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【香川県】世界中の建設現場、エネルギープラント、あらゆる「ゲンバ」で活躍! 地域を支え、文化財修復にも貢献するクレーンメーカー

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※この記事はJPX「新市場区分特設サイト」上で2022年2月9日に掲載した記事の再掲載です。

株式会社タダノ
経営企画部 部長 齋藤郁

世界中の建設現場、エネルギープラント
あらゆる「ゲンバ」で活躍!
地域を支え、文化財修復にも貢献するクレーンメーカー
―香川県― 株式会社タダノ

創業は1919年。1955年に日本初の油圧式トラッククレーンを開発して以来、建設用クレーン、高所作業車などの製品を世に送り出してきた株式会社タダノ。「世の中のお役に立つものを創りたい」という創業者の想いを連綿と受け継ぎ、活躍の場も世界へと拡げてきました。売上高比率は海外が50%で、まだまだ需要が伸びている成長産業だそうです。経営企画部 部長の齋藤郁さんにお話しを伺いました。

最高の製品品質、安心のサービスを提供

――「吊り上げること」に特化した製品を製造・販売されているのですね。

齋藤部長 1955年に日本初の油圧式トラッククレーンを開発して以来、重力に逆らって重いものを吊り上げる建設用クレーンや車両搭載型クレーン、高所作業車などを製造してきました。

油圧式トラッククレーンを製造後、建設用クレーンのラフテレーンクレーンを1970年に、それよりも複雑で高機能、なおかつ吊り上げ能力も高いオールテレーンクレーンを1992年に発売しました。

世界各地域の法律や歴史で主力となるクレーンは異なり、日本においては小回りが効いて公道走行可能なラフテレーンクレーンが中心ですが、欧州では高速移動可能なオールテレーンクレーンが中心です。ドイツではかなり大きなクレーンがアウトバーンを高速で走行していますよ。

――アウトバーンといえば、ドイツのクレーン事業を買収されたそうですね。

齋藤部長 2019年にドイツの Demagクレーン事業を買収し、クローラクレーンをラインナップに加えました。当社が保有するクローラクレーンは最大吊上げ荷重3,200トンと世界最大級なので、大型建設や風力発電などの現場で活躍しています。

――売上高比率は海外が50%を占めるそうですが、シェアはどのくらいなのですか。

齋藤部長 国内の建設用クレーンメーカーは実質2社で、国内シェアは50%とほぼ互角です。当社は1960年のインドネシアへの輸出から始まり、いち早く海外に進出しており、ラフテレーンクレーンですと北米でのシェアは50%近くに達しています。

――海外でも選ばれる御社の製品の強みは何でしょうか。

齋藤部長 当社製品が選ばれる理由は、クレーン本来の吊り上げ能力や操作が高性能であることはもちろん、厳しい環境の現場でも故障しにくい製品の品質にあると考えています。

クレーンが使用される現場の環境は非常に過酷で、カナダで気温が氷点下40度まで下がるような場所もあれば、中東では50度を超えるところもありますが、石油生産プラントなどで故障すれば操業停止になり多額の損失が生じます。したがって、信頼のおけるクレーンが選ばれる傾向にあります。当社はお客様のおかれている厳しい現場環境においても、故障しない製品を製造できる技術力を、よきライバル会社と切磋琢磨し、高めてきました。その結果、海外で「タダノの製品は壊れにくい」という口コミが拡がり、エネルギー分野の多くの現場で利用いただけるようになりました。

それに加え、万が一、故障したときにも部品を持って駆けつけるサービス力も評価されているのだと思います。常にベストな状態で使っていただけるように、他社に先駆けて建設用クレーンに「テレマティクス装置」を標準搭載しました。これは、GPSや、その時のクレーンの状態を発信するシステムで、対象のクレーンが今どこでどのような状態かがわかるほか、部品の定期交換や消耗などによる交換すべき部品の情報、故障時の情報を、当社でも共有できるようになっています。

――御社の製品は何か国で使われているのでしょうか。

齋藤部長 建設用クレーンだと、直接販売しているのは35〜40か国です。中古製品が流通している国も含めると、その倍以上にはなるはずです。クレーンの寿命は30年と建設機械の中では長く、特に、当社製品は壊れにくいため、二次、三次と転売された中古製品が数多く使われていますので、保守部品もきちんと供給し、リセールバリューの維持・向上にも取り組んでいます。

また、中古製品を使っていただいている国・地域に早い時期に拠点を設け、各国語のマニュアルを用意し、現地のサービス担当の教育も行っています。ブランド力のアップとファン作りの種まきをして、経済力が高まったときには当社の新製品を購入いただければと期待しています。

グローバル経営基盤の強化とDX推進

――今後のグローバル展開についてどうお考えでしょうか。

齋藤部長 クレーンは、人口が増加している国で需要が伸びると認識しており、世界人口が増えていることを考えれば、当社の製品の活躍の場は広がる、まだまだ成長産業だと言えます。東南アジアには早くから進出し、販売・サポートに力を入れてきましたし、インドには現地のメーカーとクレーンの製造・販売の合弁企業を2019年に設立しました。長期目標に海外売上高比率80%を掲げていますので、積極的に海外展開を続け、経営基盤を強化していきます。

