東証市場再編

市場関係者メッセージ

ユーザーファーストの市場改革、そしてユーザーと市場の両輪の持続的成長で世界基準へ

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※この記事はJPX「新市場区分特設サイト」上で2022年3月31日に掲載した記事の再掲載です。

村上誠典
シニフィアン株式会社 共同代表

いよいよだ。2022年4月4日の東証の市場区分が変更になる。せっかくの機会なので、私なりに東京証券取引所について、また今後に対する期待について思うところを綴ってみたいと思います。

ユーザーファーストな市場改革

ゴールドマン・サックスを退職し、シニフィアンを創業してそろそろ5年になります。シニフィアン創業時の想いは色々とありますが、その中の一つにスタートアップエコシステムのグローバル競争力の獲得、というものがありました。持続可能な社会の実現、我々の未来をより良くするための第一歩として、日本から社会インフラ足り得る「新産業創出」が狙いですが、そのためにはスタートアップのエコシステム自体が競争力を持つべき、という風に考えています。

そういう想いがあったからか、シニフィアン創業以降、経済産業省、金融庁など政府や、また東京証券取引所の皆様とも度々議論を行う場を有難いことに頂戴していました。まだ具体的に市場区分の変更の議論が固まる前であるが、その際に流動性時価総額をはじめとした、さまざまな簡単についてご提案や議論を重ねてきましたから、今回の区分変更は「小さいが大きな一歩」として個人的にも感慨深いものがあります。

私の場合は、ゴールドマン・サックス時代の資本市場や企業経営の経験から、またシニフィアンにおける未上場またポストIPOスタートアップの成長の観点から、様々な課題を感じていました。そこで重要になるのは、エコシステムやインフラにとって「ユーザーは誰か」という、ユーザーファーストの視点だと思っています。

東証(というプラットフォーム)にとって欠かすことのできないステークホルダーは、投資家と企業です。企業が上場する意義はさまざまあるが、上場し投資家という新たなステークホルダーと対峙することで、経営の監督機能を強化したり、資金調達を行ったりすることができるのは大きな目的だと思います。だからこそ、投資家にとって投資しやすい環境を整えることは市場の役割であり、そうなるように企業(や経営)に対して仕組みを提供していくことが極めて大事になってきます。

ガバナンスやディスクロージャーも、その観点では極めて重要なテーマを構成しています。そして、流動性時価総額も、投資しやすい環境を整える一環と言えるのです。今回の区分変更の詳細を見ていくと、それらの意図が少し見えてくるように思います。そして今回、企業側のニーズの多様性も配慮して、新たに3つに区分し直し、企業側のニーズにも、そして投資家側のニーズにもより配慮した形の変更にしようとしている、と私は勝手ながらそのように理解しています。

市場は世界とつながる入り口

はっきりと申し上げておきたい点があります。それは、今回の市場区分は単なる金融関係者にとっての、テクニカルな変更にとどまってはいけないということです。今、日本でも金融教育の重要性が叫ばれ、国家、企業、個人レベルでどのように資産配分し、資産形成していくかが大変重要になってきています。足元も大変遺憾ではありますがウクライナの事件が起きています。それでも、いやだからこそ、日本は世界とのつながりを否定しては持続できないことを痛感しているはずです。

日本と世界には様々な接点がありますが、資本市場は最も重要な世界との接点の一つではないでしょうか。世界のマネーが流れ込む現場であり、企業が世界から監督される場であり、そして富を世界に還元・分配する場であるからです。世界とのつながりがより良質であればあるほど、それは日本の財産となり、成長の原資となっていきます。観光鎖国をしている今だからこそ、世界との接点が如何に重要か、金銭的なもの以上に価値があるかを理解できるのではないでしょうか。

海外からのインバウンド、つまり観光を一大産業にしようとしたように海外に対して日本のアセットの魅力を伝え、海外に大きなリターンをもたらし、そして海外から大きなマネーを取り込んでいく。観光業の重要性を理解するように、そしてそのアセットを魅力的にしようと努力し続けるように、そして環境産業のインフラをより整えていくように、そんなモチベーションで、資本市場という場をより良いものにしていくことが、日本全体の利益になると思います。

