マネ部的トレンドワード

各地を転々とする一般社員に取材

「新しい働き方」の最前線。ワーケーションや多拠点生活は本当に増えた?

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世の中のトレンドを深掘りする連載「マネ部的トレンドワード」。この連載では、コロナ禍に起きた変化を追いかけてきた。今回のテーマは、コロナ禍で聞かれた「新しい働き方」の最前線だ。

リモートワークや業務のオンライン化が一気に進み、これからは「新しい働き方が広がる」と言われたのは、もう2年前のこと。ワーケーションや多拠点生活が増えるという声が聞かれた。

では、それらを実践している人はいるのだろうか。そこでこの記事では、一般企業に勤めながら新しい働き方をしている方に取材。その生活に迫った。

1カ月で名古屋、大阪、尾道に滞在。一般企業の営業マンがなぜ


今回取材したのは、40代前半の会社員・石井慎一さん。法人向けメンタルヘルス支援の会社に勤務し、大阪支店長を務める。営業兼マネジメント職といえる。

そんな彼の生活は異色だ。たとえば4月の行動を振り返ると、2週間ほど名古屋に滞在。その後、東京で友人と会い、続いて大阪に1週間以上滞在。最後は尾道に移動して、数日間を過ごしたという。

職場を問わないフリーランスや、フルリモートが浸透していそうなIT企業ならわかるが、そうではない人がこういう生活を送っているのは意外ではないだろうか。

そんな石井さんの働き方を支えているのが、全国の家に定額で住み放題できるサービス「ADDress(アドレス)」。空き家を改修した家や空き室、宿泊施設連携物件など日本各地に230以上あり、月額4.4万円でどこでも住める。石井さんは、おもにテレワークや出張利用のためADDressに滞在しているという。

取材をした週も、大阪で数日滞在し、その後、愛媛の道後温泉で過ごしていた。夜は温泉を楽しんでいるようだ。

この生活を始めたのは2021年1月。理由は「仕事の環境を良くしたかったから」だという。

「私たちの営業エリアは西日本全域(愛知〜九州)と広く、もともと遠方出張が多かったんです。そして、そのたびに発生する移動時間がネックでした。コロナ禍でリモートワークができるようになり、ADDressを使えば、出張時の営業をもっと効率的に行えると考えました」

たとえばこれまで、名古屋出張なら日帰りが「暗黙の了解だった」と石井さん。すると、ついでの営業は難しく、1日の多くが移動時間となる。営業件数が限られるほか、日中の多くが移動時間になると、社員とのミーティングやコミュニケーションも取りにくい。支店長としてのマネジメントにも不都合が出るのだ。

そのため、かつてはアポの時刻にかかわらず、朝9時までに出張先に到着していたこともあったという。なるべくオンタイムに業務ができるように。これらが体力的なツラさ、そして精神的なキツさを生むのは想像にかたくない。

一方、いまの働き方になってからは、名古屋でアポイントが入ったら、そのアポを中心に1週間近くADDressに滞在。定額制なので経費はかさまず、朝からゆったりと仕事ができる。滞在中にエリアの営業を一通りでき、効率も良い。

個人と会社の両方にメリットがあるから、この働き方ができる

この働き方について、会社はすんなり許可してくれたのだろうか。その点を尋ねると、ADDressは石井さん個人が契約しており、会社にとっても滞在費の負担軽減になる。そういった会社側のメリットを丁寧に説明したとのこと。加えて、社内でリモートワークが進んだことから「会社は了承してくれました」と振り返る。

そうしてこの働き方を実践すると、もともと想定していたビジネス上のメリットを強く感じたという。

「滞在期間を長く取れるようになったことで、出張中も社内会議やミーティングなどをリスケせず実施できています。出張中の社内コミュニケーションは取りやすくなりましたね。私と会社、お互いがメリットを感じているからこそ続けられているのではないでしょうか」

さらに、仕事以外のメリットも強く実感するようになった。その筆頭が「各地の人との交流」だと石井さん。

「ADDressには、各家にオーナーや『家守(やもり)』という地域コミュニティ・マネジャーがいます。その方々から始まる人との交流は楽しいですし、また、何度も通ううちに、地元の住民の方と顔見知りになることも。もともと人の交流にはそれほど興味がなかったのですが、やってみたら良いものだなと(笑)」

この話の流れで石井さんのお気に入りの場所を聞くと、福岡県門司港の家だという。オーナーや家守の距離が近く、さらに「地元のバーが居心地良くて、店主の方ともすっかり仲良くなりました」と笑顔を見せる。

「人だけでなく、ロケーションが好きな場所もありますね。淡路島や尾道は、緑が多く、海も近くて落ち着きますよ。ADDressの家がある地域の中から滞在先を選ぶため、いままでの出張や観光では訪れようとしなかった場所に足を運ぶことが増えました。滞在する時は、平日に仕事をして、土日を散策に当てています」

ちなみに、石井さんがADDressで出会った人の中には、日本全国を原付バイクで回りながらフルリモートワークをしているIT系ワーカーや、石井さんのように日本全国の顧客と会いながら、各地に滞在しているコンサルタントなどもいるとのこと。

ワーケーションや多拠点生活が「今後増えていくだろう」と言われた2年前。あくまで予測だったあの頃から、いまでは実践している人がいる。新しい働き方というトレンドが、間違いなく起きているのだ。

(取材・文/有井太郎)

※記事の内容は2022年6月現在の情報です

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