東証市場再編

市場関係者メッセージ

新たなグロース市場へのグローバルな観点からの期待

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※この記事はJPX「新市場区分特設サイト」上で2022年1月19日に掲載した記事の再掲載です。

郷治友孝
株式会社東京大学エッジキャピタルパートナーズ(UTEC) 代表取締役社長

東京証券取引所に設けられている各種市場の中でも、1999年11月に開設された「マザーズ」は、新興企業向け株式市場として多くのベンチャー企業の株式上場とエクイティファイナンスの場としての役割を担ってきました。未公開ベンチャーに投資するベンチャーキャピタル(VC)にとっても、マザーズは、ちょうど前年に施行された「投資事業有限責任組合法」により設立が可能になったVCファンドからのベンチャー投資資金を回収する場としての役割を果たしてきています。2000年代以降の日本のベンチャーファイナンスの世界では、これら2つの制度が両輪となることにより、スタートアップが返済不要のリスクマネーをVCから調達して成長しIPO(新規株式上場)に至る流れが定着してきたといえます。東証マザーズの上場社数は2021年12月末で424社となり、日本取引所グループ全体(3822社)の11%を占めるまでになりました。

この度の東証の市場改革では、このマザーズなどを発展させて、高い成長可能性を有する企業向けの株式市場として「グロース市場」を設けることとされています。グロース市場の設計に当たっては、特にテックベンチャーに対する資金供給機能の強化が議論されており、国際的な観点から大きく2点、エールをお送りさせていただきたいと思います。

一点目は、セクター別のIPO件数です。日本ではITやサービス業のIPOが大半を占めますが、世界では(ITが一番多いものの)医療、工業、素材、エネルギーといった「Deep Tech」と呼ばれる重厚な業種のIPOが過半を占めます。一般にこれらの業種は製品化・販売までに多くの資金と長い時間を要することが多く、売上や黒字化までのハードルが高いとされますが、一方で、いったん競争優位を築くことができれば、参入障壁が高いため長く競争力を維持でき、雇用創出などの経済効果も大きなものが期待されます。元来日本の科学や技術にはこうした分野で世界的に優れたものが多く、これらのセクターでも中長期的に企業価値を高めていく企業のIPOを抜本的に増やすことが期待されます。

二点目は、IPOにおける調達額です。世界でIPOが活発な株式市場を見ると、東証マザーズは、件数では2021年で世界6位(128件(世界シェア5.4%))でしたが、調達額ではトップ12位に入りませんでした。対して、米国、中国、韓国などの高成長企業向け株式市場は、IPO件数が上位の市場はIPO調達額でも上位に入っています。(米国NASDAQ: 308件(12.9%、1位)及び975億ドル(21.5%、1位)、中国深セン市場: 231件(9.7%、3位)及び252億ドル(5.6%、5位)、韓国市場: 86件(3.6%、12位)及び174億ドル(3.8%、7位)など)。高成長産業に積極的に資金供給を行うことはIPO市場の使命の一つであり、日本でも、IPOする企業群による資金調達を抜本的に活性化することが期待されます。

上記を実現するためには、短期的には売上で賄えない規模の成長資金が必要とされるDeep Tech企業や、短期的には損失を出してでも世界規模での事業を展開するために旺盛な資金需要を有する企業を重点的に審査するなど、株式上場審査の在り方にも工夫を加える必要があるのではないでしょうか。この度の改革を機に、東証グロース市場が世界的な成長企業向け株式市場として発展していかれることを願ってやみません。

郷治友孝 株式会社東京大学エッジキャピタルパートナーズ(UTEC) 代表取締役社長
1996年通商産業省(現経済産業省)入省、我が国ベンチャーキャピタルファンドの根拠法となった『投資事業有限責任組合法』(1998年11月施行)を起草し、文化庁、金融庁を経て、2004年4月UTEC創業に当たり退官。
以来、UTEC1号から5号までの投資事業有限責任組合(計約850億円)のベンチャーキャピタルファンドの設立・運営、東京大学発をはじめとする大学関連スタートアップへのシード/アーリーからの投資育成戦略の遂行、UTECのチームビルディングや国内外の大学・研究機関との関係構築を行ってきた。
投資先企業の中からこれまでに13社がM&A等、17社が株式上場を果たす。近年はデータサイエンスを研究し、科学系スタートアップの成功要因を分析。
2015年より日本ベンチャーキャピタル協会常務理事。
1996年東京大学法学部卒、2003年米国スタンフォード大学経営学修士(MBA)、2020年東京大学博士(工学)。

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