市場関係者メッセージ
東京証券取引所の市場区分見直しに寄せて
※この記事はJPX「新市場区分特設サイト」上で2021年12月15日に掲載した記事の再掲載です。
中野 慎三
伊藤忠テクノロジーベンチャーズ株式会社 代表取締役社長
この度の市場区分見直しに際し、スタートアップへの投資を生業とするベンチャーキャピタル(VC)として、今後の期待について簡単に述べさせて頂きます。
我々VCは、投資先スタートアップ企業がマザーズ市場上場を経て事業を拡大させ、一部市場にステップアップし、最終的には我が国を代表する企業に成長する事を目標としています。
我が国を代表する規模の企業という事になると、そこに至るまでには大型で長期の先行投資が必要となります。以前はマザーズ市場に上場した後、株主の期待に応えながら投資を継続、事業を拡大させ、中長期戦略のもと一部上場につなげるというシナリオが通常だったと思います。
しかし最近では、未公開企業の私募による資金調達額が年々大型化しており、それを支える投資資金(リスクマネー)も拡大を続けております。我が国スタートアップの年間資金調達額はこの10年で8倍以上伸長し、年間5,000億円を超えています。
以前は未公開時点で10~20億円の資金調達をし、時価総額100~200億円程度で上場するという規模感でしたが、最近では未公開時点で100億円以上の資金調達を行い、マザーズ市場上場時に時価総額が1,000億円を超えるケースも増えております。未公開時点で以前よりも大きい資金調達が可能となった事により、上場に至るまでより長い時間を使って相当規模のスケールに成長する事が出来るモデルとなっています。
今回の市場区分見直しに際し、現在のマザーズ市場はグロース市場に模様替えとなる様ですが、新しい上場基準として「事業計画及び成長可能性に関する説明資料」の年一回の開示義務が加わるとの事。これは現在のマザーズ市場では上場時のみに開示していたものを、今後は継続的な開示を必要とする事によって、上場時に策定した成長計画の実行を制度的に促す良い施策であると歓迎します。
一方、マザーズ市場で従来設定されていた業績による上場維持基準が廃止されるとの事で、これはバイオ系や研究開発系企業の様に大型先行投資が必要で収益化に時間のかかるモデルの企業には有り難い制度であるといえます。
未公開企業に対するリスクマネー供給が増大し、スタートアップ企業の規模が拡大を続けている中、今回の市場区分見直しは正に時代に即した施策であると考えます。スケールアップしたスタートアップがグロース市場に上場し、市場で更なる成長を遂げてプライム市場にデビュー、最終的には日本を代表する企業となるストーリーを描くスタートアップ及びVCにとって非常に追い風となるものと期待しております。
中野 慎三 伊藤忠テクノロジーベンチャーズ株式会社 代表取締役社長
1989年伊藤忠商事㈱入社。90年代前半よりITOCHU Technology Inc.(Silicon Valley)にてベンチャー投資事業に携わる。シリコンバレーのトップティアVCとの関係を築き、伊藤忠グループにおけるベンチャー投資事業の土台を構築。2000年に伊藤忠テクノロジーベンチャーズ㈱を創業。パートナーとしてベンチャー企業への投資およびハンズオン支援に従事。2006~2010年Silicon Valley駐在。2012年伊藤忠商事㈱情報産業ビジネス部長就任。2015年伊藤忠テクノロジーベンチャーズ㈱代表取締役社長就任。同年日本ベンチャーキャピタル協会理事就任。2017年同副会長就任。2019年同会長就任(現任)。