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【秋田県】地域に吹く風はエネルギーの宝庫。人づくりとファイナンスで好機を生かす

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※この記事はJPX「新市場区分特設サイト」上で2022年1月14日に掲載した記事の再掲載です。

株式会社秋田銀行
取締役頭取 新谷明弘

地域に吹く風はエネルギーの宝庫。
人づくりとファイナンスで好機を生かす
―秋田県― 株式会社秋田銀行

「あきたこまち」などの特産品や、多彩な伝統行事、また各界で活躍する著名人の出身地としても知られる秋田県。この地で創業から142年を数える株式会社秋田銀行は、地域の繁栄に貢献する金融機関として従来から力を入れてきた「人づくり」の取り組みを、事業の柱としても育てていくことを計画しています。いまの地域経済を取り巻く状況や、SDGs(持続可能な開発目標)の観点から見た秋田県の可能性、その中で実現を目指す新たなビジョンについて、取締役頭取の新谷 明弘さんに伺いました。

地元の発展に貢献する「利他の精神」

――野球やバスケットボールの強豪校があり、小中学生の学力テストは全国トップクラス。最近では首相の出身地でもあった秋田県は、各分野に秀でた方々の活躍が印象的です。

新谷頭取 はい。実は私たちも「人を育てること」に、長年力を入れてきました。

当行は地域とともに歩み、地域の発展とともに栄えるという「地域共栄」を経営理念に掲げています。この経営理念を実践する行動指針として3つの条文からなる「行訓」を定めていますが、その第一には「自らにきびしく 他には思いやりの深い すぐれた人間をつくること」とうたっています。最初に人づくり・人ありき、利他の精神を持つ人づくり を掲げる構成は特徴的であり、企業文化の礎となっていると言えます。

気候変動の問題をはじめ、地域を取り巻く環境はいま大きく変わろうとしていますが、変化に対応していく原動力は人に他ならず、人づくりが当行と地域を支える太い柱であることは、これからも変わることはないと考えています。

――創業から140年以上の歴史がある秋田銀行について、まず大まかな沿革をお聞かせいただけますか。

新谷頭取 当行のルーツをたどると、江戸時代から秋田藩を支えていた御用商人と士族が発起人となって1879(明治12)年に設立した「第四十八国立銀行」や、渋沢栄一が創設した第一国立銀行の秋田支店を地元名士が譲り受けて1896(明治29)年に設立した「旧秋田銀行」などに行き着きます。両行を含む3行の合併で、1941(昭和16)年に設立されたのが、現在の秋田銀行です。

私たちの歴史で特徴的なのは、当時の常識を覆し秋田県外への展開が早かった点です。旧秋田銀行は、昭和恐慌のさなかだった1931(昭和6)年、地元の政・財界からの要請に応じる形で福島県福島市と郡山市に支店を設けました。当時の経済環境や企業体力を踏まえるとチャレンジングな決断でしたが、両支店は地域にしっかりと根を下ろし、2021年に開設90周年を迎えました。これらの支店もあわせて福島県には現在5店舗を置いており、都道県別では本拠である秋田県(80店舗)に次ぐネットワークとなっています。

風力発電事業を通じて、新たな産業を育てる

――秋田県に本拠を置く金融機関の中では、現在唯一の上場企業でもあります。地域経済のいまの状況を、どうご覧になっていますか。

新谷頭取 全国最速のペースで進んでいる人口減少が、最大の課題だと考えています。

少子高齢化の影響で、秋田県では過去5年間、毎年1万人以上の自然減(死亡数と出生数の差)が生じています。加えて、素晴らしい学力を持つ若い人たちも進学や就職で地元を離れる例が少なくなく、社会減(転出数と転入数の差)が年間3,000人ほど生じています。

つまり秋田県からは「毎年1万5,000人近いペースで人が減り続けている」ということになります。現時点の人口が約94万人ですから、早く食い止めなければ経済への影響はもちろん、地域社会の存続にも関わります。

こうした課題の解決に向けて私たちは、地元企業へのさまざまな支援を通じ、県内の働く場所を増やすための取り組みを続けています。人口減少に歯止めをかけるという意味では、特に若い女性が県内で仕事を見つけて地元に留まれること、また一度県外に出た方たちをUターンで迎えられる、多様な職場を用意していくことが大切だと考えています。

