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【千葉県】「いつでもどこでも誰でも、正確かつ迅速なPCR検査の実現による社会貢献を目指して」 コロナ禍を機に、遺伝子検査をもっと身近に

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※この記事はJPX「新市場区分特設サイト」上で2022年3月1日に掲載した記事の再掲載です。

プレシジョン・システム・サイエンス株式会社
代表取締役社長 田島秀二

「いつでもどこでも誰でも、正確かつ迅速な
PCR検査の実現による社会貢献を目指して」
コロナ禍を機に、遺伝子検査をもっと身近に
―千葉県― プレシジョン・システム・サイエンス株式会社

全世界を襲ったコロナ禍をきっかけに、医療に関わるいくつもの専門用語が突如注目され一般化していった中でも、「PCR検査」は、その代表格といえるでしょう。千葉県松戸市に本社を置くプレシジョン・システム・サイエンス株式会社は、感染疑いに確定診断を行うPCR検査の自動化装置や試薬を開発製造し、国内外に提供しています。臨床検査の最前線を支える同社の技術力と今後の可能性について、代表取締役社長の田島秀二さんに伺いました。

全自動PCR検査装置の普及速度が倍増

――新型コロナウイルス感染症(covid-19)への対応で、ずっとご多忙だったと思います。直近の事業の状況について、まずお聞かせください。

田島社長 当社が製造する全自動PCR検査装置は現在、国内で自社販売する「geneLEAD(ジーンリード)」と、エリテック社(フランスのバイオ医薬品企業)へのOEM(他社ブランド向け製造)として50カ国以上に供給した製品を合わせて、販売累計が千数百台に達しています。コロナ禍の前後で比べると、普及のペースは2倍近く速まりました。

私たちの装置を使ったPCR検査では、鼻咽頭ぬぐい液や唾液といった検体からウイルスの遺伝子を抽出して測定するために、2種類の試薬を使用します。このうち測定用の試薬はエリテック社他数社が提供していますが、抽出用の試薬については当社が、検査装置本体やプレパックされたカートリッジ形状の試薬などの消耗品とともに秋田県の自社工場で生産し、国内外に供給しています。

自動で機械的に検査できるよう、抽出用の試薬は、手順ごとに用いる液剤を順番に並べて封入した、長さ約25cmのカートリッジ式にしています。コロナ禍以降、この試薬への需要が急増し、生産が追いつかなくなりました。そこで現在、国の補助も得て第2工場を建設中で、今年6月までに本格稼働開始を目指しています。

――covid-19に関しては、流行の時期や規模など、予測の難しい要素も多い気がします。そうした中、新たに工場を設けることを決断できたのはなぜでしょうか。

田島社長 ジーンリードはもともと、がんによる遺伝子変異をとらえる超早期診断を主眼に開発を始めた製品で、covid-19だけに特化した装置ではありません。covid-19用の試薬を、なるべく早くお届けしたいのはもちろんですが、これから試薬の種類を増やしていけば、さまざまな病気の早期発見に応用できることも踏まえて、増産体制の整備を決めました。

「転禍為福(わざわい転じて福となす)」という言葉を、私は座右の銘にしています。全自動PCR検査装置に限って言えば、covid-19関連のニーズは最初に感染が拡大した2020年がピークだったと考えていますが、今日までに装置を導入した多くの医療機関、また一般の方々の間でも、PCR検査に対する理解はコロナ前に比べて飛躍的に進んでいます。

これはつまり、「感染症対策として体外からの遺伝子をチェックするだけでなく、体内の遺伝子を見て病気の兆候をつかむ用途でも、PCR検査を選んで利用しやすい環境が整ってきた」ということです。今後はこうした環境を、当社にとっても社会全体にとってもプラスになる形で生かしたいと考えています。

 

世界シェア5割の製品も。速くて簡単、確実な検査の独自技術

――ひとくちに「感染症の検査」と言っても、さまざまな種類があることを多くの人が知るようになりましたが、あらためてPCR検査の特徴と、その自動化技術について伺えますか。

