東証市場再編

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【福島県】「グラスファイバー」「メディカル」「繊維」の3本柱で、時代の先端を行く100年企業

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※この記事はJPX「新市場区分特設サイト」上で2022年2月22日に掲載した記事の再掲載です。

日東紡績株式会社
取締役代表執行役社長 辻󠄀裕一

「グラスファイバー」
「メディカル」「繊維」の3本柱で、
時代の先端を行く100年企業
―福島県― 日東紡績株式会社

2023年4月に創立100周年を迎える日東紡は、売上の8割を占める「グラスファイバー事業」、メディカルを中心とした「ライフサイエンス事業」、祖業である「繊維事業」の3つを柱に事業を展開しています。2020年春には、福島県郡山市に3つの事業分野の研究者が一堂に会す新研究棟「NI-CoLabo」を竣工。社内各事業の研究開発部門を1カ所に集約し、グループ全体で研究開発を進めるための体制を整えました。2016年に取締役代表執行役社長に就任した辻󠄀裕一さんに、就任当時の3つの公約の進捗、長期ビジョン『Big VISION 2030』の中で掲げる「グローバル・ニッチ No.1」や実現に向けた戦略についてうかがいました。

チャレンジ精神旺盛な社風が事業多角化の原動力

――「グラスファイバー」「ライフサイエンス」「繊維」と多岐にわたる事業内容についてお聞かせください。

辻󠄀社長 日東紡グループの売上の8割を占める主力事業として、グラスファイバー事業があります。世界最細レベルのグラスファイバーを生産しており、グループ内で糸からガラスクロスの最終製品まで、一貫した生産体制を構築しています。

我々のグラスファイバーの強みは、独自の技術で最先端の電子材料分野に注力しているところです。5Gなど高速大容量通信に求められ、半導体パッケージ基板の材料としても注目を浴びている特殊組成のスペシャルガラスなどで高いシェアを有しており、成長の原動力となっています。

2番目に大きい事業はライフサイエンス分野で、体外診断薬の製造販売が大きな割合を占めています。アメリカに原料工場があり、原料から製品までの一貫したバリューチェーンを有しているところが特長です。

ウエイトは小さくなっていますが、祖業は繊維事業です。現在は、芯地※をメインに製造しています。また、暮らしの手帖社と共同開発をした「日東紡の新しいふきん®」の販売が好評です。
※芯地 衣服等繊維製品の表地と裏地の間に使用される副資材

――多岐にわたる事業分野には、何か狙いがあるのでしょうか。

辻󠄀社長 最近になって多角化をしたというわけではなく、創業当初からかなりチャレンジ精神旺盛な社風がありました。当社1923年に創立された弊社は、もともとは絹紡績の繊維がメインでしたが、「なんでも繊維にしてみよう」という考えのもと、「ガラスの糸をつくろう」「岩石から糸をつくろう」など、早い時期から様々な取り組みを行っていたようです。

特に二代目社長の片倉三平が、1938年に日本で初めてグラスファイバーを工業化し、同年にこちらも日本で初めてのロックウールの製造も開始いたしました。多角化を狙ったわけではなく、時代の変化に応じてニーズが変わる中で、その都度新たなニーズに応えていくこと。これが、我々の事業が多角化した原動力だと考えています。

80年前に始めたグラスファイバーが基幹事業に

――グラスファイバー工業化の成功は創業間もなくだったのですね。

辻󠄀社長 グラスファイバーの工業化については、ほぼ同時期にアメリカの企業も成功しているようです。したがって、日東紡は、世界で最も早い時期に独自の工業化に成功したと言えると考えています。アメリカに派遣した社員が持ち帰ったグラスファイバーのサンプル品を見て、片倉三平が「これは将来、絶縁材や保温材、断熱材に活用できる可能性がある」と、グラスファイバーの研究を決断したということです。

当時、売上は絹紡績がほとんどでしたが、80年経った今、まさにこれが逆転しています。時代の先を読み、早い段階で新規事業としたことが、日東紡グループの現在を支えています。

――ライフサイエンス事業は、どのようにして始まったのですか。

辻󠄀社長 グラスファイバーの工業化に成功した後、1952年には、化学繊維の研究をするための化繊研究所を社内につくりました。この研究所が、ライフサイエンス事業のゆりかごになりました。その後、ライフサイエンス事業は、アメリカで非常に小さな規模の会社をM&Aし、アメリカで原料である抗血清を製造してそれを日本で体外診断薬にするというビジネスモデルが出来上がりました。当時の経営陣が、グローバルにビジネスを拡大していこうとした志に感銘を受けます。