――新たな職場として、どのような産業に期待されていますか。

新谷頭取 ものづくり産業の規模を示す「製造品出荷額等」で東北6県中の6位にとどまる秋田ですが、肉・魚介・青果などの特産品は豊富なので、それらを生かした食品加工の分野では、高付加価値型のものづくり産業を、まだまだ伸ばせると思います。手を加えない素材のままでも、優れた産品をブランド化して販売先を開拓していけば、生産者の事業拡大を通じた雇用創出が期待できるのですが、販路拡大やブランディングに十分なマンパワーを割けない生産者が多いのが現状です。

こうした課題の解決を目指して2021年4月に地域商社「詩の国秋田株式会社」を設立しました。銀行の本部機能としてお客さま向けのビジネスサポートセンターを設けている東京など、大規模マーケットに向けて県産品のプロモーションを進めています。台湾の金融大手である中國信託ホールディンググループの出資も受けており、日本一出荷時期が遅い「かづの北限の桃」を台湾のデパートで販売し好評を得るなど、海外販路の拡大でも成果が現れています。

「詩の国商店」と名付けたECサイトも立ち上げました。今後は、「秋田のブランド価値を高めるアイテムを100個つくる」といった目線でブランディング機能の強化に力を入れ、生産者の事業拡大と秋田ブランドの確立に向けた取り組みを一層推進していきます。

                                                                             

――SDGsの1項目であるクリーンエネルギー関連の動きも、県内で活発だそうですね。

新谷頭取 はい。年間を通して強い風が吹く日本海沿岸で、風力発電所の整備が進んでいます。

秋田県内の風力発電の能力合計は約65万キロワットで全国第1位の規模です。標準的な火力発電所のプラント1基分に相当するスケールで、クリーンなエネルギーが日々生み出されています。

こうした陸上風力発電事業においては、ファイナンスにとどまらず、当行と地元企業が共同出資して「株式会社A-WIND ENERGY」という事業会社を設立し、風車17基、合計約4万キロワットの発電所を運営しています。発電所の建設にあたっては、地元企業が工事に関するノウハウや知見を蓄積できるよう地元発注に徹底してこだわりました。

結果、工事のうち約半分は地元企業に担っていただくことができ、ノウハウや知見といった人にまつわる資産の蓄積を通じて、地域の「人づくり」に貢献できたと考えています。

今後は、海の上でも発電所の整備が本格化します。当行も出資する「秋田洋上風力発電株式会社」が近く、国内初となる商用洋上風力発電を始めるのを皮切りに、今後秋田県沖では、およそ1兆円規模の洋上風力発電プロジェクトが進められる見通しです。建設工事にあたっては、陸上風力発電所の建設でノウハウと知見を蓄えた地元企業にぜひ参入してほしいと期待しているところです。

また、完成後のメンテナンス事業が地場産業として根付き成長していくことはもちろん、発電所の余剰電力と海水で、二酸化炭素を出さずに水素燃料をつくる「グリーン水素」に関連した化学分野の産業集積などにも大いに期待するところです。

こうしたグリーン分野に引き続き積極的なファイナンスで関わるのはもちろん、地元の行政や大学、企業と連携しながら、産業を担う「人づくり」もお手伝いし、秋田県を「カーボンニュートラルの先進地」に育てていきたいと考えています。

人づくりへの取り組み、これまでとこれから

――ここまで何度か触れていただいた秋田銀行の「人づくり」について、もう少し詳しく伺えますか。

新谷頭取 まず、若い起業家を増やす取り組みとしては「〈あきぎん〉STARTUP Lab」と名付けたプラットフォームを設け、起業を志す方、事業を始めたばかりのスタートアップ、先輩起業家などメンター、行政や支援機関の担当者などをつなぐネットワークをつくっています。

ビジネスプランコンテストや創業に向けたワークショップなどもこのプラットフォームと組み合わせる形で実施しており、2019年度から現在まで、180件ほどの創業案件が生まれています。最近では、輸出向け清酒の醸造や、寒冷地でのワイン用ブドウ栽培・ワイナリーの事業化など、将来が楽しみな事業のお手伝いをさせてもらっています。

将来家業を継ぐ若手経営者向けには、研さんや異業種交流の場である「あきた未来塾」を2011年から設けています。約1年をかけて企業経営の基礎を学んでもらうとともに、各社の成長戦略をじっくりと練る機会にしてもらっています。現在では100名を超える卒業生との交流もカリキュラムに組み込み、次世代経営者のネットワークづくりの場としても活用してもらっています。塾生は応募も行っていますが、銀行として期待する企業に入塾のお声かけもしています。

