東証市場再編

市場関係者メッセージ

どの市場区分においてもESG課題への取組みを期待

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※この記事はJPX「新市場区分特設サイト」上で2022年1月6日に掲載した記事の再掲載です。

黒沼悦郎
早稲田大学法学学術院教授

東京証券取引所の新しい市場区分の開始に向けた移行手続が進行中だ。新しい市場区分は、各市場のコンセプトを明確にし、それを上場基準に反映させている。2021年6月に改訂されたコーポレートガバナンス・コードや各市場上場基準に照らして、移行する市場を決める際や移行後に各上場会社に取り組んでもらいたいことを述べる。

プライム市場上場会社は、取締役会の3分の1以上、指名委員会、報酬委員会の過半数を独立社外取締役とすることが求められる。ガバナンス・コードは、これを遵守しないときは説明をすれば足りるわけだが、これらの補充原則は、プライム市場上場会社向けに設けられた特則なのだから、説明ではなく必ず遵守してもらいたい。

その上で、グローバルな投資家との対話が可能という市場のコンセプトから、より厳しい議決権行使基準を設ける機関投資家との対話を通じて、高いガバナンスを目指してもらいたい。

また、安定株主だけで株主総会の特別決議が成立することのないように、流通株式比率が35%以上あることが上場基準で求められた。これは、敵対的買収が生じうることを意味する。プライム市場上場会社は、機関投資家の多くが平時の買収防衛策の導入に反対であることも考慮して、企業買収に真摯に向き合ってほしい。

スタンダード市場の上場会社には、コーポレートガバナンス・コードの全原則とプライム市場向けの特則を除く補充原則が適用されるが、そこでは、地球環境問題、人権の尊重、従業員の健康・労働環境への配慮、自然災害等への危機管理といったESG課題に積極的に取り組むことが求められている。

環境問題への取組みは各社多様であろうが、女性・外国人・中途採用者の管理職への登用等、中核人材の登用等における多様性の確保は、ほとんどの上場会社に共通する課題だ。今回、補充原則により、人材多様性の考え方、目標、及び達成状況について特別の開示が求められた。これは、ガバナンス・コードが特に重要と考えて開示により取組みを促そうというものであるから、ぜひ積極的に取り組んでもらいたい。

グロース市場では、流通株式時価総額が5億円以上あれば上場を認めるというマザーズの基準が維持された。コーポレートガバナンス・コードの基本原則のみの遵守が求められる点も変わりがない。

もっとも、改訂ガバナンス・コードの基本原則では、ESG課題への取組みが以前よりも強調されていることが重要だ。ESG課題、とくに気候変動に代表される環境課題への取組みの優れた企業に投資したいという個人投資家が増えている。

そして、ガバナンス・コードの原則や補充原則は、基本原則の内容を敷衍するものであるから、グロース市場の上場会社にも、ESG課題への積極的な取組みが求められているといえるだろう。

 

黒沼悦郎 早稲田大学法学学術院教授
2004年より現職。専門は金融商品取引法。金融審議会委員・専門委員を歴任。現在、東京証券取引所「SPAC制度の在り方等に関する研究会」座長を務める。主な著書に、『金融商品取引法〔第2版〕』(有斐閣、2020)、『金融商品取引法入門〔第8版〕』(日本経済新聞出版、2021)。

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