――環境分野を中心に、地域貢献活動にも注力されています。

辻󠄀社長 当社はガラス溶融炉を持つメーカーですので、地域における環境配慮が重要です。日頃から地域住民の方とコミュニケーションを密にして、安心して日東紡グループの事業活動を支えていただきたいという思いで、地域住民の方を交えた環境モニター委員会を行っています。この取り組みは50年以上継続しており、地域住民の皆様に、我々の環境保全の取り組みをよく理解していただく非常によい機会になっていると考えています。

福島工場と富久山事業センターでは、子ども科学教室を開催しています。小中学生に環境問題や科学への関心を持ってもらいたいという思いから、それぞれの事業所が自発的に始めたものです。

ハイエンドに特化した商品でグローバル展開

――長期ビジョンとして掲げている『Big VISION 2030』の中の「グローバル・ニッチ No.1」について教えてください。

辻󠄀社長 日東紡グループは、グローバルの中で見るとグラスファイバーメーカーの規模としては、極めて小さな会社です。しかし、独自の技術を活用して、ニッチな分野で注目を浴びています。

ニッチだけれども、ほかにはできないハイエンドな部分に特化した独自の技術を我々の強みとして、グローバル展開に向けてはさらに磨いていこうと考えています。「グローバル・ニッチ No.1」という言葉には、「高感度No.1企業」、「高付加価値商品No.1企業」という意味も込めています。

――『Big VISION 2030』実現に向けての具体的な戦略を教えてください。

辻󠄀社長 2021年度から始まった中期経営計画の中で4つの重点施策を挙げています。1つ目が「成長戦略の実践」として、高付加価値商品でさらなる事業成長を実現していきます。2つ目が「経営基盤の強化」で、筋肉質の事業体へ進化し、レジリエンシーを確保していきます。

3つ目が「環境課題への取り組みの強化」、4つ目が「変革を起こす人財の育成」です。今回の『Big VISION 2030』の実現に向けては、特にこの「環境」と「人財」に力を入れていきたいと考えています。

「環境」については、もともと重油を燃料としていたグラスファイバーの溶融炉を2000年代に入ってから、100%LNGで稼働するものに切り替えてきました。さらに最近では、LNGを使う炉から電気を使う炉に切り替えを始めています。CO2削減は環境問題の中の一番大きな課題だと認識し、日本政府が掲げている2030年の46%減、2050年のカーボンニュートラルに向けて、具体的なロードマップを作り、TCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)賛同も含めて、課題への取り組みについて2022年6月の開示に向けて進めているところです。

「人財」については、現在5%程度の女性管理職を、先々は30%を目指して増やしていきたいと考えています。

企業価値向上に向け「3つの約束」を推進

――さらなる企業価値向上に向けて、事業面や経営面でより力を入れていきたい事項について教えてください。

辻󠄀社長 私は2016年に社長になるにあたって、取締役会に3つのことを約束しました。1つ目が「社内外に風通しの良い日東紡グループを目指す」ということです。社会と共生する企業として、社外、社内、すべてのステークホルダーに対して透明性の高い情報発信をしていきたいということを掲げました。我々の目指していること、活動している実績の開示を厚くするため、IRや広報を担う専門部署としてコーポレート・コミュニケーション部を新設し、積極的に対応しています。統合報告書も、はじめから英語対応を行い、グローバルな投資家を含むあらゆるステークホルダーやマーケットと真正面から向き合っていくことを約束しました。

2つ目は、「研究開発、技術開発なくして日東紡の発展はない」。中長期的な視点で研究開発をしっかり進めていくために、まずは研究開発の人員の充実、拡大に取り組んできました。私が社長になる前に研究所全体で70名程度だった人員は、130名程度まで増強されています。また、福島県郡山市の富久山事業センターに、2020年春、我々の研究活動のランドマークとなる新研究棟「NI-CoLabo」を竣工しました。日東紡グループの研究開発には、冒頭に申し上げたとおり大きく3つの事業分野がありますが、この3つの事業分野の研究者を集め、それぞれの事業分野の事業戦略に沿った研究開発をすると同時に、コラボレーションで生み出す新規事業を意図し、グループ全体での研究開発を進めるための体制を整えました。

3つ目は、「コーポレート・ガバナンスの構築と不断の見直し」です。日東紡グループは、コーポレートガバナンス・コードが制定された2015年の前年に指名委員会等設置会社に移行しており、取締役会のガバナンスの強化を進めてきました。2020年6月の株主総会では、社外取締役の構成が大きく変わり、企業経営者等に加わっていただくことで、取締役会での議論の幅はそれまで以上に広がったと感じています。

改めて、企業価値向上に向けて力を入れていきたい事項は、私が社長になったときに公約した3点を、しっかりとこれからも進めていくということ。これが、我々の持続的な成長と企業価値の向上に資するものと考えています。

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