東証市場再編

市場関係者メッセージ

グロース市場を基盤として日本のスタートアップを海外へ

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※この記事はJPX「新市場区分特設サイト」上で2022年3月3日に掲載した記事の再掲載です。

百合本安彦
グローバル・ブレイン株式会社 代表取締役社長

――ご経歴や貴社の事業概要について、簡単にご紹介ください。

百合本氏 私は(現在の)みずほ銀行出身で、1998年にグローバルブレインを創業し、2001年にベンチャーキャピタル(VC)業務を開始しました。これまでの当社の運用残高は1800億円を超え、50数名のベンチャーキャピタリストが在籍しています。拠点としては海外を含め8拠点を有しており、今年はバンガロールとベルリンにも進出して合計10拠点へと拡大する予定です。

投資先の割合としては、だいたい国内6割、海外4割となっています。また、昨年は125件の投資を実行し、投資数でみるとグローバルで見てもTOP3にランクインしました。将来的には日本発のグローバルトップのVCを目指しています。※自社調べ

――近年のスタートアップの資金調達環境について、ご所感をお聞かせください。

百合本氏 2020年からコロナの拡大が始まったときは全世界的にリスク回避の流れが瞬間的に生じましたが、その後すぐに回復し、2021年が終わってみるとVCの投資金額は増加傾向にあります。特に、現在は、良い会社にたくさんの資金が集まる傾向にあります。

2021年まではマーケット環境は右肩上がりでしたが、足元では米国の金融引き締めの影響もあり、悪化しつつあると感じています。現在はまさに転換期に入ったところで、「これまでの10年」と「これからの10年」は環境が変わると考えています。

現在、海外でも資金調達が難しくなりつつあり、日本にもじきにその波が来るだろうと考えられますので、VCとしても気を引き締める必要があると思っています。

――スタートアップの活性化のために、取引所が果たすべき役割は何でしょうか。

百合本氏 上場におけるクオリティの担保が最も重要な問題だと考えています。1999年のマザーズ設立以降、資本市場の入り口として、またメルカリの様なユニコーン企業の上場先として、日本のスタートアップ創出や育成の観点から大きな役割を担ってきたのがマザーズ市場だと思っています。世界的に見ても上場基準のハードルが低く、チャレンジの行いやすい東証マザーズの功績は、資本市場の歴史のなかでも大きいと思っていまして、実際に上場する会社が安定して増えてきているのも事実です。

反面、課題としては流動性だと思っています。ぜひグロース市場に機関投資家が積極的に入るような市場になってほしいと感じています。実態をみると、これまでのマザーズ及びJASDAQの売買のメインプレーヤーは個人投資家であり、IPOのタイミングでは流動性が大きくなるものの、上場後1年を過ぎるころにはほとんどの企業の流動性がなくなってしまい、本来の目的である資本市場の活用を行えていません。このグロース市場の流動性向上がカギだと思います。

今回の市場再編により、上場維持基準に流通株式時価総額も設定されておりますが、未上場での大型の調達が可能になってきた近年、グロース市場をより魅力のある投資家の参加しやすい市場にするべく、取引所だけではなく、発行体、証券会社、株主一体となってこの問題に取り組む必要があると考えています。

――そのほか、スタートアップ創出・育成の観点から、日本における課題があればお教えください。

百合本氏 エコシステムが成長してきたことで、次は種類株上場や資金使途の柔軟性(3年以上先の必要資金の調達や使途としてのM&A費用等)の確保等、スタートアップの成長に有用と考えられる事項への柔軟な対応が課題として挙げられると考えています。

特に個人投資家保護の観点から現在規制がかかっている事項に関して、グロース市場に限って柔軟な対応が可能かを検討いただくことによって、日本のスタートアップ・エコシステムが更に次の段階に成長できる可能性があると考えています。

――海外と比べて日本はスモールIPOが多くユニコーン企業が少ないと言われておりますが、そのことについてどのようにご覧になっていますか。

百合本氏 スモールIPOが多いとしても上場後に株価が上がってユニコーン級になる会社も多くあるので、スモールIPOそれ自体を否定すべきではないと考えています。まだまだ未上場企業への資金供給が十分ではなかった時代に、マザーズ市場を活用し「小さく出て、大きく成長する」という上場がスタートアップの目指すべき道だったと思います。実際に時価総額数十億円から100億円規模で上場し、数千億円規模まで大きくなった企業が多数存在しています。その点で投資家としても、小さく上場して上場時に調達した資金で更なる成長を目指す企業への理解が相当程度進んでいると理解しています。

その一方でユニコーン企業として市場に出るという選択肢も尊重すべきですが、ユニコーン企業による上場数はまだまだ少数です。上場時の時価総額の妥当性や成長ストーリー、海外戦略などの成功事例が積みあがりきっていない段階です。例えば、マザーズに上場したメルカリの場合は米国でのビジネスが育っていなかったために赤字上場となりましたが、その米国でのビジネスもいま現在では黒字になっています。

今後、既に上場をしているユニコーン企業の成功事例の積み上がり、未上場市場の成熟が複合的に混ざり合い、日本においてもユニコーン企業の出現が増え、日本のスタートアップが盛り上がっていくと考えています。

私たちグローバル・ブレインはミッションとして「日本のスタートアップを海外に」を掲げています。そういったなかで、いまの我々の実績として、それが体現できているのは、マザーズに上場したメルカリくらいです。時価総額が小さい上場であってもユニコーン企業としての上場であっても、その後マーケットで大きく成長し、海外に進出するようなスタートアップを増やしたいと考えています。これは日本のスタートアップ・エコシステム全体の課題でもあるので、関係者間でしっかり議論し、日本のエコシステム全体でこの課題に対して対応を進めていきたいと思っています。

――最後に、2022年4月4日に始まる「グロース市場」に対するご期待を伺えますでしょうか。

百合本氏 新市場区分の「グロース市場」には大きな期待感を持っています。マザーズからグロース市場へと変わったことで、市場のコンセプトが改めて明確になってきたと思っています。特徴として、上場の間口の広さを継承しつつも、投資家との対話がより重視されるようになった印象があります。今後はグロース市場を活用してグローバルに出ていく会社が出てくると思います。

また、スタートアップ企業の赤字上場は今後さらに増えてくると思うので、発行体と投資家の対話が重要になってくると感じています。「事業計画及び成長可能性に関する事項」の開示が制度化され、発行体と投資家の共通言語ができたので、双方のコミュニケーションは円滑化されると感じています。

さらに、これまでのマザーズから市場第一部への市場変更時に適用されていた優遇基準がなくなったので、今後はスタートアップにも上場企業としての真価がさらに強く問われることになるのではないでしょうか。TOPIXの採用銘柄に選ばれることはスタートアップにとっては夢なので、多くのグロース市場に上場したスタートアップには、ぜひプライム市場を目指してほしいと思っています。

百合本安彦
グローバル・ブレイン株式会社 代表取締役社長

富士銀行(みずほ銀行)、シティバンク・エヌ・エイ企画担当バイスプレジデントを経てグローバル・ブレイン株式会社を設立し、代表取締役社長に就任、現在に至る。
自ら起業し、ネットバブル、リーマンショックを乗り越え、日本を代表するVCに育ててきた経営者としての経験を活かし、スタートアップ企業経営者の良きアドバイサーになっている。

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