2022年7月号「投資環境レポート」
変調する米国の住宅市場
提供元:野村アセットマネジメント
野村アセットマネジメントでは、毎月、世界経済や金融市場の注目点を投資環境レポートとしてお届けしています。
7月の投資の視点は、「変調する米国の住宅市場」です。
<注目点>
●住宅ローン金利の上昇が需要の軟化に繋がり、住宅販売件数の減少が続いている。もっとも、住宅供給が抑制されていることから、販売市場の需給は逼迫したままであり、住宅価格への上昇圧力となっている。今後、住宅ローン金利は更に上昇して需要を下押しするだろうが、販売市場の需給逼迫は解消せず、住宅価格の大幅下落は回避されるとみられる。
●賃貸市場では家賃の伸びが加速を続け、現下の高インフレに寄与している。幅広い所得層の雇用・賃金の改善に加え、「郊外化」の巻き戻しも影響した模様である。持家との対比で賃貸物件は割安であり、短期的には、家賃には相応の上振れ余地があると思われる。住宅面からのインフレ圧力は燻り続けそうだ。
コロナ禍で好調が続いた販売市場
米国の住宅販売の大部分を占める中古市場において、中古住宅販売件数は2020年3月から5月に急減した(図2参照)。コロナ感染拡大を防止するための諸制限(いわゆるロックダウン)により、契約手続きが出来なかったことなどが背景にあった。しかし、ロックダウン解除が進み出した6月には、それまでの反動から中古住宅販売件数は急回復に転じ、7月には早々とコロナ禍前の水準を上回った。その後、中古住宅販売件数は、一時的に減少する局面もあったが、2022年1月にかけて増加傾向となった。
ブームと呼べるほど住宅販売が好調だった理由は2つある。第1に、堅調な雇用・所得環境だ。コロナ禍当初、米国景気が急激に悪化した状況でも、販売市場の中心となる高所得層の雇用・所得は大きく崩れなかった。これは、彼らの多くが、ロックダウンの影響を受けにくい業種・職種(リモートワークに移行しやすい業種・職種)で働いていたためである。その後、米国景気が回復を続けるのに伴い、高所得層以外でも雇用・所得の改善が進み、住宅需要の更なる増加に繋がったと考えられる。
第2に、金利低下による住宅ローン返済負担の減少である。米連邦準備制度理事会(FRB)が2020年3月に大幅利下げを決めたことで、コロナ禍直前に約3.5%だったローン金利(30年物固定)は、同年12月に過去最低となる2.6%台に低下した(図3参照)。当社の試算では、これにより毎月のローン元利返済額は100米ドル以上も軽減されることとなり、住宅需要への追い風になったとみられる。
一方、住宅供給の持ち直しは遅れた。コロナ禍では売却希望物件が落ち込んだが、その一因は、感染懸念ゆえ、内見ひいては売却に慎重となる住宅保有者(潜在的な売り手)が増えたからと推察される。また、建築資材や建設業労働者の不足が深刻化し、中古住宅の売却前の修繕が出来なかったり、新築住宅を十分に建てられなかったりした。これらの結果、中古住宅の在庫件数は減少傾向となった。強い需要と弱い供給によって販売市場の需給は逼迫し、住宅価格の大幅上昇に繋がった。
金利上昇で販売減。しかし価格は上昇
2022年に販売市場は変調した。中古住宅販売件数は、2月に減少に転じ、5月にはコロナ禍前の水準を割り込んだ。5月の住宅ローン金利は5%台とボトムから3%ポイント近く上昇し、これで毎月のローン元利返済額は400米ドル以上も増えたと試算され、需要を下押ししたとみられる。
もっとも、住宅販売の減少が住宅価格の下落に繋がっているわけではない。4月のS&Pコアロジック・ケース・シラー住宅価格指数は前月比+1.5%(前年比+20.4%)と伸びは高い(図1参照)。価格上昇の勢いが強いままなのは、在庫不足が続いているからだ。中古住宅の在庫月数(在庫件数が販売の何ヵ月分に相当するかを示す指標)は2ヵ月程度と、過去最低水準にとどまっている。住宅需要が軟化しても、住宅供給が不足した中、販売市場の需給は逼迫したままであり、引き続き価格上昇圧力となっているようだ。
FRBが利上げを継続する公算が大きい中、住宅ローン金利は上昇を続け、住宅需要を下押しすると思われる。一方、今後も住宅供給の改善ペースは緩やかと予想される。
まず、中古物件の供給については、売却希望が増えにくいと考えられる。中古住宅を売却する人は、自分の住み替え先を探す必要があるが、現下の在庫不足や価格高騰の状況ではそのハードルが高く、結果、彼らは売却に踏み切れないと思われるからだ。また、新築住宅の供給に関しては、部材や人手の不足が建設の重石になり続けると思われる。結果、販売市場の需給逼迫は、程度こそ緩和していくものの、住宅市況が大崩れするほどではないと予想される。住宅価格の伸び率は鈍化していくだろうが、大幅下落は回避されるとみられる。
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(提供元:野村アセットマネジメント)