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【茨城県】人と技術が共生する未来社会のために サイバニクス産業という新領域開拓に挑み続ける

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※この記事はJPX「新市場区分特設サイト」上で2022年3月24日に掲載した記事の再掲載です。

CYBERDYNE株式会社
代表取締役社長/CEO 山海嘉之

人と技術が共生する未来社会のために
サイバニクス産業という新領域開拓に挑み続ける
―茨城県― CYBERDYNE株式会社

世界初の装着型サイボーグ「HAL」の開発をはじめとする技術革新により、テクノロジーと人の共生を推進するCYBERDYNE株式会社。「サイバニクス」という人・AIロボット・情報系が融合複合した新領域の開拓に挑む山海嘉之博士が、筑波大学発ベンチャーとして2004年に設立しました。自分で身体を動かすのが難しい疾患を持つ人や高齢者などにその力を蘇らせるHALは、今では医療機器として世界各国に活躍の場を広げています。さらに同社の挑戦は、HALの開発に留まらず、テクノロジーが社会課題を解決する未来の創出までを見すえています。本企画では、代表取締役社長/CEOの山海嘉之さんに、HALがもたらす人と社会の未来、そして同社が目指すサイバニクス産業創出のビジョンについて伺いました。

有効な治療方法が確立していない難病の治験で治療結果を示した唯一の医療ロボットHAL

――御社の基幹製品・サービスでもあるHALについて教えてください。

山海社長 装着型サイボーグHALは、装着するだけで人をサイボーグ化し、脳神経系由来の生体電位信号を介して人とHALを一体的に機能させます。現在、医療用HAL下肢タイプにより人の身体機能を改善するサイバニクス治療が行われています。他にも、肘・膝・足首などの部位に装着する単関節タイプもあります。また、非医療用のHAL腰タイプでは、寝たきり予備軍の高齢者や障がい者が装着することで立ち座り・歩行機能の改善を促して自立支援を行なったり、工事現場等での重量物の運搬や介護施設での要介護者への介護の際に作業者が装着することで、腰部負荷を大きく低減し作業者の腰痛リスクを低減したりします。

すでに広く普及している義肢との違いは、脳→脊髄→運動神経→筋肉へと伝達される動作意思を反映した生体電位信号をHALが検出して身体を動作させ、これと同期して人体の感覚神経系の情報が筋紡垂→運動神経→脊髄→脳へと戻りながら、動作と神経系のループをリアルタイムで相互にフィードバックさせるインタラクティブ・バイオフィードバックのループが構成され、人と人工物であるHALが機能的に一体化することを実現している点にあります。人と人工物が融合し、装着するだけで人をサイボーグ化する技術は、人を支援する新たな医療技術として展開される世界初の科学技術・製品です。

――なるほど。サイバニクスで、人・AIロボット・情報技術と医療の融合がかなったわけですね。新医療機器としての承認にはご苦労もあったのではないでしょうか。

山海社長 そのとおりで、そもそもHALのような医療機器はこの世にありませんでした。医療機器化に向けては、まず国際標準化機構(ISO)の委員やエキスパートメンバーとなって規格の策定を働きかけることで、このような技術を医療・福祉・生活分野で使えるようにし、医療機器の承認を得るという離れ技をこなしました。さらに、臨床研究、治験を進めなければ、医療の現場には出ていけません。現状では有効な薬がないとされる進行性の神経筋難病疾患(SMA、ALS、筋ジストロフィーなど8疾患)に対して、ランダム化比較試験(RCT)として治験を実施しました。治験で治療効果、臨床安全を示したロボット医療機器は、世界ではHALだけです。こうしたプロセスを経て、新たな治療法「サイバニクス治療」として保険適用がかないました。

HALの治験の時期に登場したSMA(脊髄性筋萎縮症)に対する最新の核酸医薬品(スピンラザ)と比べても、HALは高い治療効果を示しています。しかしHALと薬剤では治療メカニズムが異なると考え、異分野の技術を組み合わせた相乗効果を生み出すことに着目し、この核酸医薬品を開発したバイオジェン社と当社でコラボイベントを行いました。今後は製薬会社とともに新しい複合治療にも取り組んでいきたいと考えています。

日本発の技術を世界標準に

――HALはすでに世界でも利用されていますね。

山海社長 HALの開発をスタートしたときから、世界標準を目指すという思いを持っていました。日本で誕生した新しい医療機器が国際規格を作りながら世界展開を実現したという事例はほかには存在しませんでしたが、その第1号を目指したのです。日本で先に展開して日本では成功したとしても、その後世界で成功を収めグローバルスタンダードを確立した他の商材に敗れてしまうというのは、医療分野以外でもよくある話ですが、そうなってはならないと考えていたからです。

