにショップで今後生まれるであろう売上をBASEが“先払い”し、その後、実際にショップがその金額を売り上げたらBASEが回収する。こういった形で資金調達を実現するサービスだ。
「金融機関で資金調達を行う場合、通常は審査が厳しく、資金調達を行えない、あるいは時間がかかるといった課題がありました。YELL BANKはリスクがなく、数タップで資金調達が行われます。これも決済やネットショップと同じく、いままで難しかった仕組みを簡単にした形です」
こういったサービスにより、ショップオーナーへのサポートはますます手厚くなる。それは、販売や決済の壁をどんどん低くしていくだろう。
D2Cのビジネスモデルが拡大する中で、それを下支えするBASE。まさにこのサービスが土台となって、日本のD2Cは成長を続けていくかもしれない。
(取材・文/有井太郎 撮影/森カズシゲ)
※記事の内容は2022年6月現在の情報です