市場関係者メッセージ
スタートアップの成長が日本経済成長の原動力となるために
※この記事はJPX「新市場区分特設サイト」上で2021年12月20日に掲載した記事の再掲載です。
村田祐介
インキュベイトファンド 代表パートナー
2022年4月4日より東京証券取引所の市場区分が再編成されることになりました。多くの国内スタートアップにとってはIPOターゲットをこれまでのマザーズ市場からグロース市場へ変更することになります。近年、今回再編される上場基準だけでなくIPO時の公開価格設定プロセスの在り方や、日本版SPAC並びにダイレクトリスティングに関する是非など市場の構造的観点による議論が市場関係者の中でなされていますが、今後日本のスタートアップが経済の牽引役たる存在に成長するためにはどのような市場を形成していくべきか、ベンチャーキャピタルの立場から一考を論じさせて頂きます。
Source: INITIAL 2021年11月10日時点データ、東証公表データを元に作成
国内スタートアップの過去15年間に渡る資金調達環境を振り返ると、2006年のライブドアショック、2008年のリーマンショック、2011年の東日本大震災などが重なったことで2012年頃まで氷河期を迎えていましたが、以降10年間一貫して成長してきました。2018年に5,000億円を突破して過去最大金額を更新し、2021年はQ3時点で6,000億円を突破しており8,000億円を超えることが確実視されています。これはスタートアップの経営者の質と目線が向上し事業スケールが大きくなってきた発行体側の背景と、資金の担い手である国内VCが国内外の機関投資家資金を獲得し始めたこと、本来上場株式に投資していた国内外の機関投資家がクロスオーバー投資家としてスタートアップへの投資を始めたこと、海外VC/PEが相次いで国内参入してきていること等の投資家側の背景が相俟って起きている現象だと考えられます。
一方でIPOによる資金調達環境を見ると、オファリングサイズは年々大型化してきているものの公募調達金額だけに絞ると直近10年の平均が1,200億円程度で推移しており、発行体目線において非上場時の資金調達規模との乖離が進んでいます。これまでIPOの位置付けは発行体にとって主に大型資金調達を行うためのものと認識されてきましたが、流動性を確保するためのものに変化しつつあり、資金調達は市場での信頼を獲得した後にPOで実施しようとする動きが広がってきていると感じています。また前述の通り、国内外の機関投資家がクロスオーバー投資家として非上場時に投資する動きが加速しており、機関投資家からみた投資対象ユニバースにおける上場/非上場の垣根が低くなりつつあります。
これらの現象は国内に限定されたものではなく、世界各国で起きている現象です。将来の経済の牽引役としてスタートアップが大きく期待され、空前の資金がスタートアップに流入してユニコーンの数は1,000社を超えました。一兆円を超える評価額でIPOを果たすスタートアップがグローバルでは珍しくなくなっています。
これらを踏まえ東証及び市場関係者、またこれからIPOを企図する発行体に是非お願いしたいのは、皆それぞれの持場で更に大きく目線を上げることです。グロース市場はマザーズ市場に引き続き、世界で最も上場しやすいレギュレーションが踏襲されていますが、この市場特性は認識しつつも大型のオファリングサイズが形成され世界中の投資家を吸収できる規模感のIPOが当たり前になることを願っています。
日本ベンチャーキャピタル協会(JVCA)では「3つの一兆」、即ち2023年末までに①上場後1年以内に時価総額一兆円を超える事例を作る、②スタートアップの年間資金調達総額を一兆円超とする、③国内VCファンドの年間組成金額を一兆円超とする、という目標を掲げました。是非皆さんと共に良い市場を創出していきたいと考えています。
村田祐介 インキュベイトファンド 代表パートナー
2003年にエヌ・アイ・エフベンチャーズ株式会社(現:大和企業投資株式会社)入社。主にネット系スタートアップの投資業務及びファンド組成管理業務に従事。2010年にインキュベイトファンド設立、代表パートナー就任。
2015年より一般社団法人日本ベンチャーキャピタル協会企画部長を兼務。その他ファンドエコシステム委員会委員長やLPリレーション部会部会長等を歴任。
Forbes Japan「JAPAN’s MIDAS LIST(日本で最も影響力のあるベンチャー投資家ランキングBEST10)」2017年第1位受賞。