また、世界で脱炭素の流れが急速に強まる中、クリーンエネルギーとして注目されているのが洋上風力発電です。発電装置は港湾であらかじめ組み立ててから、海上の設置現場へ運ばれるのですが、作業船に積み込む際にクローラクレーンが不可欠です。海外はもちろん、国土の狭い日本でもこれから設置が進みますので、当社の製品の活躍の場が増えるはずです。

――先ほどテレマティクス搭載の話がありましたが、他にも新技術を開発されているのですか。

齋藤部長 建設業界では、クレーンを自由自在に操作できる熟練オペレーターが減少しているという課題があります。これを解決するため、AIやIoTなどの技術革新によってクレーンの操作をより簡略化し、安全性も高める試みを行っています。現在、京都大学をはじめとして多くの大学と共同研究を行っているほか、ゼネコン各社と建設現場の自動化などに関する共同研究を進めている最中で、将来的には、自動運転を可能にする製品を世に送り出せると考えています。

2021年9月に、初めての試みである「AIアルゴリズムコンペ」を開催し、クレーン旋回時に吊り下げた荷物がブレることなくピタリと停止するような制御のアイデアを一般公募したところ、社内では得られなかったAI制御技術の応募がありました。クレーン操作の「自動化」を実現するためのすばらしい技術です。

地元の企業や人と調和しながら、ともに豊かに

――北海道で創業されて、1948年に香川県にてタダノの前身である(株)多田野鉄工所を創立されたのですね。

齋藤部長 香川県は創業者の多田野益雄の故郷で、ここで世界に向けたものづくりをしていることに強いこだわりを持っています。海外向けの製品は船で出荷するので、香川県内の工場の多くは海に面していますから、その瀬戸内海の豊かさを守ろうと「ビーチクリーン活動」を行っています。多くの社員が参加し、海岸のごみの量や種類、どういったルートをたどって海ごみとなっているのかなどを考える機会でもあります。

香川県の「フォレストマッチング推進事業」も環境保全のための取り組みです。当社工場のあるさぬき市の保有林の一部を「タダノまなびの森」として使わせていただき、森林の大切さを学びながら、社員や家族が地元の方々と交流する場にもなっています。

さらに、香川県をホームタウンとする日本プロサッカークラブ「カマタマーレ讃岐」や「瀬戸内国際芸術祭」「高松国際ピアノコンクール」のサポートもしています。地域ともに発展し、地域全体で豊かになっていくことも我々の責任だと感じています。

――文化財の保護にも取り組んでいるそうですね。

齋藤部長 テレビのクイズ番組で、「倒れたモアイ像を、クレーンで起こしてあげたらいいのに」という出演者の言葉を聞いた社員が社長に提案したことをきっかけに、1992年、「モアイ修復プロジェクト」をたちあげました。風化しているモアイ像はとても壊れやすく、その道のエキスパートと国内で何度も練習を重ね、現地に入りました。大きなクレーンをチリ・イースター島へ運ぶことも、島の中で移動することも大変で、チリの海軍にも協力していただき、1995年、プロジェクトが完了しました。クレーンは島のインフラ整備にも利用され、現在は3台目のクレーンが現地で活躍しています。

2007年には奈良県の「高松塚古墳石室解体」の技術支援をし、2018年に「ものづくり日本大賞」の経済産業大臣特別賞を受賞しています。他にも、長年放置され、石積みが崩落するなど危機的な状況だったアンコール・トム遺跡西トップ寺院の修復作業に役立ててもらうためなどに製品を寄贈しています。新しいものを作るだけでなく、大切な文化を守るための役にも立てていることは喜ばしく思います。

過去の教訓から得た「ご安全に」

――御社が大切にされている事業のコアバリューについて教えてください。

齋藤部長 コアバリューは、私たちにとって絶対譲れない価値観を示しており、最も優先すべきことに「安全」があります。当社の100年を超える歴史の中で、忘れてはいけないこととして、社員全員が共有している3つのことがあります。1つ目は、バブル崩壊後の1998年から2002年にかけて行った人員整理、2つ目は、2004年のリコール問題、3つ目は、過去4件発生した労災死亡事故です。

これを記憶にとどめ、「建設機械は公道を走らせていただいている」のだということを常に意識し、安心で安全な製品やサービスを提供し続ける責任を認識するようにしています。2010年から始めた、「ご安全に活動」もその一環です。社内では「おはようございます」や「こんにちは」の代わりに、私たちは「ご安全に」と挨拶を交わします。

海外企業の買収により増えた製品のブランドを、2021年10月に「Tadano」に統一、ラインアップを整理しカラーリングなども統一しました。製品だけでなく、世界の各拠点で社員の価値観を共有していく取り組みもしていますので、海外拠点が顔を合わせる世界会議では、外国人の社員の方のぎこちない「Go-Anzen-Ni」という挨拶も飛び交います。「One Tadano」というコンセプトのもと、世界を股にかけ活躍する社員と心を合わせ、「Lifting Equipment」の領域で世界No.1を目指しています。

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