田島社長 PCRはPolymerase Chain Reaction(ポリメラーゼ連鎖反応)の略で、数日間を要する細胞の培養よりも圧倒的に速いスピードで、ターゲットとなる遺伝子を増幅させる(コピーを増やす)技術です。正確なPCR検査を可能とする私たちの装置では、遺伝子の抽出から検査完了までの全工程が、2時間弱で済みます。

ウイルス感染症の検査方法としては、感染経験がある人の体内で生じる物質を検知する方法(抗体検査)もありますが、PCRは、ウイルスがいま存在することをウイルスの遺伝子で直接証明する「確定診断」である点が異なります。確定診断は、ウイルスに含まれる成分を検知する方法(抗原検査)でも可能ですが、PCRでは増幅を行うため、感染初期の微量なウイルスも検知しやすい点で優れています。

ただ、この増幅のプロセスがあるだけに、PCRでは検査中の手指などを介し、ごくわずかな異物が混入しても誤って陽性となるリスクがあります。反対に、陽性者を見逃す可能性もあり、特にさまざまな成分を含む検体から遺伝子を取り出すプロセスが不完全な場合、そのリスクが高まります。PCR検査のこうした課題を解決するのが、人の手を介することなく、確実な手順を実行できる自動化技術です。

――PCRの自動化では、「マグトレーション」という独自技術を採用されているそうですね。

田島社長 はい。当社が国際特許を持つマグトレーションは、検体に含まれる遺伝子(DNA等)を取り出すにあたって、磁石に付く性質を持ったビーズを用いる技術です。

ビーズはナノサイズ(1ナノメートルは100万分の1ミリメートル)で、表面は遺伝子を吸着する成分で覆われています。さらに、このビーズが入った試薬の液体を吸引・吐出する検査装置のノズルには、外側から磁石を当てられるようになっています。

これらを利用して、ノズルで液体を吐出・吸引する工程と、磁石でビーズを吸着・解放する工程を、数種類ある試薬ごとに自動で繰り返す結果、検体から溶け出させた遺伝子を、きれいに洗浄された状態で測定できます。

信頼性の高い検査を簡単に、テクニシャンがいなくても実施できるマグトレーションの優位性が評価され、私たちは遺伝子抽出に特化した装置では世界シェアの半分を獲得しています。遺伝子の抽出に加えて測定機能も備える全自動PCR検査装置の分野では、大型製品を手がける各国企業と共同開発などを進める一方、自社製品としては個人医院でも使えるコンパクトな装置に力を入れています。

――コロナ禍のPCR検査の目詰まりが社会的課題となっていますが、御社の製品が普及すれば解決へ向かいそうです。

田島社長 お陰様で、2020年4月には 全自動PCR検査システム供給に関して駐日フランス大使から礼状をいただきました。また、2021年1月には、当社の全自動PCR検査システム「エリートインジーニアス」が「2020年 日経優秀製品・サービス賞:日経産業新聞賞」を、「ジーンリードエイト」が「2020年 日刊工業新聞・第63回十大新製品賞:本賞」を受賞しました。これらは、大変名誉なことだと受けとめて、今後の事業活動の励みとしたいと考えています。

――現在、第6波に見舞われていますが、新たな取り組みなどはされているのでしょうか。

田島社長 1回2時間弱で終わる私たちの全自動PCR検査ですが、大規模な感染症のピーク時は、それでも追いつかないことが今回のコロナ禍ではっきりしました。そこで現在、いくつかの検体を少しずつ混ぜ合わせて一括検査し、陽性が出た場合だけ個別に再検査する「プーリング」と呼ばれる手法でのスピードアップも準備中です。

私たちは20年以上前から、プーリングを用いたエイズのPCR検査を支援してきた実績があり、厚生労働省もcovid-19に関して5検体のプーリングを推奨しています。理論上は最大5倍の時間短縮になりますから、陽性率が低い場合には費用対効果の高いスクリーニング検査として実用化する準備を行っています。

 