HALのグローバルスタンダード化・プラットフォーム化が進んでいます。日本では進行性の神経筋難病疾患での医療機器化に取り組みましたが、ドイツの協力を得て、一足先にヨーロッパ全域で脊髄損傷、脳卒中に対して医療機器として承認されました。アジアではマレーシアが国を挙げて周辺国への普及も含め推進してくれており、アメリカでも米国食品医薬品局(FDA)から医療機器承認されるなど、現在、世界20ヵ国で、医療用HALによるサイバニクス治療のプラットフォーム化が進んでいます。さらに、西海岸に16の医療施設を持っている医療法人をM&Aで子会社化し、当社自ら医療施設を保有する形で新たな医療技術の社会実装を加速しています。

――難病以外の患者も利用できますか。

山海社長 日本の場合、8つの指定難病にはHALによる治療が保険適用されていますが、包括医療費支払制度(DPC)が適用される一般の入院患者には保険が適用されておらず、現時点(2022年1月28日のインタビュー時点)では難病患者の治療機会が失われている状況です(補足:2022年4月からの診療報酬の改定により、入院の難病患者にもHALによる治療が保険適用対象となる)。一方で退院した方々は、非医療用HALによるサービスを、現在全国16拠点にあるロボケアセンターで利用できます。またコロナ禍でなかなか病院に行けなくなった自宅療養のかたを対象に、サイバーダイン・クラウドを介して、自宅で「Neuro HALFIT」という個人向けレンタルサービスも始めています。

つくばから新たな学術・産業をひらく

――筑波大学での研究領域である「サイバニクス」とは、どのようなものなのでしょうか。また、御社設立の経緯をお聞かせください。

山海社長 サイバニクスとは、人・AIロボット・情報系を融合した新学術領域で、医学、工学、人工知能、情報学、心理学、倫理学、哲学といった様々な分野が融合されています。学術の世界では、よく基礎領域と応用領域という切り分け方をすることがありますが、基礎や応用といった概念に縛られると、学術は停滞するのではないかと考えています。大学では教育の効率化のため縦割りが進みましたが、私は新領域の開拓のため、旧来の専門分野を超えて共に難問を突破してくれる開拓型の学者、研究者と「サイバニクス」を創成しました。私が学生時代にはロボット産業はありませんでしたし、パソコンも当時はホビー用と研究用がメインでIT産業にはなっていませんでした。これらは、旧来の学術から生まれたものではありません。サイバニクスは、まさに、次世代産業と位置付けられるものです。ロボット産業、IT産業の次には新産業「サイバニクス産業」の時代が来るでしょう。今、大学におけるサイバニクスは、最も強化する新学術領域として文科省からも選ばれ、さらに大学院改革の学術軸としても役割を果たしており、新領域の開拓を担う人材育成も活発化しています。

ただ、新領域の開拓が始まっても、ロボット産業、IT産業のように産業となるには時間がかかります。研究分野の人材育成を行なっても、黎明期では活躍できる場がないというのが実情です。新領域の開拓に挑戦すればするほど、そこで博士号を取った人が活きる職場がなく、就職した場所では分野を変えて別の仕事をしなくてはならなくなります。そこで、新領域の若手の開拓者育成しながら、開拓してきた世界最先端の革新的な成果を産業化し、基礎と実際を同時展開しながら活躍できる場(会社)が必要だと考えました。これがCYBERDYNEを設立した経緯です。躍動感があり、未来開拓に挑戦する人材が、新産業創出に挑戦し続ける場であり、その成果が基礎学術の創生へとつながっていくのです。

――大学は基礎研究の場、企業では実用化を進めるというイメージがありますが、その固定概念を打ち破ったということでしょうか。

山海社長 はい、基礎と応用は同時展開されているということを説明しておきたいと思います。学術の世界では、よく基礎領域と応用領域という切り分け方をすることがありますが、この区分はあまり意味がないと考えています。顕微鏡を改良し続けたオランダのレーウェンフックは、基礎領域、それとも応用領域の人でしょうか。彼は微生物学の父とされていますが、その取り組みの動機は小さいものを大きく見てみたいという純粋な好奇心でした。顕微鏡を自ら高度化・実用化し続けることで、微生物学という新領域の基礎学術が生まれ、生物学全体も発展し、さらにバイオ系産業へと繋がっていったのです。

基礎や応用といった概念に縛られると、学術は停滞するかもしれません。大学では教育の効率化のため縦割りが進み過ぎたようにも思います。私が関わっている開拓型の学者、研究者は、旧来の専門分野を超えて難問を突破しています。新領域の開拓なので当たり前かもしれません。文部科学省にも説明して教育改革を唱えてきましたが、筑波大学をはじめ新しい大学院づくりにも貢献できたと思います。

