東証市場再編

市場関係者メッセージ

日本の産業創出における新興市場が果たす役割

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※この記事はJPX「新市場区分特設サイト」上で2021年12月29日に掲載した記事の再掲載です。

高宮慎一
グロービス・キャピタル・パートナーズ 代表パートナー

2021年も年の瀬を迎えているが、日本のスタートアップ・エコシステムは未だかつてないほどの活況を呈している。日本初のユニコーン(時価総額1,000億円を超える未上場スタートアップ)であるメルカリが2018年に上場してから、わずか3年の間に上場時の初値で時価総額1,000億円を超える企業は10社以上も登場している。また、2021年のIPO数は136社に至ると見込まれ、2009年の19社と比べると隔世の感がある。さらに、そのうちマザーズは94社となっており、設立以来最多となっている。

かつて、1990年代以前「起業」は、ともすると「脱サラ」や「個人で借金を背負うリスクがある」といった後ろめたいイメージがあり、ドロップアウトのようにも見られてしまうこともあった。それが今や起業家は新しい産業、急成長するスタートアップの担い手として若者のヒーローとなり、スタートアップはもはや「クール」なイメージとなっている。

米国シリコンバレーから遅れること30年余り、2000年代にビットバレー運動とともに産声を上げた日本のスタートアップ業界は、現在スタートアップの質、量ともに、大きく飛躍している。ビットバレーで学生時代を過ごした76世代は日本を代表するテック企業を作り上げ、今やエンジェル投資家や後進のメンターとなり起業家を育成している。

1周目を終えた起業家の中には経験を活かして、さらなる大勝負をかけるべくシリアルアントレプレナーになったり、次世代のスタートアップの経営幹部となったりする者も出てきている。また、もはや大きく成長したテック企業となったかつてのスタートアップの中からは、スタートアップ的な急成長や経営の経験を積んだキーマンが、今度は自らが起業をするケースも増えている。さらには、日本を代表するような大企業、投資銀行やコンサルティングなどのプロフェッショナル・ファーム、GAFAMなどのグローバル・テック企業、そして有名大学からの優秀な新卒もスタートアップ業界を志すようになっている。

このように優秀な人材がスタートアップに参画してくると、投資家からの資金流入はさらに大きくなる。2012年に375億円にまで低迷していた国内VCのファンド組成額は、2021年には9,000億円を超えると目されるまでになっている。その資金をもとにスタートアップは大きく成長し、投資家にリターンを生み出し、そのリターンが再投資されるという、正のスパイラルが回りだし、日本のスタートアップ・エコシステムは、大きく進化を遂げている。

このエコシステムの発展は、日本の柔軟で、開かれた株式市場に負うところも大きい。店頭市場しかなかった時代から、1999年にマザーズが設立されると、成長企業が市場で取引されるようになった。マザーズは、世界的にみても比較的小さな時価総額で上場ができる点でユニークだ。

2000年代以前ベンチャーキャピタル業界の懐が浅く未上場で10億円調達することですら困難だった時代においては、ミドルステージ以降の資金調達の貴重な供給源として、第一世代、第二世代の日本のスタートアップが日本の主要テック企業となることを支えてきた。また、2010年代後半以降は、メルカリに象徴されるように時価総額1000億円を超えるようなスタートアップのIPOの受け皿にもなってきた。小さく上場して上場時に調達した資金で更なる成長を目指すことも可能、未上場の間に大きく成長してから上場し、株式市場ならではの大型調達をすることも可能、日本のスタートアップにとって資金調達上、事業戦略上の選択肢を増やしている。

加えて、香港やシンガポールなどのアジアの新興市場と比べても合計時価総額、流動性ともに大きく勝っており、先進国の主要新興市場とも比肩する。スタートアップの資金調達のインフラとして、またスタートアップへの投資家の出口として、日本のスタートアップが世界レベルで戦う上でアドバンテージとなっている。

私が運営するベンチャーキャピタルファンドでは、海外の機関投資家からも資金を投資していただいている。実際に海外から資金を集める上で、日本がホームマーケットとしてマザーズを抱える優位性は大いに評価されており、日本のスタートアップ・エコシステムに海外資金を呼びこむことも後押ししている。

そして、2022年4月から第二幕として新市場区分へと移行する。日本の株式市場、特に新興市場たるグロースの発展と、日本の産業育成への更なる貢献を期待している。上場基準の明確化は、市場の健全な新陳代謝を促し、投資家にとって魅力的な市場であり続けることを担保する。さらに、プライム、スタンダード、グロースと各市場のコンセプトが明確になることで、投資家はアセットアロケーションをしやすくなる。

流動株式の定義の明確化は、株式持ち合いによるガバナンスの形骸化を防止し、時を同じくして改訂されたコーポレートガバナンス・コードとともに、日本の株式市場の透明性を増し、より多くの海外投資家を呼び込むだろう。新市場区分は、日本のスタートアップ・エコシステムに新たな資金を呼び込み、新産業の創出、育成を大きく推進する。

新市場区分の導入によって、親世代の資金で子世代の新産業を創出し、海外からの資金をレバレッジして日本の産業を育てるという、日本のスタートアップ・エコシステムの新たな拡大サイクルが回りだすと大いに期待している。

高宮慎一
グロービス・キャピタル・パートナーズ 代表パートナー

1グロービス・キャピタル・パートナーズ(GCP)ではデジタルおよびヘルスケア領域の投資を担当。社外役員として参画し、投資先の成長をハンズオンで支援。『Forbes Japan Midas List 日本で最も影響力のあるベンチャー投資家ランキング』2018年1位、2015年7位、2020年10位。
アーサー・D・リトルを経てGCP参画。東京大学経済学部、ハーバードMBA卒。

実績/支援先:
実績には、IPOにアイスタイル、オークファン、カヤック、ピクスタ、メルカリ、ランサーズ、M&Aにしまうまプリントシステム(CCCグループ入り)、ナナピ(KDDIグループ入り)、クービック(heyグループ入り)などがある。現在支援先には、ビーバー、タイマーズ、ミラティブ、ファストドクター、グラシア、アル、MyDearest、want.jpなどがある。

用語解説

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