東証市場再編

全国上場会社の旅

【鹿児島県】橋梁の建設・補修で暮らしを支える プレストレスト・コンクリートの専門会社

TAGS.

※この記事はJPX「新市場区分特設サイト」上で2022年3月9日に掲載した記事の再掲載です。

コーアツ工業株式会社
代表取締役社長 出口稔

橋梁の建設・補修で暮らしを支える
プレストレスト・コンクリートの専門会社
―鹿児島県― コーアツ工業株式会社

「プレストレスト・コンクリート(PC)」ということばを知っていますか? 強度と耐久性に優れ、橋梁や燃料タンク、各種建築物など高い安全性が求められる構造物で広く使われています。しかし、製造には特殊な技術が必要で、PC工事を専門でおこなう会社は全国でも限られています。その1社であるコーアツ工業株式会社の代表取締役社長の出口稔さんに、仕事にかける熱い思いを伺いました。

PCは、コンクリートの弱点を克服したコンクリート

――プレストレスト・コンクリートという技術に着目した経緯を教えてください。

出口社長 当社は1959年に鹿児島県薩摩川内市の建設会社からコンクリート製品の製造工場を譲り受ける形で誕生しました。当時は主にブロックなどのコンクリート製品を作っていたそうですが、その頃PC技術を用いた橋梁が鹿児島県内でも施工され始め、当時の創業者はPC橋梁の施工が今後はもっと増えるだろうと考え、PC工事事業に参入したと聞いています。それ以来、地域のみなさんがより便利に暮らすため、橋梁の施工を中心に鹿児島のPC専門会社として歩んできました。

――PCとは、どのような技術なのか教えてください。

出口社長 PCは「Prestressed Concrete」の略で、Pre(あらかじめ)Stress(応力)が与えられたコンクリートという意味です。

コンクリートには、「圧縮には強いが、引張には弱い」という性質があります。コンクリートに大きな荷重がかかると、外側がたわんで引張力が発生し、それによってコンクリートにひび割れが発生します。鉄筋コンクリート構造は、引張力に強い鉄筋を埋め込むことでこれを改良したものですが、完全にひび割れを防ぐことはできませんし、一度、ひび割れができるとコンクリート内部に水が侵入し、コンクリートの劣化や鉄筋腐食の発生につながります。

そこで、引張力に対して応力がある、つまりひび割れないコンクリートとして開発されたのがPCです。PCはコンクリートの内部にピアノ線のようなPC鋼材(緊張材)を仕込んで、この緊張材にあらかじめ応力を与えることで、より大きな荷重を受けても応力を与えた分だけ引張力に抵抗し、強度が発揮される構造です。PC技術を使う構造物は数多くありますが、その代表的なものは、日々、大型トラックなどが行き来するPC橋梁です。


――「プレストレスト・コンクリート」ということばは初めて聞きましたが、現代の生活に欠かせない技術なんですね。PC技術を使う会社はたくさんあるのでしょうか。

出口社長 いいえ。PCは特殊な技術ですので、深い専門性と高い技術力が必要になります。日本で最初にPC技術を使った橋梁がつくられたのは約70年前になります。当社は60年以上にわたり、鹿児島県においてPC橋梁工事の企業として成長してきました。また、九州だけでなく、全国各地で多くの施工を行ってきました。PC工事を専門に施工する会社は、鹿児島県内では当社しかありません。また、PC建設業協会の正会員も全国で33社、九州では当社を含めて3社だけです。

橋梁以外にも、水密性も優れているPCの特徴を生かして貯水タンクや燃料タンクなども施工しています。また、現場での施工だけでなく、鹿児島と熊本にある2つの工場では、プレテンション桁と呼ばれる長さの短い橋桁や、プレキャストPC床版なども製造しております。プレキャストPC床版は主に既設橋梁の更新工事での需要が増えてきています。また、最近は建物の柱や梁などの主要部材にもPC技術が多く使われるようになっており、この分野への本格的な参入を進めています。

――高速道路の補修やリニューアルなどもされているのですか。

出口社長 営業拠点を九州・関東・関西の各エリアに置き、橋梁の新設だけではなく経年劣化に伴う高速道路などのインフラ構造物の更新・補修工事や、近年多発する自然災害からの復旧・復興工事も行っています。

PC技術を用いた橋梁等の施工以外には、さまざまなコンクリート製品、例えばコンクリート擁壁、環境ブロック、消波ブロックなどの製造・販売や、マンションなど大型建築物の基礎杭打ち工事などの事業を行っています。また、遊休資産の有効活用と、当社の基本理念である「うるおいある環境づくりで社会に貢献する」を推進するために、鹿児島県に2か所と千葉県1か所に太陽光発電所を設置し、売電事業も行っています。

