東証市場再編

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【奈良県】半導体製造機器、ワイヤーソーが主力 ニッチトップを進む産業機械メーカー

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※この記事はJPX「新市場区分特設サイト」上で2022年1月25日に掲載した記事の再掲載です。

株式会社タカトリ
代表取締役社長 増田誠

半導体製造機器、ワイヤーソーが主力
ニッチトップを進む産業機械メーカー
―奈良県― 株式会社タカトリ

奈良県橿原市に本社・工場を持ち、半導体製造機器や精密加工機器の製造・販売を行う株式会社タカトリ。創業者・高鳥王昌氏が葛の粉砕装置をつくったことに始まり、当初はパンティストッキング縫製機などの繊維機械で発展。1980年代からエレクトロニクス分野、半導体分野に参入し、近年は医療機器分野、クリーンエネルギー分野での機器開発にも進出しています。時代の変化を読み、常に新しい領域を開拓できるのはなぜなのか。その理由と今後の展望を、代表取締役社長の増田誠さんにお聞きしました。

SiCを切断するワイヤーソーは世界トップシェア

――様々な事業を手掛けられていますが、コアとなる技術について教えてください。

増田社長 繊維機械から始まり、エレクトロニクス分野へ参入してきた歴史の中で、私たちは様々なコア技術を保有しています。真空内で気泡を除去する「真空技術」、非接触で精密な部品を運ぶ「搬送技術」、材料を高い精度でカットする「切断技術」、加工機器を精密にコントロールする「制御技術」、その他にも「貼付技術」「研磨技術」「計測技術」「剥離技術」という8つのコア技術があり、それらを応用して、様々な領域の産業機械を製造しています。現在は特に半導体関係の製造機器の売上や利益が大きく、タカトリの業績を押し上げています。

――最近、「切断加工装置」の大型受注を公表されていますが、これはどのようなものでしょうか。

増田社長 自動車のEV化がヨーロッパ、アメリカから始まり、近年は中国も国家戦略として加速させるなど世界的に進展しています。EVに搭載されるパワー半導体には、SiC(シリコンカーバイド)という材料が使用されますが、このSiCをインゴット(一定の形に鋳造した塊)の状態からワイヤーソーで薄くスライス加工する装置をタカトリが製造しており、100%近い世界シェアを獲得しています。これまでもLEDの発光基板に使われる人工サファイアの切断加工機で世界を席巻したこともあります。常に時代が必要とする素材に対応する切断加工機を送り出していきたいと考えています。

常にニッチなエリアでの頂点を目指す精神を継承

――エレクトロニクス分野には1980年代に進出されています。どのようにして全く新しい領域へ進出されたのでしょうか。

増田社長 1960年代まではパンティストッキングの縫製機を世界64カ国に納入し、「小さな巨人」と称されるほどでした。しかし、繊維業界の不況、パンストの需要減、特許切れにより類似の機械が各地でつくられ始めることを見込んで、1980年代に方向転換をします。当社の重役が大手電機メーカーの当時の副社長とつながりがあり、また、私たちの工場はそのメーカーの工場に囲まれたロケーションにあったこともあり、エレクトロニクス分野のものづくりに参画したいと相談し、アライアンスを結びました。そこで学ばせていただきながら蓄積した技術が、今の主力事業につながっています。

――「創造と開拓」を社是として掲げておられます。そこに込められた思いや、どのように実践されているのかを教えてください。

増田社長 創業者の高鳥は「この世にないモノを造るのがタカトリである」という言葉を残しています。一つの機械、一つの分野の好況がずっと続くことはなく、落差の大きな波はあります。ただ、山の頂点と谷を行ったり来たりするほどの財務能力の余裕は私たちにはありません。次のニッチなエリアでの頂点を目指して、常に「創造と開拓」をするのがタカトリです。私はこれを「剣山経営」と呼んで、ことあるごとに社員に呼びかけています。一本ではなく、無数の尖った針を持ち、常にニッチでも頂点を進んでいくイメージを持っています。