全都道府県トップの高齢化率(人口に占める65歳以上の割合。秋田県は2021年7月現在38.5%)を踏まえ、年齢を重ねても活き活き活躍する「長活(ながい)き」という独自コンセプトを掲げ、学校をモチーフに「長活き学校」という名前の会員組織を立ち上げています。会員は約800名にもなっており、さまざまな授業や活動を行っています。これはまだ構想の段階ですが、会員の声を生かしたシニア向け商品やサービスの開発ができないかと考えており、今後検討していきます。

また当行は、秋田の産業界が必要とする知見を持つ60歳以上のベテランを、全国から積極採用しています。アグリビジネスや風力発電の技術・制度、製造業の生産管理、都市部での販路開拓・マーケティングなどの分野で、現在8人が行内外へのアドバイザーとして活躍中ですが、今後も秋田とゆかりのある方々へのアプローチを続けていきます。

かつては、地方銀行が関わる人づくりといえば、「地域貢献意識の高い若手行員を育て、経験豊富で財務にも通じたミドルや退職後のシニアが、お取引先で経営をお手伝いする」ことが一般的な方法でした。しかし現在は人口減少の中、県内の至るところで人手不足が深刻化しており、人を送り出す立場だった私たち自身も例外ではない状況です。

そのため、当行としては、”人”に関する課題解決のお手伝いを「新たな本業」として捉え直し、これまでとは異なる形で、持続可能な人づくりの仕組みをつくり上げることが不可欠と考えています。

――人づくりを、新たな事業の柱に育てていくということですね。

新谷頭取 はい。特に中小企業にとって、優秀な人材の確保は競争力に直結する要素ですが、生産年齢人口の減少等によって地方では人手不足が深刻化しています。また、人口社会減を緩和するには、雇用の維持・確保が前提となります。

こうした課題の解決に向け、銀行業務の規制緩和も活用して人材紹介事業に参入しました。2020年、半導体メーカーの県内撤退にともなう大量離職発生に際し、当行独自のスキームを用いて従業員の方の再就職支援にあたり、その取り組みを評価いただき地方創生担当大臣から表彰もいただきました。

さらに2022年2月からは、地元のIT企業に協力していただき採用ポータルサイトを作り、銀行で運営を始めます。フォーカスするのは「新卒学生の県内就職」と「秋田出身女性のUターン就職」、そして「プロ人材のスキルシェアを通じた地域課題の解決」です。Uターンの成功事例紹介なども交えて秋田に留まりたい人・戻りたい人を応援し、社会減のペースを少しでも抑えたいと考えています。

隣県との協力を深め、お互いを強くする

――2021年10月に、お隣の岩手県を地盤とする株式会社岩手銀行との包括業務提携「秋田・岩手アライアンス」が発表されました。提携の狙いと内容について伺えますか。

新谷頭取 北東北の地方銀行3行(両行および株式会社青森銀行)は20年以上前から、ATMの相互開放や、取引先同士のビジネスマッチングなどで提携してきました。

長引く超低金利の中、各行は引き続き地域に根ざしながら新たな事業の領域を開拓し、より持続可能性の高いビジネスモデルへの転換を進めていかなくてはなりません。こうしたチャレンジにあたっては、他業種とのパートナーシップはもちろんですが、気心知れた仲間である近くの同業同士、これまで以上に掘り下げた議論をして知恵を出し合うことも大切です。

ごく簡単に言えば、「お互いの売上を増やし、コストを抑えるため、もう少し深いところまで入り込んで協力していこう」というのが、今回の提携の狙いです。

提携に関連して当行が取り組む詳しい内容や数値目標は、今後の会社説明会などの機会に発表しますが、先ほど申し上げたクリーンエネルギー関連やデジタル分野など、事業機会の拡大が見込まれる分野で協力を進め、収益面で成果を上げていきたいと考えています。

また、基幹系ホストコンピューターは既に共通のシステムを利用しているものの、付随的なシステムは、まだ独自のものが多く残っており、これらのシステムの統一にも一定の効果を見込んでいます。また、帳票類を揃えて事務処理を統一し、デジタル技術の活用を加速させていくことも重要です。

――これからも先進的な取り組みが、たびたびニュースになりそうですね。

新谷頭取 秋田には秋田の、岩手には岩手の文化や経済圏があり、それぞれのプレーヤーである地域金融機関がお互いを強くし、持続可能性を高めるため手を組むという狙いは、きっとご理解いただけることと思います。

銀行が事業として地域課題を解決していくというビジネスモデルは、地域のさらなる成長の実現に貢献できると信じています。自行も含めた地域全体の持続可能性を高める「地域共栄」の実現のため、これからも全部門を挙げて知恵を出していくつもりです。

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