資本市場という競争がある

もう一つ別の視点を加えておきたいと思います。証券取引所にはグローバルな競争があるということです。日本でも以前、東証と大証が統合していますが、それより前から、世界中で証券取引所の合従連衡、そして競争が激化していました。つまり、証券取引所という場自体が、国に守られた規制業種という側面よりも、厳しい国際競争に中心にさらされているということです。

そして、その国際競争は分かりやすく残酷で、規模と質が如実に競争力の差となってきます。今回の、市場区分は東証の国際競争力の向上という観点でも考えていく必要があります。この歩みを止めることなく、グローバル競争力を有した市場を日本に生み出していくという視点を、関係するステークホルダーが意識して、皆で育てていくことが重要になってくると心から感じています。

エコシステムの競争力は、新産業創出力、そして国力を左右するものです。そのインフラの重要な一つに東証や資本市場があるわけです。だからこそ、この「場」を育て、競争力にあるものにすることは、日本自体をより良くすることに直接的につながっていくのだと思います。

結局「モノ」が大事

先ほど観光業に例えてお話しをしました。確かに仕組みやお金は極めて大事ではありますが、最も大事なのはそこにあるアセットです。観光業では、文化やサービスを含めた有形無形の全てのアセットが環境立国としての競争力を規定していきます。

それを東証、資本市場に置き換えれば、今回の市場区分の変更を通じて、より良い企業を生み出し、より良い投資家を生み出し、より良い人材が活躍できるようにしてくことが、最も大事になるのです。

私自身も当事者として、この課題を1丁目1番地と捉え、グローバル競争力を有するインフラに恥じることのない、アセットである優良企業をこれからどんどん生み出していく必要があると肝に銘じている次第です。

そして、日本からグローバルに通用するキャピタルスト、投資家を多数輩出し、金融インフラとしての日本の競争力を高めていきたいと思います。金融インフラが優れているから、日本で働きたい、日本で起業したい、そう思われるような国づくり、市場づくりが求められている時代だと思います。

環境「場」が人を育てる

良い人を育てるにも、良い企業を生み出すにも、実は重要なのはその環境です。鶏と卵ではあるのですが、東証という場が企業を育てる力を私は決して軽視していません。JPX400の際も、ROEという指標を導入し大きな変化をもたらしました。コーポレートガバナンスコードも然りです。

だからこそ、グローバルに目を向け、最も競争力のある企業を生み出すに足る、仕組みやルールを作り出し続ける必要があります。ルールとは、決して雁字搦めにすることを指すわけではりません。自由と制約のバランスをとりながら、いかに優秀な人材を生み出すかという成長するためのルールが求められます。

それは教育現場と同じではないでしょうか。金融インフラの中心である東証が、企業や投資家の教育現場として有効に機能できるかが問われています。

今回の区分変更はあくまでも、区部変更と一部ルールの変更です。教育現場と同じく、それをいかに有効に機能させることができるかがさらに重要になってきます。今回の市場区分をレバレッジしながら、より良い企業経営や、企業間の競争、投資家との対話の促進、そしてグローバルからの資金の呼び込み、また還元をよりスムーズに行っていけるか。これから企業運営や投資における執行の現場がさらに重要になってくるでしょう。

私自身も取締役や投資家として、経営の責任の一端を担う身として、現場からより良いプラクティスを生み出して、それを広げていくことの重要性を痛感しています。微力ではありますが、現場力を高め、それをスタンダートにし、ルール以上の状況を生み出しながら、常にグローバルのトップの運営ルールとアセットが存在する状況になれば、そこで働く我々にとって大きな誇りとなることでしょう。

今回の変更をただの一歩ではなく、大きな飛躍に繋げられるかが我々に問われていると思います。是非、皆で盛り上げていきましょう。

村上誠典 シニフィアン株式会社 共同代表
未来世代に引き継ぐ新産業創出を目指し、シニフィアン株式会社を共同創業。グロース・キャピタル「THE FUND」を設立し、国内スタートアップに投資。創業前は、ゴールドマン・サックス東京・ロンドンの投資銀行部門に長年勤務し、TMTカバレッジとM&Aグループを兼務。株式会社SHIFT社外取締役他、上場/未上場の成長企業に社外取締役、アドバイザー、投資家として関わる。

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