――茨城県つくば市は日本最大の学術・研究都市です。筑波大学はもちろんですが、その外でも新産業創出の取り組みが広がっているようですね。

山海社長 基礎研究と社会実装を同時展開しながら新領域開拓・新産業創出を推進するサイバーダイン社のイノベーション創出への取り組みを文科省が着目し、地域全域の研究機関の成果の出口戦略としてこの仕組みを用いることになりました。その事業プロデューサーを5年にわたり委託され、つくばにおける基礎研究の拠点である国立研究開発法人物質・材料研究機構(NIMS)や筑波大学などの成果の産業化を支援してきました。

日本では、5年という期間で打ち切られるプログラムばかりで、期限が来ると何もかもが終了し、投入した公的資金や労力がぶつ切り状態で途絶えてしまうことが当たり前で、これでは後押しされ挑戦を始めた研究者やスタートアップのメンバーは挫けてしまいます。そこで、研究者やスタートアップのメンバーから要望があれば、技術移転したりイグジットしたり上場できるように支援を続けています。さらにサイバニクス産業を中心とした新産業創出と連動できるよう工夫しながら、当社が進めてきたC-Startupを含むサイバーダイン・イノベーションエコシステムの強化にも取り組んでいます。

イノベーション・エコシステムにより新産業を創出

――御社はHAL以外の製品開発にも積極的です。

山海社長 超小型バイタルセンサー「Cyvis(サイビス)」も近々登場します。これは1台で心臓、脳の活動、体温、酸素飽和度、身体の活動量が連続計測できるデバイスです。オプションで睡眠時無呼吸症候群のチェックができるので、職業ドライバーが働く業界への展開も予定されています。また就寝中の睡眠状態のチェックを行うアプリ(320万ダウンロード)の会社もM&Aによりサイバーダイン・グループとして活動することになり、日常的なスクリーニングを行います。医療用/非医療用のHALに加えて、Cyvisもアプリも加わり、これらがサイバーダイン・クラウドシステムと繋がって機能することにより、病院と自宅が繋がって、予防医療、早期発見、健康管理、機能改善を日常化する「サイバニクス医療健康ケアシステム」が動き始めています。コロナ禍の中で、遠隔で病院と自宅が繋がった地域・広域包括医療健康ケアが実現するのです。

また、光音響イメージング装置「Acoustic X」は造影剤なしで150~200ミクロンの血管内の血流と3次元血管画像を可視化する世界最先端の技術であり、ケンブリッジ大学など世界トップの大学の医学系との共同研究を進めながら、集団検診としても専門医療技術としても利用できるよう医療機器化を急ピッチで進めています。また、当社の除菌・清掃ロボット「CL02」は、空港やショッピングセンターやオフィスビルで利用されています。これも同様に、サイバーダイン・クラウドと連動しており、IoH/IoT(ヒトとモノのインターネット)によって集積したビッグデータの解析・AI処理による新たなサービスを展開していこうと考えています。

――サイバニクス領域のさらなる発展という観点も踏まえて、今後の経営方針をお聞かせください。

山海社長 サイバニクスという新しい領域の市場をつくり出しながら事業を進め、人とテクノロジーが共生し相互に支え合う「テクノ・ピアサポート社会」を創造していくことが当社の使命です。

サイバニクス産業をさらに発展させるためには、その仲間づくりも重要となります。そこで、C-Startupという考え方のもと、スタートアップ企業にCEJファンド(子会社のCEJキャピタルが運用する100億円規模のファンド)を通じた資金供給のほか、技術アドバイスや事業支援を行い、成長をサポートしています。そして、他の企業や異なる産業分野とも連動するための拠点として、今春、川崎市キングスカイフロント内に、「サイバニクス医療イノベーションベース」が完成予定です。ここでは、医療・バイオ系、ビッグデータ、AI・ロボット化にフォーカスし、『人』+『サイバー・フィジカル空間』が融合したサイバニクス産業を推進する企業に集まってもらいます。

このようにして、多くの仲間と「共創の場」を形成し、新市場・新産業の開拓に向けて、バックキャストさせながら、革新技術の創出・人材育成・事業推進を同時展開し、C-Startup、CEJファンドとも連携することで、サイバーダイン方式のイノベーション・エコシステムを回していきます。サイバニクス産業の成長を加速させるフレームワークとして機能させ、人や社会のための産業づくり・未来開拓のために、サイバニクス産業の創出を通して、さらなる成長と社会への貢献を実現していきたいと考えています。

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