市場関係者メッセージ
深みのある対話によって新時代を築こう
※この記事はJPX「新市場区分特設サイト」上で2022年2月28日に掲載した記事の再掲載です。
佐藤淑子
一般社団法人 日本IR協議会 専務理事
世界的なパンデミックや地政学リスクによって、事業環境が大きく変動しています。こうしたときこそ情報開示し、中長期視点で議論するIR活動が重要です。
実際、日本IR協議会が選定する「IR優良企業賞」に応募する企業数は300社近くにまで増えており、早期にリスクを認識し、取り組みを進める企業が高く評価されています。審査後の「IRカウンセリング」にも、148社(2022年2月時点)のお申し込みがあり、連日、活発なディスカッションが続けられています。
ただ新市場導入の目的のひとつでもある魅力ある企業を増やすには、IR活動の頻度やガバナンスの形を整えるだけでは十分とはいえません。企業と投資家の双方が「充実した!」と実感できる対話を広めることが必須であると思います。
コーポレートガバナンス・コードの導入や改訂を経て、企業は取り組みを進めてきました。ただ、目指す姿に近づく道のりは、企業によって異なります。投資家の視点を踏まえて適切に情報を開示しないと、対話の扉は開かれないように思います。
またIR活動で伝える領域は、財務から非財務、持続的な企業価値向上や社会への貢献・・・と、広範囲にわたってきています。企業グループ全体が「腹おち」して取り組み、トップとともに明確に意志を示す姿勢が望まれます。
投資家サイドも同様です。企業が「対話したい」と思う投資家はどのくらいいるのでしょうか。近年、アクティブ運用の割合が低下しているといわれますが、資本市場の役割のひとつは、企業の本源的な力を「見える化」するところにあると思います。
既存事業などの分析にとどまらず、将来にわたって価値を生む力を見極められる投資家は、市場にとっても貴重な存在です。企業は情報開示によって投資家の懸念を小さくし、投資家は大局的な見地から経営トップの「気づき」を引き出す-新市場では、そんな対話が期待されます。
さらに対話でテーマとなったことに対する評価と支援が得られれば、関係者のモチベーションや実効性も高まるでしょう。例えば「パーパス」や「ビジョン」に基づく経営戦略に、人事制度の改革などを組み込み、適切な評価によって実績をあげている企業もみられます。
投資家サイドにおいても、環境問題や社会課題を読み解く人材の育成や運用手法の開発が進んでいると感じます。「インベストメントチェーン」をまわしていくという意味で、こうした動きを支援する存在が重要であることはいうまでもありません。
企業と投資家、そしてステークホルダーの価値観は多様であるからこそ、その力を対話によって何倍にも高めることができると思います。当方も微力ながら情報開示に基づく対話を深め、企業価値向上と持続的な社会の実現に向けて活動していきたいと思っています。
佐藤淑子 一般社団法人 日本IR協議会 専務理事
【略歴】1985年慶応義塾大学経済学部卒業。同年日本経済新聞社に入社。2003年から日本IR協議会首席研究員。2007年事務局長、2015年から専務理事。企業や投資家との対話を講演や執筆に活かし、IR活動のレベルアップ、ひいては企業価値向上、資本市場の活性化に向けて活動を続けている。
【主な著書】『経営戦略とコーポレートファイナンス』(2013年、日本経済新聞出版社・共著)、『IRの成功戦略』(2015年、日本経済新聞出版)『企業・投資家・証券アナリスト企業価値向上のための対話』(2017年、日本経済新聞出版・共著)『バックキャスト思考とSDGs/ESG投資』(2019年、同文舘出版・共著)『サステナブル経営と資本市場』(2019年、日本経済新聞出版・共著)『コーポレートガバナンス・コードの実践 第3版』(2021年、日経BP・共著)など。
【公職・資格など】金融審議会公認会計士制度部会専門委員、日本公認会計士協会・倫理委員会有識者懇談会委員、日本投資者保護基金運営審議会委員、日本証券アナリスト協会副会長、同協会検定会員など。