地元中心の雇用や仕入れで地域経済に貢献

――奈良県で創業されたのはどのような経緯だったのですか。

増田社長 創業者の高鳥の出身は新潟でしたが、家族で満州に渡り、そこで育ちました。日本に戻ってからは刀鍛冶屋で丁稚奉公として働いた後、機械の開発を夢見て、当時、繊維産業が盛んだった奈良県を創業の地と選び、針工具店から始めます。そして1950年に、奈良県工業試験場から資金援助や、場所や工作機械を使わせてもらいながら奈良県の特産物、葛の粉砕装置を開発したところ、それが大量の受注につながり、その資金を元手に繊維機械を次々と開発、奈良を中心とした繊維産業の発展に貢献しました。

――現在、地域社会との関わりで力を入れていることがあれば教えてください。

増田社長 奈良県内の経済団体に参加し、異業種交流を活性化させ、地元の企業との新たなビジネスチャンスの発掘機会を設けています。県内の他のモノづくり企業とは技術交流会の場を定期的に持ち、お互いの技術交流、アドバイスの交換会を実施しています。雇用面では、全社員の約95%が県内採用です。材料仕入においては、全仕入の25%が県内企業、それを含めて90%以上を近畿圏内から調達を行い、地域経済の活性化に微力ながら貢献しております。地元で雇用し、地元で調達し、海外へ輸出するといったイメージの展開です。

――毎年、社員の方々が国道24号線の清掃ボランティアを行っているそうですね。

増田社長 地域環境の美化とさらなる地域密着を目指すものですが、清掃に取り組む社員たちの姿は企業姿勢の何よりの発信であり、人材確保にもつながるものだと考えています。

日本企業の競争力強化につながる製造プロセスを創造

――日本の産業や技術革新に向けた思いをお聞かせください。

増田社長 現在、私たちが参画している電子エレクトロニクス分野のプロセス領域と新素材分野では、日本企業の競争力が海外企業に比べて低下しているように感じています。加速し続ける技術革新のロードマップに対応し、お客様企業との情報共有を密にして、これからも日本企業の競争力強化につながる製品製造プロセスを私たちから創造し、開拓し、提案していきます。お客様が厳しいエレクトロニクス市場で勝つための武器の供給者でありたいと思います。日本企業の皆様と新たな産業を築き上げることができる「日本株式会社」の一員として貢献したいと考えています。

「この世にないモノを造るのがタカトリである」を目指す

――将来を見据えて、さらに新しい分野への挑戦も継続されているのでしょうか。

増田社長 まず2015年から医療機器分野に参入しています。がん患者の腹水の濃縮還元分離装置を開発しました。それを聞きつけた医療機器メーカーから各種医療機器の相談をいただくようになり、OEM、ODMで製品供給をする事業が拡大し始めています。二つ目は、蓄電池(バッテリー)分野です。2020年6月に戦略的基盤支援事業に採択いただき、「全個体電池」の完成度の高い製造プロセスの構築をテーマとして開発を進めています。自動車メーカー、バッテリーメーカー、バッテリー開発技術研究団体の方々との親交を深め、新事業の方向付けをしています。

――新しい開拓分野を見つけるために取り組まれていることはありますか。

増田社長 2021年3月から取り組んでいるのが、全社員参加の「未来創造プロジェクト」です。200人以上の全社員が19のチームに分かれて、「カーボンニュートラル社会を迎えて我々の向かうべき方向は?」と題し、定期会合を行っています。2022年3月までに、各チームから新たに参入する開発分野・テーマを発表してもらうことになっています。社員全員で将来を見つめる視点を持ち、一人一人が未来をどう考えているのかを自分自身に問いかけていく活動です。また、私たちが現在持ち合わせているコア技術だけでは、未知なる市場に対応できないでしょう。必要技術を見極め、業界の方々、研究団体、大学などとのアライアンス展開の技をこれからもより一層磨いていきます。どの業界に参入しようとも、世界のニッチトップシェア100%を常に目指し、「この世にないモノを造るのがタカトリである」を、これからも目指し続けます。

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