誇りを感じた橋の建設

――印象に残っている工事があれば教えてください。

出口社長 2020年8月に開通した「甑(こしき)大橋」ですね。薩摩半島の西方約30キロにあり、上甑島・中甑島・下甑島の3つの島からなる鹿児島県薩摩川内市の甑島は、人口が3島合わせて5千人弱の離島です。上甑島と中甑島は橋でつながっていましたが、下甑島とを結ぶ橋はありませんでしたので、甑大橋が開通するまで、島を行き来するにはフェリーか高速船を利用するしかなく、島民の方は不便な生活をされていました。

その中甑島と下甑島との間に、約10年という長い年月をかけて建設されたのが甑大橋です。1,533メートルと鹿児島県で最も長い橋で、当社も長年にわたり橋の建設に携わりました。甑大橋の開通は、鹿児島県内だけでなく全国でも大きく報じられました。

――10年もかかったんですか! 住民の方は開通を心待ちにしていたでしょうね。

出口社長 甑大橋の開通によって3つの島がつながったことで、島民の生活は一気に便利になりました。わたしたちは色々な場所で橋を施工しますが、このように橋が架かることで、住民の生活が一変するような橋の建設に携わると感慨深いものがあります。

甑島には、社員が寝泊まりできる宿泊施設がありませんでしたから、まずは宿舎をつくるところから始まり、そこで全員が寝食をともにして現場に通い施工を行いました。夏は台風もありますし、冬場は風が強く、工事がうまく進められないことも多く、現場に従事した社員にはさまざまな苦労があったと思います。ですが、住民の方々の利便性の向上や地域活性化のために会社として貢献できたこと、また海上施工というスケールの大きなプロジェクトに携われたことに、誇りとやりがいを感じることができました。

甑島の観光を気軽に楽しめる環境も整いましたから、いまや鹿児島県でも大注目の観光地です。多くの方に足を運んでいただきたいと思います。

地域の生活を守り、活性化の一翼を担う

――地域の方を招いての工事現場の見学会について伺えますか。

出口社長 橋梁工事の施工中は大型の工事車両が頻繁に走行したり、工事事務所の設置や工事機材の保管のために近隣の方に土地をお借りしたりと、長期にわたりご不便をおかけしますので、地域のみなさんのご理解、ご協力なくしては工事を行うことはできません。地域住民向けの工事説明会はもちろんですが、地域の小学校や中学校の生徒さん、保護者のみなさんなどを招いての現場の見学会を開催することもあります。

これまでの現場見学会で好評だったのは、橋面への「お絵かきイベント」です。橋の表面は最後にはアスファルトなどで覆われてしまいますが、その前に地域の小学生をお招きして橋面に絵を描いてもらうのです。普段立ち入ることのできない工事現場でお絵描きをしたことを思い出して、橋に愛着を持ってもらえると嬉しいです。

残念ながら、現在はコロナ禍の影響により実施できておりませんが、このようなイベントを通じて建設業が地域の生活を守り、活性化に役立っていることを知ってもらえたらとも願っています。大きな工事になればなるほどやりがいを感じられる仕事ですから、子供たちが「将来は橋をつくりたい!」と、この仕事に興味をもってくれればいいですね。

――鹿児島市電の枕木に、御社の製品が使われているそうですね。

出口社長 鹿児島市内を走る市電の枕木に、PC技術による長寿命「PC枕木」が使われています。ヒートアイランド現象の緩和や都市景観の向上を図るため、軌道敷には芝が植えられているので枕木は見えませんが、長い年月にわたって安心・安全に使っていただけます。

ほかにも地域にお住まいの方々の生活を支えている取り組みとして、自治体と協定を結び、災害時の復興に協力しています。2016年4月の熊本地震発生後には、自治体へブルーシート等を寄付し、橋の安全点検も行いました。また、毎月、本社周辺の清掃ボランティア活動を行っています。

――今後は、どのような事業展開をお考えなのでしょうか。

出口社長 日本は地震が多く、近年は数十年に一度と言われるような水害も多発しています。大きな構造物を支えることができるPC技術を活用して、これからも地元鹿児島を大事にしながら、求められる場所があれば九州のみならず、全国一円、また海外にも活躍の場を増やしていきたいと考えています。

また、これまで橋梁で培ってきたPC技術で、今後は建築プレキャスト部材の製造にも積極的に取り組んでいきたいと考えています。今後も、研究開発・技術開発に力を注ぎ、技術者のレベルアップや技能者の人材育成、工場設備の充実化を図りながら、地域住民の安心・安全な生活の確保を目指していきます。投資家のみなさまには、PC技術において高い技術を持つ「コーアツ工業」という会社が鹿児島にあることを知っていただけると嬉しいです。

用語解説

"※必須" indicates required fields

設問1※必須
現在、株式等(投信、ETF、REIT等も含む)に投資経験はありますか?
設問2※必須
この記事は参考になりましたか?
記事のご感想や今後読みたい記事のご要望などをお寄せください。
(200文字以内)

This site is protected by reCAPTCHA and the GooglePrivacy Policy and Terms of Service apply.

注目キーワード