市場関係者メッセージ
東証プライム市場への機関投資家としての期待
※この記事はJPX「新市場区分特設サイト」上で2021年12月3日に掲載した記事の再掲載です。
井口譲二
ニッセイアセットマネジメント株式会社 チーフ・コーポレート・ガバナンス・オフィサー 執行役員統括部長
今回の市場改革の意義は、市場区分の役割の明確化とプライム市場創設にあると考えています。しかし、昨今の議論をみていますと、市場区分における“流動性比率”の基準ばかりが話題になっており、非常に残念に思っています。もちろん、機関投資家にとって、何かあったときに保有株式の売却ができるという点で流動性の確保は欠かせない事項ですが、それだけが、市場改革のポイントではないからです。
新しく創設されるプライム市場は『多くの機関投資家の対象となりうる時価総額(流動性)を持ち、より高いガバナンス水準を備え、投資者との建設的な対話を中心に据えて持続的な企業価値向上にコミットする企業向けの市場』と位置付けられました。このことは、当市場区分では、流動性の確保に加え、持続的な成長を支える『ガバナンス態勢の整備』と投資家との建設的な対話を可能とする『高水準の企業開示』といったクオリティ(質的)要件の充足が求められることを意味します。
『高いガバナンス態勢』を備え、『高水準の企業開示』を行う企業は、高い資本効率性と成長性を可能とし、市場からも高い評価を受けることになると考えます。機関投資家として期待することは、このプライム市場のクオリティ要件を満たすために、多くの企業が切磋琢磨し、企業価値向上、そして、株式市場全体の価値向上が達成されることにあります。また、プライム市場は、日本の資本市場を代表する市場となりますので、このことは、日本の資本市場の国際的な地位向上にもつながるとも考えています。
すでに、機関投資家のプライム市場への期待を反映した動きは起こっています。2021年のコーポレートガバナンス・コード改訂では、プライム市場上場企業に対し、より高い水準のガバナンスと企業開示を求めるよう再設計されました。また、機関投資家の中でも、私の属するニッセイアセットマネジメントは、2022年6月から議決権行使基準を二つにわけ、プライム市場上場企業にはより高い水準のガバナンスを求めることとしています。このようにプライム市場への期待は、今後、ますます大きくなるものと考えています。
もちろん、市場区分の最終選択権は企業にありますが、プライム市場を選択した場合には、機関投資家の高い期待に応えるという履行義務も発生するため、その選択の責任は重いと考えています。
井口譲二
ニッセイアセットマネジメント株式会社 チーフ・コーポレート・ガバナンス・オフィサー 執行役員統括部長
運用部門の部門横断的なESG・スチュワードシップ活動・アナリストリサーチの統括。IFRS(国際会計)諮問会議委員、金融庁「金融審議会(市場構造専門グループ/ディスクロージャーワーキング・グループ)専門委員/サステナブルファイナンス有識者会議委員/企業会計審議会監査部会臨時委員」、日本証券アナリスト協会サステナビリティ報告研究会座長、企業会計基準委員会(ASBJ)専門委員など。主な著書に『財務・非財務情報の実効的な開示―ESG投資に対応した企業報告――』(別冊商事法務2018年4月)『コーポレートガバナンス・コードの実践』(共著、日経BP、2018年10月)など。