コロナ対策で整った仕組みを、病気の超早期診断にも

――PCRは遺伝子をターゲットにした検査ですが、マグトレーションなどの独自技術は、遺伝子以外にも応用できるのでしょうか。

田島社長 その通りです。病気の有無、さらには程度を知る手がかりとして、遺伝子やタンパク質に続く有望なターゲットとされる「糖鎖」も、マグトレーションで捕らえられることが分かっています。

ライフサイエンスの分野では既に、病気の発症や進行によって変異する糖鎖を、研究者の方々が数多く発見しています。それらに対応する試薬を私たちが開発できれば、全自動PCR検査装置やその姉妹機を使って、遺伝子と糖鎖にまたがる定量的・包括的なデータが得られ、兆候をつかむのが難しい病気の超早期発見や、重症化の防止につながると期待しています。

――2021年11月には、全自動PCR検査装置の各機種をそろえた拠点「PSS新宿ラボラトリー」が東京都庁近くにオープンしました。ここでの取り組みについてもお聞かせください。

田島社長 「PSS新宿ラボラトリー」(以下当ラボ)は、製品のショールームとしての役割はもちろんですが、衛生検査所の登録もしており、実際に遺伝子検査ができる、文字通りのラボラトリー(研究室)と位置づけています。

直近でまず大事なのは、やはりコロナ対策です。さきほど触れたプーリングの技術検証や、PCR検査の受託事業などに、しっかりと取り組みます。そのほか、検査設備を大学や研究機関に開放し、さらに当社製品を導入している医療機関とも連携しながら、遺伝子検査の新たな用途に関する研究開発の拠点としても育てていくつもりです。

この度2022年2月に、当ラボは「発熱などの症状のない無症状の東京都民の方のうち、ワクチン接種を受けられない方や感染不安を感じる方」を検査対象とした「東京都PCR等検査無料化事業者」として登録されて、本事業の推進のために東京農工大に検体採取所を開設しました。医療機関との提携により、もし万が一の陽性の結果を通知する場合にも、迅速な医療診察や陽性患者フォロー(健康観察・治療薬投与)を受けられるような段取りもしています。さらに、新たな唾液採取会場を新宿ラボラトリーの近隣に設立する予定となっています。

本事業活動は現状のコロナ禍における急速に拡大するオミクロン変異株の感染状況に鑑みて、「いつでもどこでも誰でも、正確かつ迅速なPCR検査の実現」の事業指針に則るものです。当ラボは、COVID-19の終息に向け、これら一連の検査対応による事業活動を通じて社会貢献を目指していきます。

――本社を現在の千葉県松戸市に移した2001年に株式を上場後、装置・試薬・消耗品の一貫製造体制を築かれるまでには、公募増資で得た資金も活用されたと聞きます。今後も株式市場と共に、医療界への貢献を続けていくことになりそうですね。

田島社長 はい。1985年に臨床検査機器のメンテナンス会社として20人ほどで始めた会社が、1995年のマグトレーションの発明を機に、技術開発型の企業となり、一貫生産のメーカーとなった現在では、社員数も創業時の10倍になりました。

この間に私たちは、遺伝子のほか生化学・免疫という臨床検査の3分野で研究を重ね、「自社の強みを発揮できる、最先端の領域に本格的な製品を送り出す」点について、一切妥協しない姿勢で取り組んできました。世界的な大手医療機器メーカーへのOEMで実績を積み、さらに自社製品も含めた量産体制も動き出したことで、ここへ来てようやく、先行投資の”刈り取り”ができるようになりつつあります。

超早期診断という当初からのビジョンをかなえるため、また約2万人にのぼる株主の方々をはじめとしたステークホルダー及び全世界を視野に入れた社会からの期待に応えるためにも、早期発見が課題となっている膵臓がんやアルツハイマー病などに有効な試薬を、一日も早く実用化したい。簡単・確実な検査を実現する自動化システム一式を、当社オリジナルのソリューションとして提供することが、トップとしての私の責務だと考えています。

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