東証市場再編

市場関係者メッセージ

我々に停滞を打ち破る覚悟はあるか?~東証市場再編を改革・成長路線継続の旗印とせよ

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※この記事はJPX「新市場区分特設サイト」上で2022年3月15日に掲載した記事の再掲載です。

細水政和
RMBキャピタル パートナー

東京証券取引所(東証)新市場区分スタートへのメッセージを寄せるにあたり、まずは本制度改革に携わった東証関係者各位の多大な努力に敬意を表したい。

さて、既に忘れられつつあるかもしれないが、今回の東証再編議論のスタートは波乱に満ちたものであった。新東証一部上場基準(特に時価総額基準)がどこで線引きされるか、ということが独り歩きし、果ては一部証券会社による情報漏洩問題と金融庁による当該証券会社の行政処分を経て、金融庁が主導権をとり市場再編議論を再開する、という有様であった。

そもそも、「市場再編で投資マネーを呼び込む」という発想自体が安直であり、市場区分を変えるだけで世界の投資家がついてくるだろう、という奢りが、今回の市場再編議論が迷走した原因だったのではないかと思う。

結局のところ、市場改革に王道はなく、投資家と企業の日々の対話、また、それを促すための東証による環境整備等、地道な努力を積み重ねることが、市場としての東証の質改善と、我が国における上場企業の競争力向上につながると信じている。

ただ、だからといって今回の東証市場再編が全く無意味だということではない。オリンピックと同様、こういったイベントは世間の耳目を集めること自体に大きな意義があり、また、国家としての意思を内外に示すという意味で非常に良い契機である。

奇しくも昨年末に岸田政権が発足し、「新資本主義」なるスローガンのもと、ともすれば改革の逆行ともとれる言動が散見される中、東証市場再編は我が国が改革・成長路線を継続する意志があることを世界に宣言する唯一無二のイベントであり、大いに活用すべきである。

ところで、2019年の金融審議会において指摘したとおり、我が国株式市場の問題の一つに、東証における市場運営部門と指数開発部門との利益相反があると考えている。すなわち、上場社数といった規模の拡大を追求する動機のある市場運営部門と、株式指数の質を維持・向上するため上場企業を選別する動機のある指数開発部門が併存する東証においては、長期的に一貫したビジョンを持つこと自体が無理な話ではないか。

したがって、再編すべきは市場構造ではなく、東証自体ではないか、というのが当時の私の問題提起であった。その観点からは、本年4月1日より日本取引所グループ子会社としてJPX総研が発足し、市場データ・インデックスサービス等の業務が取引所業務より分離・集約される運びとなったことは注目に値する。今後、健全なインデックス開発とその普及活動を通して、我が国上場企業の質の向上が図られることを期待したい。

言うまでもないが、我が国上場企業の資本効率は諸外国と比べ極めて低く、また、2015年のコーポレートガバナンス・コード制定を含む一連の改革もまだ緒についたばかりである。バブル崩壊後の経済の長期低迷から脱する事ができず、さらに少子高齢化が加速する中で、これまで掲げてきた改革・成長路線さえも取り下げてしまえば、世界市場における我が国の存在感は完全に失われてしまう、という危機感を我々は持つべきである。

経済力すなわち国力であり、経済の中心を担う上場企業の発展を促す証券市場は我が国の盛衰を決する礎である。政府・東証、上場企業経営者、そして我々市場参加者は、一層奮起して改革・成長路線を堅持すべきである。

細水政和 RMBキャピタル パートナー
2013年RMBキャピタル(シカゴ)にポートフォリオ・マネジャーとして入社し、日本・欧州など米国以外の先進国株式投資を担当。前職はコッグヒル・キャピタル(シカゴ)、野村證券(仙台、ニューヨーク)。東京大学法学部卒、シカゴ大学経営学修士(MBA)取得。米国証券アナリスト資格(CFA)保有。

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