市場関係者メッセージ
プライムにふさわしい企業に
※この記事はJPX「新市場区分特設サイト」上で2021年12月22日に掲載した記事の再掲載です。
三井千絵
野村総合研究所 上級研究員
過去数年取り組んできた東証の市場改革は、最終的に現在のTOPIXを構成する一部上場企業とあまり変わらない数の企業がプライムに所属する結果となりそうだ。この市場改革には、ステークフォルダーによって様々な期待があるが、投資家等による「最上位市場に所属する企業は、”ガバナンスや開示で優秀な企業”であって欲しい」というのもその一つだ。
その背景には、アセットマネージャーが、顧客であるアセットオーナーや投資信託で「このファンドでは、こういう運用をします」と契約をする時”ユニバース”というものが欠かせず、そのユニバースは同じ条件の企業に所属して欲しいというのがある。
例えばガバナンスについて高い要件を満たしているとか、開示のレベルといった投資判断に必要な条件だ。ほかにも時価総額のサイズが近い、成長のステージが同じぐらいといったことが求められ、上場基準を同じくする”市場区分”をユニバースにとることが多い。
更に特定の指数の採用や、一定条件によるスクリーニングの結果を投資対象とすることもあるが、市場区分が最初の母集団になることが多い。そうすると、同一市場に含まれる企業数が多ければ多いほど、投資家の調査、分析、また保有数も増え、議決権行使やエンゲージメントの質を上げていくハードルとなる。
今までの東証一部は、最上位の市場としては含まれる企業数が多く、グローバルに有名な会社から、あまり聞かないニッチな会社まで、文字通り「猫も杓子も一部」という状態であった。それゆえ企業にとっても「XXXを強化して一部上場を目指そう!」といった向上心の動機になりにくいとも言われていた。その改善という期待を抱いていた場合、最終的に1800社ほどがプライムに所属するといわれ、批判的な見方をする投資家もあるだろう。
こうなると過去数年間行われてきた改革を生かせるかどうかは、今年改訂されたCGコードへの対応にかかっている。市場改革は改訂CGコードと成否を共にしている。コードはPRIME上場企業に、気候変動リスクやスキル・マトリックスの開示、英文開示、独立取締役の数など、少し厳しい対応を求めているからだ。
改訂コードの要件を厳しく感じている企業もあるだろうが、これは連帯責任だ。投資家が「プライムに上場しているなら大丈夫だろう」と思えるよう、東証にも厳しく対応のチェックをして貰いたい。プライム市場にふさわしい企業になってほしい、そうしてこそ日本市場の活性化も図れると思っている。
三井千絵 野村総合研究所 上級研究員
専門は企業開示情報、関連制度。2014年から2020年までIFRS財団の電子開示に関する諮問グループITCG、2021年よりCFA協会の企業開示指針委員会のメンバー。投資家・アナリストの為の効率的な開示に関して意見発信を行う。IFRS、ガバナンスコード、海外非財務開示の動向、ここ数年はサステナブル・ファイナンス等の研究を行っている。経済産業省非財務情報開示指針研究会委員。